Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

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第5節 村上 正人 其の3

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20×8年10月18日(現在)

昨日は千里の葬儀のため、千里の父の和彦によさそうな葬儀屋を探してもらい、千里の両親と一緒に葬儀の日程の相談に行った。

その最中に池畑から連絡があり、千里の解剖が明日、つまり今日になったと告げられた。

正人たちは、千里の通夜を20日に決め、詳しい内容は千里の両親にお願いをし、正人は千里の職場への挨拶、そして自分の会社への挨拶、終わり次第また葬儀屋へ戻りと、1日動きっぱなしでヘトヘトだった。

全てが終わり、家に帰ると正人は知らぬ間に寝てしまい、気付けば今日の昼近くになっていた。

千里がいれば必ず起こしてくれるなぁと思いつつも、泣いてる暇はないと、南雲由実の通夜に行く仕度をし、千里の母の絵美子との集合時間に間に合うように、家を出発した。

ー 栃木県某所 ー

16時08分

正人と絵美子は、南雲由実のお通夜のため、南雲の地元、つまり千里の地元に帰ってきていた。

18時からのお通夜まで、絵美子は家に一度帰ることにしたので、正人は駅前のファミレスで時間を潰すことにした。勿論、絵美子は一緒にくれば、と言ってくれたが、正人は千里の育った町を改めて眺めたくなったのだ。

その気持ちを素直に伝えると、絵美子はありがとうと微笑んで帰って行った。

新幹線の車中、正人は絵美子と何を話せばよいかを考えていたが、意外にも絵美子から自発的に色々と話してくれた。

その中身は千里の思い出話で、千里が産まれてから成人し、社会人になるまで、順を追ってゆっくりと話を聞かせてくれた。

自分が全く知らない千里を感じることができ、ずっと聞いていたいと感じた。そんなことを思い出しながら、ファミレスでコーヒーを啜り、窓から町を眺めていた。

゛「私ね、千里の葬儀が終わったら、千里の死のことでもう泣かないことに決めたの。私はあの子が自殺なんてしない子だって信じてる。殺されたってことも勿論信じたくはないけど…あんなに優しくて人のことを考えられる子が、誰かに恨まれるようなことはしないはずよ。

……結局、どちらの結論でもツラい気持ちは変わらない。でも、あの子が自ら私たちを悲しませるようなことは絶対しないって信じてる。

だから…きっとあの子自身も、私たちがあの子の死を嘆いて前に踏み出せない姿は見たくないと思うの。

…毎日毎日あの子のことは思い出すと思うけど、泣くのはあの子の葬儀で最後にします。

正人くん、今のあなたにこんなこと言うと怒られちゃうかもしれないけど…あなたはまだ若いから、再婚するようなことがあれば喜んで応援するわ、本当よ。でも……千里のこと忘れないでいてあげてね。それだけはお願いします。」゛

正人の中で、この絵美子のセリフが強く残っている。正直、再婚なんて考えてもいなかったし、何より一番疲弊していた絵美子が、今一番しっかりしている、母親って強いなと心底思った。

正人はコーヒーをお代わりしようと、ドリンクバイキングコーナーに向かい、コーヒーメーカーにカップを置き、機械のボタンを押した。プシューというコーヒーメーカーの音を聞きながら、コーヒーが出来上がるのを眺めていると、右側から見知った声が聞こえてきた。

「村上さん?」

振り向くと、千里の件で世話になった刑事がいた。

「あ、あれ!?確か…池畑さんですよね?何してるんですか?」

正人は驚いた表情で質問した。

「あなたと一緒ですよ。南雲由実さんの通夜に来たんです。…席ご一緒してもいいですか?」

そう言うと池畑はアイスコーヒーを入れてから、自分の席に置きっぱなしの上着や水のコップを正人の席に移動すると、正人の対面に腰を下ろした。

正人は、何を話そうか迷った。由実に付いて何か話そうと考えていたら、新幹線の車中で絵美子から、由実が亡くなった駅は、横浜駅だと言うことを聞いたことを思い出した。しかし、何故由実がその日に、地元から横浜まで出てきていたのか、理由は分からなかった。

正人はコーヒーを一口啜り、話し始めた。

「そう言えば、由実は横浜駅で電車に飛び込んだみたいですね。てっきり一人暮らし先や職場のあるさいたま市内の駅だと思ってました。」

まさか、自分の家の近くで起こった事件だとは想像もしていなかった正人は、何で今まで由実が亡くなった駅を確認しなかったのかと後悔していた。

「えぇ、つまり我々の管轄内の事件でして。当初は別の刑事が担当していまして…ですから、あなたに初めてお会いした時に南雲さんの名前を出された時はピンと来なくて。ですがあの後、呪いに関係する事件になるということで、正式に私と溝口が担当することになったんです。

私は自分が関わる事件の被害者の葬儀には必ず焼香に来るようにしてまして。…あなたの無念を必ず晴らしますって故人と約束するんですよ。」

「故人と約束…刑事さんって皆そうなんですか?」

「いやぁ、人それぞれですけどね。私は刑事になった時にそう決めて、今までずっと続けてきました。まぁ、時々遺族の方に警察は信用できんみたいなことで追い出されたりはありますけど。」

池畑は笑いながら正人に話した。だが、正人は池畑のポリシーに感嘆し、笑い話には聞こえなかった。

「大変ですね、警察って。そんな自ら、亡くなった方と約束して、毎日プレッシャーにならないんですか?ほんと、尊敬します。」

「そんな大した話じゃ…。まぁ、逆にプレッシャーになるために約束してるってのが本心ですね。自分を怠けさせないために。」

正人は尊敬の眼差しで池畑を見ていた。歳上だとは思うが、大して自分とは歳も違わないだろうに、なんてしっかりしていて自分を持ってる人なんだと、正人は自分が恥ずかしく思えた。

池畑は、アイスコーヒーを一口飲み、話を続けた。

「話を少し変えますが、今日はあなたに会えて良かった。どうしてもあなたには話しておきたいことがありまして。」

「え?俺にですか?」 

正人は、池畑が自分に話さなければならない話の内容に皆目検討がつかずに、ゴクンと唾を呑み込み緊張しながら身構えた。 
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