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さわこさんと、白銀狐さん その2

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 朝になりました。

 バテアさんのお宅では、常に一番早く目を覚ます私がベッドから体を起こしますと、リンシンさんが私と同時に起き出しました。
 よく見ますと、その横では白銀狐さんも目を覚ましているようです。

「……迎えが来た」
「はい?」
 リンシンさんはそう言うと、白銀狐さんを抱っこして立ちあがりました。
 そのまま一階に降りていくリンシンさん。

 私は、とりあえず上着を羽織ってその後を追いかけます。

 リンシンさんが居酒屋さわこさんの扉をあけ、外へと出ていかれました。

 まだ薄暗い周囲。
 寒気が店内に舞い込んできます。

 そんな中……

 バテア青空市の方から、何やら近づいてきました。

 バテア青空市の後方は山です。
 その山の中からぞろぞろと何かが……

 目を凝らしてみますと……それは白銀狐の群れでした。

「コン!」

 その群れを見るなり、リンシンさんに抱っこされていた白銀狐さんは嬉しそうに一鳴きすると、その腕から飛び降り、群れに向かって駆け出していきました。

 すると、群れの中から1匹の白銀狐が飛び出して来まして、白銀狐さんと首を絡めていったのです。

「……お母さん……多分、そう」
「まぁ、そうなんですね……」
 その光景を見つめながら、にっこり微笑んでいるリンシンさん。
 その横で、私も笑顔になっておりました。

 総勢10匹程度の白銀狐の群れと、私とリンシンさんに見守られながら、2頭はしばらく首を絡め合いながら再会を喜びあっているようでした。

「あ、そうだ」
 ここで私はあることを思い出しました。

 昨夜、白銀狐さんがすごくたくさん食べてくれたもんですから、今朝用にと、おでん雑炊をたくさん作って魔法袋に保存してあったんです。

 魔法袋を取ってきた私は、その中からおでん雑炊を取り出すといくつかの取り皿にそれをわけていきました。

 熱々の状態で保存しておきましたので、今もおでん雑炊は熱々のままです。
 こういうとき、この魔法袋って本当にありがたいですね。

 私が、おでん雑炊をよそっていると……白銀狐の群れが少しずつこちらに寄ってきました。
 ある一定の距離のところまでやってくると、そこで足をとめて私の様子をうかがっているようです。

 ですが

 みんな、鼻をクンクン言わせながら、おでん雑炊の匂いを嗅いでいる様子が伝わってきます。

「さぁ、みなさん。良かったら食べていってくださいな」
 私は笑顔でそう言いました。

 白銀狐のみなさんが寄って来やすいように、少し後方に下がっております。

 白銀狐のみなさんは、それでも警戒しているらしく、ある一定距離よりこちらにやってこようとはなさいません。

 そんな中……

 お母さんと再会を喜びあっていた白銀狐さんが、真っ先におでん雑炊に駆け寄ってきました。
 その後方を、お母さん白銀狐が追いかけてきます。
 群れから一歩前に踏み出した格好になった2匹。

 白銀狐さんは、お皿の1つに駆け寄ると、それを美味しそうにガツガツと食べ始めました。
 その様子を、少し後方で警戒しながら見つめていたお母さん白銀狐なのですが、そんなお母さん白銀狐を振り向いた白銀狐さんが、
「コン! ココン!」
 心なしか、嬉しそうに声をあげました。

 その声を受けて……お母さん白銀狐が白銀狐さんの横に歩みよってきました。
 恐る恐る……私とリンシンさんのことを時折警戒しながら、お母さん白銀狐はやっとおでん雑炊のお皿に顔を寄せていき、それを口になさいました。

「コン!」

 すると、お母さん白銀狐は、びっくりしたような声をあげると、そのまま一心不乱におでん雑炊を食べ始めたのでございます。

 そんなお母さん白銀狐の様子を見ていた白銀狐のみなさんも、2匹が美味しそうにおでん雑炊を食べている様子に我慢が出来なくなったのでしょう、一斉に私が並べたおでん雑炊のお皿に群がってこられたのでございます。

 どの白銀狐達も、一心不乱におでん雑炊を食べてくださっています。
 白銀狐さんと、お母さん白銀狐も嬉しそうにおでん雑炊を食べ続けています。

 その光景を、私とリンシンさんは笑顔で見つめ続けていました。

◇◇

 何度かおでん雑炊を継ぎ足し、最後のお鍋が空になったところで、白銀狐のみなさんは山の方に向かって歩きはじめました。

 そんな中、白銀狐さんがリンシンさんの元に歩みより、
「コン!」
 と、一鳴きすると、大きく頭を下げました。
 その横に、お母さん白銀狐が駆け寄って来まして、白銀狐さんと同じように頭を下げました。

 まるで、リンシンさんに

『助けてくれてありがとう』
『子どもを助けてくださってありがとうございました』

 そう言っているかのようでした。

 他の白銀狐のみなさんも、リンシンさんに向か一礼なさっていたのですが、続いて今度は私に向かって一礼してくださいました。

 これはあれでしょうか……

『美味しいご飯をありがとう』

 と、いったところでしょうか?

 ほどなくいたしまして……白銀狐の群れは山の中へと消えていきました。
 その途中、白銀狐さんは何度もリンシンさんの方を振り向いては、頭を下げていました。
 そんな白銀狐さんに、リンシンさんは笑顔で手を振っていました。

「……シロ……元気で」
「シロ、ですか? あの白銀狐さんはそういうお名前だったんです?」
「……迎えがこなかったら、飼うつもりだった……その時、つけようと思ってた名前」
「まぁ、そうだったんですね」
 そんなリンシンさんの言葉に、納得したように頷いた私。

 リンシンさんと私は、白銀狐の群れが山の奥に入っていって見えなくなるまで手を振っておりました。

 リンシンさんも私も笑顔だったのですが……リンシンさんの笑顔は、少し寂しそうな感じがしないでもありませんでした。

◇◇

 翌朝のことでございます。

 私はいつものように早起きいたしまして、だるまストーブの準備をしておりました。
「さわこ! さぁ行きましょう!」
 台車を押しながら、元気満開のエンジェさんが駆け寄ってきました。
 はい、エンジェさんは今日も朝からフルスロットルです。

 そんなエンジェさんと一緒に、バテア青空市へ向かうために居酒屋さわこさんの玄関を出た私なのですが……そこで、立ち止まってしまいました。

 ……えっと……これは、一体……

 困惑している私。
「さわこ? これは何なのかしら?」
 エンジェさんも、びっくりした表情を浮かべています。

 そんな私とエンジェさんの前には、山の幸が山積みになっていたのでございます。

 この時期は、雪の下に埋もれているため発見するのが困難な山の幸が凄い量、お店の前に山積みになっていたのでございます。

 これは一体……
 少し考えた私は、すぐにあることに思い当たりました。

 ひょっとしてこれ、白銀狐のみなさんが昨日のお礼に、って、夜のうちに持ってきてくださったのではないでしょうか?

 そう思った私は、すぐにリンシンさんを起こしに、2階に駆け上がりました。

 話を聞いたリンシンさんも、慌てて1階へと降りてこられまして、その山の幸の山を確認してくださいました。
「……白銀狐は、雪の下にある、こういった山野草なんかを見つけるのも上手だし、多分、昨日のみんなのお礼で間違いないと思う」
「やっぱりそうですか」
 リンシンさんと私は、思わず笑顔で頷きあいました。

 もし、また、白銀狐のみなさんがお出でになられましたら、この山の幸を使った雑炊をご馳走してさしあげたいものです。

ーつづく

 
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