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第3節 それぞれの葛藤
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ー 市内カフェー
11時15分
「こんな店あったんですね。よくご存じで。」
「仕事柄よく使うんです。」
正人と眞鍋は、予定通り駅で待ち合わせをし、正人の提案で個室席を完備したカフェにいた。
「仕事柄…あ、そう言えばお仕事は何をしてらっしゃるんですか?」
「…情報誌の記者を。」
正人は眞鍋と目を合わさずに言って、コーヒーを一口飲んだ。
「情報誌!へぇ、大変そうなお仕事ですね。それで早速ですけど…。」
「…あ、あの。大丈夫ですか?情報誌の記者ですが。」
正人は、予想を反した眞鍋の受け答えに思わず、真っ正面から聞いてしまった。
「…あ、この話を情報誌に載せるかもって話ですか?…そのおつもりで?」
眞鍋の声のトーンが明らかに変わり、正人は慌てた素振りを見せた。
「い、いや。そんなつもりは…ないですけど。この機械の話がどういった取扱いなのかが気になったもんで。国としては秘密裏に開発してるんですよね?」
「…正直に言います。おっしゃる通りまだこの機械については極秘扱いです。今回、村上さんが奥様を生き返らすことに同意いただいた場合、それは試験データの一つにさせていただきます。…ご理解いただけましたか?」
「…つまり、まだテスト段階で、所謂実験のサンプルってことですか?」
正人は、実験のサンプルという言葉は自分で言っていて少し嫌な気分になった。
「ご理解が早くて助かります。ただ実験とは言え、性能に間違いはありませんので、そのへんはご安心ください。…それで、昨夜お送りしたものは読みましたか?」
「はい、一応全てに目を通しました。」
正人は鞄からクリップ留めされた大量の紙を取り出し机に置いた。
「全てですか!?素晴しい。率直なご感想お聞かせ願えますか?」
眞鍋は、あらゆるデータを取りたいと思い、正人の感想をメモに取ろうとメモ帳とペンを鞄から取り出した。
「第一印象は、非現実的な内容ばかりで本当にできるのかということですかね。…それから、次にこの機械の役目を考えたんですよ。」
眞鍋は頷きながら正人の話を聞いていた。正人は一度コーヒーを飲み、話を続けた。
「勿論、天災とか不慮の事故で亡くなった方を生き返らせるっていう目的は素晴らしいことだと思います。でも…やっぱり起こるんですか?……戦争。」
「…え?…あ、ぷっ、ははははは。」
急に笑いだした眞鍋に、正人は驚いた。とくにウケをとるつもりもなく真剣に聞いたつもりの正人は、何を笑われているのか理解ができなかった。
「い、いや、ご、ごめんなさい。いやぁ、やっぱり記者さんだなぁって思って。深読みし過ぎですよ。確かに世間は戦争を危惧する声もありますが、今のところ絶対に戦争はないと言い切れます。規約の文章ですよね、あれは若しものために上からの提案で後から付け足した一条ですよ。国のためにって入れておけば、色々予算も付きやすくてですね。」
「…そうなんですか。」
正人は戦争が近いものと確信してたため、拍子抜けしたように深い溜め息をついた。
「脱線はこれくらいにして、結論でました?やるか、やらないか。」
正人は、下を向き無言のまま少し考えてから、顔を上げた。
「…結論は…もう少し時間いただいてもよろしいでしょうか?今日は直接話が聞きたくて。」
「勿論です。これを読まれたならわかると思いますが、人の命は尊いものであるという理念のもと、命を弄ぶような行動には厳しい罰則が課せられています。
生き返らせるには、まず責任者の登録をしていただきます。奥様を生き返らす場合には、それがあなたになるでしょう。生き返らせた人間は、寿命や病気、天災以外の死は責任者の過失と見なされ、責任者の命を奪う仕組みになっています。
だから軽い気持ちで使うもんじゃあない。興味を持たせてしまい何なんですが、あなたが奥様を生き返らせたい余程の理由がない限り、基本的にはお薦めはしません。…他に何かご質問ありますか?」
「質問ですか。今日色々お聞きしようとしてたことは、ほとんどこの紙に記載がありましたし…そうですね…費用は?」
「今はサンプルを獲得する目的のため費用はかかりません。その代わり、万が一生き返らすことに失敗した場合の補償はつきません。費用…まぁ、これが世に出回るときが来たら、多分一回うん百万円からうん千万円の費用をとるようになるかと思いますよ。」
「…それはそうですよね。費用が安価だったら、世の中は生き返った人間だらけになりそうだ。…あと、無理な話を承知の上での質問ですが、他にもこのリムを必要としてる人がいたら、眞鍋さんを紹介してもいいですか?」
正人の頭の中には、池畑が思い浮かんでいた。リムのルールには、“生きている人間の遺伝子を使って、その人間を再生することはできない”というものがあった。つまり、今行方不明の池畑の元恋人が何処かで生きていれば、再生は失敗するはずで、大きな手掛かりになるのではないかと考えた。ただ、当然その逆もあり得るわけだが、正人はとりあえず池畑にリムの存在を知らせたかった。
それは、池畑に千里の解剖の依頼をされた自分と重なるかもしれないと正人は思った。そう思った上で、池畑が救われるかもしれない一つの選択肢を与え、後は自分の判断で責任をもって答えを導き出して欲しいと考えた。
「…その言葉には、既に思い描いている方がいらっしゃいますね。勿論歓迎しますよ。ただ、守秘義務を守れる方ならね。仮にその方が、あなたの話を信じずに終わった場合も、リムのことを必ず口外しない方でお願いします。」
正人は、池畑はその点は安心できる人物だと思い、力強く頷いた。
「はい、理解してます。眞鍋さんのお見込みのとおり、描いている人はいます。…なんか子どもみたいな話ですけど、本当は自分の仲間が欲しいんです。事が大きすぎるのと、まだ非現実的なことに思えてしまうことを払拭できずに、ただただ悩んでしまいそうな自分がいまして…。」
「それはその通りだと思います。ただ、申し訳ないですが、何時までもお待ちできるわけじゃないんで、すみませんが結論は一週間以内にいただきたいです。あと、その思い描いている方には、昨夜私が送った資料をお渡しして構いませんので。ただ、重ねてのお願いですが、あなたを含めて、リムの存在は絶対口外しないということをお忘れなきように。」
眞鍋はそう言うと立ちあがり、伝票を持って個室の扉に手を掛けた。
「眞鍋さんお金。」
正人は財布から札を取り出して、眞鍋に渡そうとした。
「いえ結構です。こちらとしてはこれも仕事なんで、全部経費で落とせますから。村上さんは、どうぞごゆっくりしてってください。では、また電話をお待ちしています。」
正人のお金を受け取らずに、眞鍋は一礼して個室を出ていった。
「ふぅ。」
正人は何か緊張の糸が解れた気がして溜め息をついた。とりあえず空のカップのコーヒーをおかわりしようと店員を呼んだ。
11時15分
「こんな店あったんですね。よくご存じで。」
「仕事柄よく使うんです。」
正人と眞鍋は、予定通り駅で待ち合わせをし、正人の提案で個室席を完備したカフェにいた。
「仕事柄…あ、そう言えばお仕事は何をしてらっしゃるんですか?」
「…情報誌の記者を。」
正人は眞鍋と目を合わさずに言って、コーヒーを一口飲んだ。
「情報誌!へぇ、大変そうなお仕事ですね。それで早速ですけど…。」
「…あ、あの。大丈夫ですか?情報誌の記者ですが。」
正人は、予想を反した眞鍋の受け答えに思わず、真っ正面から聞いてしまった。
「…あ、この話を情報誌に載せるかもって話ですか?…そのおつもりで?」
眞鍋の声のトーンが明らかに変わり、正人は慌てた素振りを見せた。
「い、いや。そんなつもりは…ないですけど。この機械の話がどういった取扱いなのかが気になったもんで。国としては秘密裏に開発してるんですよね?」
「…正直に言います。おっしゃる通りまだこの機械については極秘扱いです。今回、村上さんが奥様を生き返らすことに同意いただいた場合、それは試験データの一つにさせていただきます。…ご理解いただけましたか?」
「…つまり、まだテスト段階で、所謂実験のサンプルってことですか?」
正人は、実験のサンプルという言葉は自分で言っていて少し嫌な気分になった。
「ご理解が早くて助かります。ただ実験とは言え、性能に間違いはありませんので、そのへんはご安心ください。…それで、昨夜お送りしたものは読みましたか?」
「はい、一応全てに目を通しました。」
正人は鞄からクリップ留めされた大量の紙を取り出し机に置いた。
「全てですか!?素晴しい。率直なご感想お聞かせ願えますか?」
眞鍋は、あらゆるデータを取りたいと思い、正人の感想をメモに取ろうとメモ帳とペンを鞄から取り出した。
「第一印象は、非現実的な内容ばかりで本当にできるのかということですかね。…それから、次にこの機械の役目を考えたんですよ。」
眞鍋は頷きながら正人の話を聞いていた。正人は一度コーヒーを飲み、話を続けた。
「勿論、天災とか不慮の事故で亡くなった方を生き返らせるっていう目的は素晴らしいことだと思います。でも…やっぱり起こるんですか?……戦争。」
「…え?…あ、ぷっ、ははははは。」
急に笑いだした眞鍋に、正人は驚いた。とくにウケをとるつもりもなく真剣に聞いたつもりの正人は、何を笑われているのか理解ができなかった。
「い、いや、ご、ごめんなさい。いやぁ、やっぱり記者さんだなぁって思って。深読みし過ぎですよ。確かに世間は戦争を危惧する声もありますが、今のところ絶対に戦争はないと言い切れます。規約の文章ですよね、あれは若しものために上からの提案で後から付け足した一条ですよ。国のためにって入れておけば、色々予算も付きやすくてですね。」
「…そうなんですか。」
正人は戦争が近いものと確信してたため、拍子抜けしたように深い溜め息をついた。
「脱線はこれくらいにして、結論でました?やるか、やらないか。」
正人は、下を向き無言のまま少し考えてから、顔を上げた。
「…結論は…もう少し時間いただいてもよろしいでしょうか?今日は直接話が聞きたくて。」
「勿論です。これを読まれたならわかると思いますが、人の命は尊いものであるという理念のもと、命を弄ぶような行動には厳しい罰則が課せられています。
生き返らせるには、まず責任者の登録をしていただきます。奥様を生き返らす場合には、それがあなたになるでしょう。生き返らせた人間は、寿命や病気、天災以外の死は責任者の過失と見なされ、責任者の命を奪う仕組みになっています。
だから軽い気持ちで使うもんじゃあない。興味を持たせてしまい何なんですが、あなたが奥様を生き返らせたい余程の理由がない限り、基本的にはお薦めはしません。…他に何かご質問ありますか?」
「質問ですか。今日色々お聞きしようとしてたことは、ほとんどこの紙に記載がありましたし…そうですね…費用は?」
「今はサンプルを獲得する目的のため費用はかかりません。その代わり、万が一生き返らすことに失敗した場合の補償はつきません。費用…まぁ、これが世に出回るときが来たら、多分一回うん百万円からうん千万円の費用をとるようになるかと思いますよ。」
「…それはそうですよね。費用が安価だったら、世の中は生き返った人間だらけになりそうだ。…あと、無理な話を承知の上での質問ですが、他にもこのリムを必要としてる人がいたら、眞鍋さんを紹介してもいいですか?」
正人の頭の中には、池畑が思い浮かんでいた。リムのルールには、“生きている人間の遺伝子を使って、その人間を再生することはできない”というものがあった。つまり、今行方不明の池畑の元恋人が何処かで生きていれば、再生は失敗するはずで、大きな手掛かりになるのではないかと考えた。ただ、当然その逆もあり得るわけだが、正人はとりあえず池畑にリムの存在を知らせたかった。
それは、池畑に千里の解剖の依頼をされた自分と重なるかもしれないと正人は思った。そう思った上で、池畑が救われるかもしれない一つの選択肢を与え、後は自分の判断で責任をもって答えを導き出して欲しいと考えた。
「…その言葉には、既に思い描いている方がいらっしゃいますね。勿論歓迎しますよ。ただ、守秘義務を守れる方ならね。仮にその方が、あなたの話を信じずに終わった場合も、リムのことを必ず口外しない方でお願いします。」
正人は、池畑はその点は安心できる人物だと思い、力強く頷いた。
「はい、理解してます。眞鍋さんのお見込みのとおり、描いている人はいます。…なんか子どもみたいな話ですけど、本当は自分の仲間が欲しいんです。事が大きすぎるのと、まだ非現実的なことに思えてしまうことを払拭できずに、ただただ悩んでしまいそうな自分がいまして…。」
「それはその通りだと思います。ただ、申し訳ないですが、何時までもお待ちできるわけじゃないんで、すみませんが結論は一週間以内にいただきたいです。あと、その思い描いている方には、昨夜私が送った資料をお渡しして構いませんので。ただ、重ねてのお願いですが、あなたを含めて、リムの存在は絶対口外しないということをお忘れなきように。」
眞鍋はそう言うと立ちあがり、伝票を持って個室の扉に手を掛けた。
「眞鍋さんお金。」
正人は財布から札を取り出して、眞鍋に渡そうとした。
「いえ結構です。こちらとしてはこれも仕事なんで、全部経費で落とせますから。村上さんは、どうぞごゆっくりしてってください。では、また電話をお待ちしています。」
正人のお金を受け取らずに、眞鍋は一礼して個室を出ていった。
「ふぅ。」
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