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9.悩みの種

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※この話はフィクションです。
暴力的な表現を少し含みます。
無理やり表現を含みます。
苦手な方なご注意下さい。

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カチャッと、引き金に指を掛けた。

「みっ、見逃してくれっ!!何でもするっ…金か?!いくらだ?!一千万か?!足りないなら一億でも出そう」

手足を縛られ膝立ちに立たされている男の後ろに立って、そのこめかみに銃口を押し当てた。
都心から少し離れた無人廃ビルの屋上。
そのすぐ下には、線路が引かれている。

「十億っ!!いや、百億出そう!!!」

本当にそんな額の大金を、この男は所有しているのだろうか。
どうせ命惜しさからのでまかせだろう。
そうやって助かったとしても、またその大金を作るために多くの他人を脅し、貶めて更に恨みの根を広げていくに過ぎない。

汚い世界だ。

この裏世界をこの手で変えてやろうなどという正義感ぶった感情は毛頭ないが、誰かの死を望む依頼者クライアントが存在する限り仕事はなくならない。

「たっ、助けてくれ…俺には家族がいる!家族を残しては死ねない!!」

他人の不幸を餌に私腹を肥やし、贅沢三昧の末太って膨れた顔の男が、後ろに立つ般若の面を模した覆面の男に向かって叫んだ。

情けなく命乞いをする男を、もはや憐れだとすら思う。

「お前が金をぶんだくって、破滅に追いやった奴らにも家族はいたはずだ」

左手にはめていたシルバーの腕時計を見やる。
それからそっと瞳を閉じた。

あと2分…



俺の両親は幼い頃死んだ。
父は代々五条院家に仕える忍者の末裔一族・都築家の当主で、任務中に命を落としたと聞いているが、本当のところ定かではない。
母はロシア人で、絶世の美女と謳われた国を代表する歌姫だった。
それは何となくだが少し覚えている。
美しい歌声で奏でるロシア語の子守唄だけは、今も耳から離れない。
特別な任務を請け負う父と結婚したことで歌う場所も奪われ、あまつさえ命まで狙われることになっても、それでも笑顔を絶やさなかった母の強さは、父と息子への愛から生まれるものなのだと、母は本気でそう思っていた。

そんなお伽話のような理屈など、今も信じてはいない。
信用できるのは、この腕と己の肉体と己自身だけ。
二十数年生きてきて行き着いた、生きていく術がそれだ。

忍者の血を引いていれば、誰でも特別な能力を発揮できるわけではない。
忍者の末裔だか何だかで、都築家の中でも幼い頃から身体能力だけは常軌を逸していた俺は、両親の死後五条院家に引き取られそこでSPとなるべく育てられた。
五条院家の一人息子で次期当主となる是匡これまさは、同じ歳で兄弟のように育てられだが、十一の頃“あること”がきっかけで、今度は母の生まれ故郷であるロシアの祖父母の元へと引き取られた。
そこで見たものは、母の夢物語のような愛のお伽話とは比べものにならない現実の世界だった。

母は、ロシアの裏社会でも一位二位を争うマフィア一家の出だったのだ。
当然、孫の俺に次の継承権がうつるわけだが、祖父にあたるボスにはファミリーを存続させる気はなく、俺に言語とありったけの知識と人徳と世の渡り方、そして殺し屋としての技術を残し、ファミリーの名と共にこの世を去った。

そして、また日本の五条院家へと呼び戻され、今に至る。
スッと、閉じていた目を開けた。



「時間だ。恨むんなら、自分のしてきたことを恨め。そしてあの世で後悔しろ」

パァーっと私鉄電車が、けたたましい走音と共にビル真下の線路を走り抜けていく。
その音に紛れて、一発の銃声は聞こえないまま銃口から煙が吐かれた。
膝を立てていた中肉中背の男がぐらりと横に傾き、ドシャっとそのまま倒れ込んだ。
動かなくなった男の下から赤い血液が、アスファルトに流れ出し広がっていく。

“殺し”をしたいわけじゃない。
しかし、世の中には“殺しの依頼”が大なり小なり何処かしこに溢れ返っている。
事故や自殺として扱われている死亡事件のいくらかは、もしかしたら故意に行われたこの“殺し”かもしれない。
実行されるにしろされないにしろ、誰かが誰かに殺意を抱いて日々を生きていることは曲げようのない事実なのである。

“殺し”を請け負うのは、その恨みの権化を消し去るためなのだというのが祖父の教えであった。

しかし、人に植え付けてしまった恨みは、その張本人が死しても尚消えない。
この“殺し”に意味などあるのだろうか。
最近はよくそんなことを思う。

立ち昇る硝煙をふうと飛ばしてから、スーツの懐に銃を納めた。

この件も、国を通した正式なものとして上がってきた依頼だ。
後の処理はまた別の機関がすぐ様現れ、ここも一時間後にはまるで何ごともなかったかのように元の廃ビルに戻っているだろう。

屋上の出入り口の重い扉を押した。
カンカンと鉄板の階段を降りながらマスクを鼻の上まで引き上げると、煙草を咥えて火を点ける。

五条院家のSPとは表向きの顔で、裏を返せばロシア帰りの薄汚れた殺し屋。

護衛とは別に請け負っているこの仕事を、五条院家はもうずっと黙認している。
何を考えているか分からない恐ろしい組織だ、五条院家というところは。

案件実行の日時は、前もって国家機関には申告してある。
白い白衣姿の数人が階段を駆け上ってくると、擦れ違いざまに無言で会釈だけをして屋上へと駆けていく。
国家ぐるみの証拠隠滅までして、これが明るみに出たらこの国全体で人権問題や道徳問題の論争が巻き起こり、混乱の一途を辿ることは明白だ。
国家の信用は一気に下落するだろう。

煙草を蒸かしながら片手で挨拶だけを交わし、そのまま廃ビルを後にした。



日に日に高まる“殺し”への不信感と、自分の存在理由への揺らぎが徐々にこの精神を蝕み始めている。

そして、俺を悩ますもう一つの表向き任務の対象…

「毎日毎っ日、一人で暇なんですけど!!」

それは、この小生意気な長い黒髪の女である。

本来なら唯一安息の地である自室の戸を開けるなり、目の前に数日前から護衛もとい教育ターゲットとして囲っている女子大生が立ちはだかっていた。

ぷっくりと両頬を膨らませて、どうやら怒っているらしい。

この女は自分が囚われの身だということを、ちゃんと理解しているのだろうか。
甚だ疑問が拭えないでいる。

彼女の名前は、大杉 七瀬。
この五条院家と長年深く関わり、表舞台に立って政治を動かす大杉家の一人娘で、五条院家現当主是匡の許嫁である。
情報によれば、頭脳明晰で運動神経に長け抜群の美貌とどんな男をも魅了する肉体の持ち主だということであった。
その彼女を捕らえ、囲い五条院家に相応しい淑女にして当主の奥方として献上すべく教育し、調教するというのが任務であったのだが。

それなのにいざ蓋を開けてみれば、確かに見てくれは幼さも少しは残るものの整った顔立ちに、奥ゆかしい身なりで男の目を惹くには充分であろうが、中身は才色兼備どころかただの小生意気なお子様で、五条院家のことはおろか自分の家のことすら何も知らないただの箱入り娘。

勉強・スポーツはできても男と付き合ったことも、もちろん男性経験も皆無。
挙句の果て、友人の一人さえもいないという人としては恐ろしい程のロースペック女である。

誤情報にも、程ってもんがある。
“大学生なりに”もてあそぶ程の男慣れした女だと聞いていたから、何とかこの“Ninja部隊”で請け負った任務だというのに、とんだハズレくじだ。

どんな風に育てられたらこうなるのか、逆に興味深くさえある。

「知るか、そんなこと」

ふうと溜め息を吐いて部屋に入り、黒いネクタイを緩めた。

「知るかって、私を当主様に相応しい女に教育するんでしょ?!それなのに昼間は一人で放ったらかしだし…することといえば、そのえっと…その…セックスだけで…」

思わず口籠って、女が顔を赤らめ俯いた。

そこで照れるぐらいなら口にするなと言ってやりたいが、つい先日俺にむりやりその身体を暴かれるまで、そういう経験のけの字も知らなかったのだから無理もない。

ちなみに二、三度抱いたが、そういう行為には一向に慣れる気配もなく今だに痛いと喚かれ、さすがに気が滅入りそうになっている。
別にそのままそこら辺の風俗に放り出して、物好きな男に好き勝手遊ばれてもらっても構わないのだが、情報を何か一つでも口外されてしまっては、こちらが身を滅ぼしてしまう。

無理やりだとはいえ、この俺がどれだけ気を遣ってやってるか少しは分かってもらいたいところだ。

しかし、こればかりはもうここで慣れてもらうしかない。
そうしなければ、いつまで経ってもここに居座られる羽目になる。

「じゃあ、私の鞄だけでも返して下さい!勉強はしておかないと、大学卒業できなくなっちゃう」

「まだ元の生活に戻れると思っているのか?!もう諦めろ」

ネクタイを外してベッドにぽんっと投げ捨て、白いカッターシャツもその上に投げ出した。
女がベッドに歩み寄り今投げ出されたばかりのシャツとネクタイを取ると、部屋の隅に置かれたパイプラックにタタっと走ってハンガーに吊るして掛けた。

「何をやってる」

思わず怪訝な顔で女を見やる。
 
「嫌なの、そういうの!直す場所にきちんと直さないと、なんだか気持ちが悪くて」

唖然とする。
絶対に、自分の置かれた状況を把握していない。
お嬢様のくせに、妙に几帳面で潔癖だ。
自分を辱め、抱き尽くしている男が殺し屋などと知ったら間違いなく卒倒するだろう。

「明日、お前の荷物は返してやる。それでおとなしく勉強でもしておけ。ただし、スマホは没収だ」

「スマホじゃないです。ガラケーです」

「女子大生だろ…スマホぐらい持っとけ!」

「言ってることが矛盾」

あーもう。
本当に何なんだろうか、この女は。
わざと俺を怒らせようとしているのかと本気で疑いたくなる。

「ああ言えばこう言う女は嫌いだ」

「あなたに好かれなくても構いません」

つーんとそっぽを向いてベッド脇に戻ってきた女の両腕を後ろ手で掴み上げ、そのままベッドにうつ伏せで押さえ付けると、その上に跨り後頭部に銃を突きつけた。

「俺はいつでもお前を殺せる。あまり舐めた態度をとるとどうなるかよく考えてからものを言え」

恐怖に慄くかと思いきや、案外冷静にこくんと女は頷いた。

変わった女だ。

うるさいだけの小生意気なお子様かと思いきや、変なところで落ち着いていたりする。
どんな家庭環境がこんな人格を作り出すのか、やはり興味深い。
ただこんな“嫌な仕事”の後で、もやもやとしている時は、この女を憂さ晴らしとして利用するのはうってつけかもしれない。
女に突きつけていた銃を下ろし、ベッド脇のサイドテーブルにカタンと置いた。
女の腕を離してから、ペチンとその頭をはたいた。

「痛たっ…」

少女が叩かれた頭をさすりながら振り向いた。

「くそガキ」

後ろから見下ろして吐き捨てた俺を、見上げながら女がイーッと歯を食いしばって見せた。

この生意気女め。

イラっとして、女の浴衣を無理やり後ろから剥ぎ取った。

「やだっ、ちょっ、浴衣返して!」

そのままうつ伏せに寝かせた女の胸に手を這わせ、その尖端を指で撫でるとあっという間に硬く大きくなり女が思わず声を漏らす。

「あっ…ちょっ、待っそこダメぇっ…」

どこをどう触られれば、自分の身体がどのように反応するのかやっと分かり始めてきたようだ。

ダメと言われたら、余計に煽りたくなるのが世の男のさがである。
そこまでは、まだよく分かっていないらしい。

硬くなり果てたその尖端を、わざとギュッと強く摘んだ。

っ!…やっ…」

少女がビクッと身体を震わせ、涙声を上げる。

嫌も好きのうちという理屈は、まだ女の中には存在していない。
異性に触れられ、慣れない自分の身体の反応に本気で怯えているのだろう。
そこに興奮を覚えてしまうのは、もう男の性分としか言い訳できない。

「もっ…そこやだぁっ…やめっ…んぅっ…」

うるさいと言わんばかりに、女の口に指を押し込め存分に舌を弄んでからズルっと引き抜くと、はぁはぁと女が苦しげに肩で呼吸して枕に突っ伏した。
唾液でぬめった指を、何の躊躇もなくそのまま女の秘部へと這わせた。
既にそこは滴る程の愛液で溢れ返っている。

「指濡らす必要なかったな。痛いことされて興奮したか」

その煽り文句に女がバッと顔を上げて叫んだ。

「やっ…っ違っ…」

「相変わらず素直じゃないな」

ぐぷっとその中に指を押し込めた。

「やあっあっ…うっ…」

まだ狭い腟内なかがアツく溶けそうなほどに、熱を帯びうねっている。
数日前まで処女だった身体が、一人前に女として機能し始めていることを、この女は気付いているだろうか。
何も気付かずに反応しているのだとしたら、なぜか腹立たしくてもう少しだけ酷く扱ってやりたくなる。

何の宣告もせずもう一本指を押し込めた。

「あっ、やだっ苦しっ…」

きつく締まる膣内を無理やり掻き回してから、ずるりと指を引き抜く。

「ひっ…やっ…やめてっ…」

立てた女の膝がガクガクと震え、振り向くそのつぶらな瞳には涙が溢れている。
それが生理的に溢れた涙なのか、本当に恐怖の涙なのかは分からない。

「無理やり犯されてここまで濡らせるなら、淫乱女の素質は充分だな」

少女の前でその濡れた手を翳して見せる。

「違っ…」

「違わないな。そろそろ物足りなくなるだろ?」

女が首を激しく横に振った。

「一つ教えてやる」

そう言って興奮に昂ったものを少女の濡れた入り口へと充てがい、唇を震える少女の耳元に寄せる。

「こういう男は、女が嫌がれば嫌がる程興奮して悦ぶ。よく覚えておけ」

一気にそのまま奥までその身を貫くと、女が悲鳴に近い声を上げ枕に顔をうずめながら小さな肩を震わせた。

「あっ…いやぁあっ………!」

一瞬ぞくりと背中が疼いた。

狂ってしまっているのは、やはり紛れもなくこの俺の精神なのだと思う。

それでも、あんなに初め硬く閉ざされていたそこが安易にこの侵入を許し、ぎゅうと強く締め付けられてしまえば、もうそんなことどうでもよくなってくる。

こうやって調教にかこつけて、醜い憂さを晴らせられれば今はそれでいい。

ただ、逃れられないと悟りそれならばと懸命に男を受け入れようと、身体を開きつつある健気なこの女に哀れみと同情と、そしてほんの欠片程度の愛しさが俺の頭のどこかに存在しているのも確かだ。
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