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セフ令嬢の知らない裏側 ハッシュside②
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貴族女性であるミュリアと秘密の交際を続けて一年半。
俺はミュリアに変な噂がたたないよう細心の注意を払いつつ、彼女との未来を模索していた。
貴族であるミュリアと結婚する為には、
俺が騎士爵を得るほど出世するかミュリアが貴族籍から外れて平民になるか、そのどちらかだ。
貴族籍を抜くのには父親の同意が必要で、彼女の父親を説き伏せる為にもどのみち出世するのが早道だと思った。
その為にがむしゃらに任務に就いた。
皆が嫌がる夜番や夜警にも積極的に志願し、危険な任地にも何度も赴いた。
その中で王宮騎士団第二師団副師団長であるローベル卿(27)の目に止まり、気に入られた。
そして卿に引き上げられ、卿が直接的に差配を振るう小隊への配属となったのだ。
騎士団の暗部とも捉えられるローベル小隊は危険な特殊任務が多く、命の危機に晒される状況に追い込まれる事も多々あった。
だが武勲や手柄を立てて出世するには一番の近道であるのは間違いない。
ある時、酒の席でローベル卿本人に聞かれた。
「何故そのように必死に任に就く?いや温い仕事ではないのだから必死になるのは当然だが、お前だけは他の者と身の置き方が違うような気がしてな。それで気になっていたのだ。出世が望みか?」
「そうですね。どうしても欲しいものがあって、それを手に入れる為に俺は出世する必要があるのです」
「ほう?」
俺のその答えに、ローベル卿は興味深そうに身を乗り出してきた。
他の隊員は無礼講だと大騒ぎしている。
今は卿とサシで呑んでいる状態だ。
ローベル卿は貴族でありながら現場に立ち、直接指揮を執られるお方だ。
その為人は数多くの死線を共にしてよく理解しているつもりだった。
だから俺は思い切ってミュリアとの事を打ち明けた。
すると卿はますます面白そうな顔をして俺に言う。
「いつもの気概は女のためだったのか。いや良いな、俺はそういうの嫌いじゃない。しかし言ってはなんだがお前が出世して騎士爵を賜るのを待つよりも、相手の貴族令嬢を貴族籍から抜く方が早いと思うぞ?戦時中ならともかく、武勲を立てて叙爵するにはかなりの年月が必要となるだろう。お前、そんなに待てるのか?その前に相手も結婚してしまうかもしれないぞ」
「それは……俺も分かっています。しかし彼女を貴族籍から外すなんて、それこそ一介の平民騎士には無理な話です」
俺がそう答えると、ローベル卿は笑みを浮かべた。
それはいつもの気さくな卿のそれではない。何やら策を講じたような、思惑を含んだ笑みだった。
「……お前の度胸と機転と剣の腕、そして加えて命の重さを分かっているところを俺は買っているんだ。部下としてとても得難いものだと思っている」
「ありがとう、ございます……?」
「その、疑り深いところも気に入ってるぞ。そこでだ。お前が一生、国だけでなく俺に忠誠を誓うというのならお前の力になってやろう」
「……お断り申し上げます」
「ほう!」
本来なら一も二もなく飛びつきたい申し出だ。
ローベル卿は王宮騎士団の次世代のトップと謳われているお方。
そのお方が後ろ盾となってくれるなら、オルライト男爵如きは屁でもなくなる。
しかし上手い話には必ずといっていいほど裏がある。
美味しいところだけを享受出来る筈などないのだ。
俺自身が家畜のようにこき使われるだけなら全く問題はない。
しかしその見返りが俺の大切な人たちにも求められたら?
その時俺はその大切な……ミュリアと母親を守り通せるのか?
楽をする為に選んだ近道が平坦であるとは限らないのだ。
むしろ楽をした分、悪路を進まされる可能性が高いだろう。
その俺の考えがどうやら全てお見通しだったらしい、ローベル卿は更に人の悪い笑みを浮かべてこう言った。
「いかん、ますますお前が欲しくなった。目先の人参に飛びつくような浅慮な人間は要らん。そんな奴は簡単に他の人参に飛びついて裏切る。だからこそ俺は信じるに値する人材が欲しいのだ。しかしこの場合、信用を得るために努力するのは俺の方だな」
「ローベル卿……」
「分かった。見返りは求めん、その上でローベルの名を貸してやる。そして人と知恵も貸してやろう。それで後は自力でなんとかしてみろ。そうして今後もこのまま俺の小隊で働き、いつか俺を信じても良いと思ったら、その時は俺の剣となってくれ。俺を信用出来ないのなら、そのまま一介の騎士でいればいいだけの話だ。それならば良いだろう?」
そう言って卿はグラスの酒を呑み干し、豪快に笑った。
卿、やめて下さい。
既に俺の心がトゥンクしてやがりますから。
こうして俺はローベル卿の提案にとりあえず乗る事にした。
卿のアドバイス通りに動き、その時を待つ。
約束通りローベル卿はオルライト男爵家に使者を立ててくれた。
使者の口上は二つ、ローベル伯爵直属の部下との婚姻の申し込み。
そしてその為に息女ミュリアの貴族籍からの除籍を求める事だ。
ローベル伯爵の直属の部下との婚姻となれば、伯爵との繋がりが出来る。
これはオルライト男爵にとっては是が非にでも受けたいところだろう。
しかしその相手の騎士が平民で、その平民騎士と婚姻を結ぶ為に娘を除籍するとなると、男爵にとって利を得るところはひとつもない訳だ。
除籍した娘はもはや他人。
元々親子関係が希薄な父と娘だ、除籍してしまえばローベル伯爵家との繋がりなど望めず何の得にもならないのだ。
それをあの利己的で身勝手な男爵が認めるとは思えない。
しかも持参金無しで体よく厄介払い出来る嫁ぎ先をもう決めてやがった。
祖父と孫娘というほど歳の離れた老子爵との婚姻。
どう考えても介護のためじゃないか。
既に貴族院に婚姻申請書まで出しているという。
……それに対し、ローベル卿はぽつりと呟いた。
「そういう書類って、審議が終わり受理される前に紛失してしまう事がたまにあるそうだぞ?あぁ残念だなあ。提出した筈の書類が無ければ、婚姻は認められないだろうなぁ」
「…………」
やりますよ。
やってやりますよ。
卿にしてみれば、俺が裏の仕事も出来るかどうかの判断材料にもなって丁度良いとか思っているんでしょう?
他ならぬミュリアためなら、裏でだろうが表でだろうが何だってやってやる。
と、いう訳で地方での任務がほぼ終わりかけの頃、俺は人知れず王都に戻り、貴族院に忍び込んだ。
そして件の書類を持ち出し、秘密裏に廃棄したのだった。
よし、これで後は俺が男爵と…ミュリアの父親と話をつけるだけの段階となった。
あのクソ親父を頷かせるだけの材料は揃えてある。
だけどその前にミュリアの意思を知りたい。
俺との結婚を望まないならそれでもいい。
(本当は嫌だが……)
貴族籍から抜けたミュリアが自由に生きられるなら、
それだけで満足する。……ようにする。
父親とは縁を切りたいが貴族として生きたいというならそれも良し。
俺はミュリアの望むようにしてやりたい。
ただ……そのミュリアの側に居させて貰えるならそれだけでもう、他には何も望まない。
願わくばミュリアと結婚して幸せな家庭を築きたい、それに尽きるが。
彼女を愛して幸せに幸せに、そして幸せにする。
それが俺の望みだが、ミュリアには彼女が一番に望む人生を送って欲しいのだ。
あの日俺の心を救ってくれた彼女が幸せになる事が、俺の一番の目的だから。
だからミュリアに会いに行ったのに、
彼女は突然旅に出たと母親が言う。
「な、何故だ……?そんな突然、何かあったのか?」
狼狽える俺に母が半目のジト目を向けてきた。
「何故だ、という事はないんじゃないのこのバカちんが」
「え?どういう事だよ」
「さぁ?自分で考えなさ~い☆」
母のすっとぼけた態度が鼻につく、が、今はそんな事を言っている場合ではない。
ミュリアを探して見つけ出さねば。
ますは長距離馬車のターミナル駅か。
まさか徒で王都を出る事はないと思うが……。
とにかくすぐに動かねば、後を辿れなくなってしまう。
「じゃあ母さん、悪いけど急ぐからまたっ」
母親にそう告げて俺は母の家を飛び出した。
「はいは~い☆まぁせいぜい頑張って駆けずり周りなさ~い♡」
見送りながら母がそう言った後、さらにポツリと「灯台もと暮らしだったりするけどね☆」と言っていたのは、
俺の耳には届かなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
もう一人のヒロインハッシュ。
無事にミュリアを見つけ出し、誤解を解く事が出来るのか?
あと二話で最終話です。
あ、補足ですが、ローベル伯爵の父親は王弟である公爵様です。
彼はその公爵様の次男坊。
じつは王位継承権第四位のお方なのです。
そんな彼の目指すものは風通しのよい新しい国作り。
もしかして数年後にはクーデターを起こしたりして?
それはまたきっと別のお話。
(書く事はないと思います☆)
俺はミュリアに変な噂がたたないよう細心の注意を払いつつ、彼女との未来を模索していた。
貴族であるミュリアと結婚する為には、
俺が騎士爵を得るほど出世するかミュリアが貴族籍から外れて平民になるか、そのどちらかだ。
貴族籍を抜くのには父親の同意が必要で、彼女の父親を説き伏せる為にもどのみち出世するのが早道だと思った。
その為にがむしゃらに任務に就いた。
皆が嫌がる夜番や夜警にも積極的に志願し、危険な任地にも何度も赴いた。
その中で王宮騎士団第二師団副師団長であるローベル卿(27)の目に止まり、気に入られた。
そして卿に引き上げられ、卿が直接的に差配を振るう小隊への配属となったのだ。
騎士団の暗部とも捉えられるローベル小隊は危険な特殊任務が多く、命の危機に晒される状況に追い込まれる事も多々あった。
だが武勲や手柄を立てて出世するには一番の近道であるのは間違いない。
ある時、酒の席でローベル卿本人に聞かれた。
「何故そのように必死に任に就く?いや温い仕事ではないのだから必死になるのは当然だが、お前だけは他の者と身の置き方が違うような気がしてな。それで気になっていたのだ。出世が望みか?」
「そうですね。どうしても欲しいものがあって、それを手に入れる為に俺は出世する必要があるのです」
「ほう?」
俺のその答えに、ローベル卿は興味深そうに身を乗り出してきた。
他の隊員は無礼講だと大騒ぎしている。
今は卿とサシで呑んでいる状態だ。
ローベル卿は貴族でありながら現場に立ち、直接指揮を執られるお方だ。
その為人は数多くの死線を共にしてよく理解しているつもりだった。
だから俺は思い切ってミュリアとの事を打ち明けた。
すると卿はますます面白そうな顔をして俺に言う。
「いつもの気概は女のためだったのか。いや良いな、俺はそういうの嫌いじゃない。しかし言ってはなんだがお前が出世して騎士爵を賜るのを待つよりも、相手の貴族令嬢を貴族籍から抜く方が早いと思うぞ?戦時中ならともかく、武勲を立てて叙爵するにはかなりの年月が必要となるだろう。お前、そんなに待てるのか?その前に相手も結婚してしまうかもしれないぞ」
「それは……俺も分かっています。しかし彼女を貴族籍から外すなんて、それこそ一介の平民騎士には無理な話です」
俺がそう答えると、ローベル卿は笑みを浮かべた。
それはいつもの気さくな卿のそれではない。何やら策を講じたような、思惑を含んだ笑みだった。
「……お前の度胸と機転と剣の腕、そして加えて命の重さを分かっているところを俺は買っているんだ。部下としてとても得難いものだと思っている」
「ありがとう、ございます……?」
「その、疑り深いところも気に入ってるぞ。そこでだ。お前が一生、国だけでなく俺に忠誠を誓うというのならお前の力になってやろう」
「……お断り申し上げます」
「ほう!」
本来なら一も二もなく飛びつきたい申し出だ。
ローベル卿は王宮騎士団の次世代のトップと謳われているお方。
そのお方が後ろ盾となってくれるなら、オルライト男爵如きは屁でもなくなる。
しかし上手い話には必ずといっていいほど裏がある。
美味しいところだけを享受出来る筈などないのだ。
俺自身が家畜のようにこき使われるだけなら全く問題はない。
しかしその見返りが俺の大切な人たちにも求められたら?
その時俺はその大切な……ミュリアと母親を守り通せるのか?
楽をする為に選んだ近道が平坦であるとは限らないのだ。
むしろ楽をした分、悪路を進まされる可能性が高いだろう。
その俺の考えがどうやら全てお見通しだったらしい、ローベル卿は更に人の悪い笑みを浮かべてこう言った。
「いかん、ますますお前が欲しくなった。目先の人参に飛びつくような浅慮な人間は要らん。そんな奴は簡単に他の人参に飛びついて裏切る。だからこそ俺は信じるに値する人材が欲しいのだ。しかしこの場合、信用を得るために努力するのは俺の方だな」
「ローベル卿……」
「分かった。見返りは求めん、その上でローベルの名を貸してやる。そして人と知恵も貸してやろう。それで後は自力でなんとかしてみろ。そうして今後もこのまま俺の小隊で働き、いつか俺を信じても良いと思ったら、その時は俺の剣となってくれ。俺を信用出来ないのなら、そのまま一介の騎士でいればいいだけの話だ。それならば良いだろう?」
そう言って卿はグラスの酒を呑み干し、豪快に笑った。
卿、やめて下さい。
既に俺の心がトゥンクしてやがりますから。
こうして俺はローベル卿の提案にとりあえず乗る事にした。
卿のアドバイス通りに動き、その時を待つ。
約束通りローベル卿はオルライト男爵家に使者を立ててくれた。
使者の口上は二つ、ローベル伯爵直属の部下との婚姻の申し込み。
そしてその為に息女ミュリアの貴族籍からの除籍を求める事だ。
ローベル伯爵の直属の部下との婚姻となれば、伯爵との繋がりが出来る。
これはオルライト男爵にとっては是が非にでも受けたいところだろう。
しかしその相手の騎士が平民で、その平民騎士と婚姻を結ぶ為に娘を除籍するとなると、男爵にとって利を得るところはひとつもない訳だ。
除籍した娘はもはや他人。
元々親子関係が希薄な父と娘だ、除籍してしまえばローベル伯爵家との繋がりなど望めず何の得にもならないのだ。
それをあの利己的で身勝手な男爵が認めるとは思えない。
しかも持参金無しで体よく厄介払い出来る嫁ぎ先をもう決めてやがった。
祖父と孫娘というほど歳の離れた老子爵との婚姻。
どう考えても介護のためじゃないか。
既に貴族院に婚姻申請書まで出しているという。
……それに対し、ローベル卿はぽつりと呟いた。
「そういう書類って、審議が終わり受理される前に紛失してしまう事がたまにあるそうだぞ?あぁ残念だなあ。提出した筈の書類が無ければ、婚姻は認められないだろうなぁ」
「…………」
やりますよ。
やってやりますよ。
卿にしてみれば、俺が裏の仕事も出来るかどうかの判断材料にもなって丁度良いとか思っているんでしょう?
他ならぬミュリアためなら、裏でだろうが表でだろうが何だってやってやる。
と、いう訳で地方での任務がほぼ終わりかけの頃、俺は人知れず王都に戻り、貴族院に忍び込んだ。
そして件の書類を持ち出し、秘密裏に廃棄したのだった。
よし、これで後は俺が男爵と…ミュリアの父親と話をつけるだけの段階となった。
あのクソ親父を頷かせるだけの材料は揃えてある。
だけどその前にミュリアの意思を知りたい。
俺との結婚を望まないならそれでもいい。
(本当は嫌だが……)
貴族籍から抜けたミュリアが自由に生きられるなら、
それだけで満足する。……ようにする。
父親とは縁を切りたいが貴族として生きたいというならそれも良し。
俺はミュリアの望むようにしてやりたい。
ただ……そのミュリアの側に居させて貰えるならそれだけでもう、他には何も望まない。
願わくばミュリアと結婚して幸せな家庭を築きたい、それに尽きるが。
彼女を愛して幸せに幸せに、そして幸せにする。
それが俺の望みだが、ミュリアには彼女が一番に望む人生を送って欲しいのだ。
あの日俺の心を救ってくれた彼女が幸せになる事が、俺の一番の目的だから。
だからミュリアに会いに行ったのに、
彼女は突然旅に出たと母親が言う。
「な、何故だ……?そんな突然、何かあったのか?」
狼狽える俺に母が半目のジト目を向けてきた。
「何故だ、という事はないんじゃないのこのバカちんが」
「え?どういう事だよ」
「さぁ?自分で考えなさ~い☆」
母のすっとぼけた態度が鼻につく、が、今はそんな事を言っている場合ではない。
ミュリアを探して見つけ出さねば。
ますは長距離馬車のターミナル駅か。
まさか徒で王都を出る事はないと思うが……。
とにかくすぐに動かねば、後を辿れなくなってしまう。
「じゃあ母さん、悪いけど急ぐからまたっ」
母親にそう告げて俺は母の家を飛び出した。
「はいは~い☆まぁせいぜい頑張って駆けずり周りなさ~い♡」
見送りながら母がそう言った後、さらにポツリと「灯台もと暮らしだったりするけどね☆」と言っていたのは、
俺の耳には届かなかった。
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もう一人のヒロインハッシュ。
無事にミュリアを見つけ出し、誤解を解く事が出来るのか?
あと二話で最終話です。
あ、補足ですが、ローベル伯爵の父親は王弟である公爵様です。
彼はその公爵様の次男坊。
じつは王位継承権第四位のお方なのです。
そんな彼の目指すものは風通しのよい新しい国作り。
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