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最終章 真実と代償 第1節 同胞
(1)
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同日
ー 神奈川県警 署内地下霊安室 ー
17時35分
バタバタバタと廊下を物凄い勢いで駆けてくる足音が聞こえ、ノックもなしに霊安室の扉が開いた。
「千代田!!」
「…池畑さん。」
溝口の声は涙声だった。霊安室には他に千代田の家族と杉崎、秋吉、鷲尾がいた。
「すまない、こんなことになって。」
杉崎が責任者として池畑にも頭を下げた。霊安室には千代田の家族であろう、両親と弟が千代田の遺体を囲み、静かに涙を流していた。
「……自殺ですか?事故ですか?…それとも。」
千代田の父親が誰にでもなく疑問を吐いた。誰も即座に返答ができない中、鷲尾が口を開いた。
「…私は3年近く、彼女とペアを組んで、色々と捜査を行ってきました。とても素直な子で、仕事熱心で、真実を突き止めようとする思いは我々の中で一番だったと思います。その分、無茶をすることもありましたが、私も出来るだけ彼女をサポートしてきました。
…今はまだ事故か自殺か、はたまた事件に巻き込まれたのか、判断が付いていません。でも、彼女が自殺する理由は私には見当たりません。」
「これからしっかりと捜査をします。それと…ひとつお願い事がございます。娘さんを司法解剖させていただきたい。真実を見つけるために。」
杉崎がゆっくり深々と頭を下げた。
「…これ以上娘に傷は……。」
千代田の母親が目を伏せながら言った。
「娘さんがずっと追い求め、信念としていた真実というものを突き止めたいんです。私も娘さんが自殺したなんて思えません。なら、事故なのか、事件に巻き込まれたのか、あらゆる面から細かく捜査し、真実に結び付けたいんです。…よろしくお願いいたします。」
杉崎がもう一度頭を下げると、池畑ら四人も合わせて頭を下げた。
「…わかりました。…必ず真実を私たちに伝えていただきたい。どんな残酷な真実であっても構いませんから。」
千代田の父親は、泣き崩れる母親を抱きしめながら言った。
杉崎はお礼を言い、溝口に解剖医学センターの予約を取らせた。早く葬儀をしてやりたいという遺族の意向もあり、急遽2時間後に行うこととなった。
池畑、溝口、秋吉は、遺族への説明を杉崎と鷲尾に任せた、部屋を出て執務室へ向かった。
「秋吉さん、こんなこと言いたくないですが、千代田さんに何か言われてたんですよね?」
執務室へ向かう道中で、溝口がボソッと口にした。
「お前、俺が何かやったと言いたいのか?馬鹿が。俺はあん時お前と一緒にいたろ。…だいたい俺はお前にも忠告したよな?これ以上組織の決定を裏切るようなことはやめろって。」
「…それって、桐生朱美の件か?」
池畑が二人の会話に入り込んだ。
「池畑、お前わかってんじゃねぇか、そうだよ。俺がお前らから引き継いだ桐生朱美の事件、上はもうこれ以上捜査はするなとお達しを出した。…俺だって不本意だ。千代田の言うとおり、まだ世には出てない真実が隠れていると思ってるさ。だが、俺は命令には従う。そういうもんだろ?組織ってのは。」
秋吉はそう言うと、池畑と溝口を置いてそそくさと行ってしまった。
「…池畑さん。知らない方がよい真実ってあると思いますか?」
徐々に小さくなっていく秋吉の姿を見つめながら溝口がボソッと呟いた。
「………。」
池畑は何も答えなかった。
ー 北条出版 ー
17時40分
定時が過ぎた執務室の正人と畑のシマには、正人、畑、足立、稗田、生駒が残業していた。
「正人、無理しないで帰っていいんだぞ。」
生駒が缶コーヒーを啜りながら言った。
「あぁ、ありがとう。キリがいいとこまで。」
正人がキーボードを叩きながら答えた。しばらく画面と格闘していると、トンッと机に何かを置く音がしたので、見ると缶コーヒーが置かれていた。
「お疲れ様です、先輩。」
畑と足立だった。
「ちょっといいですか?」
正人が頷くと二人は自席から持ってきた椅子に座ると、畑が質問した。
「あれから、池畑刑事から何か連絡ありましたか?」
「いや、特には。…まぁ池畑さんも真剣に聞いててくれたし、何かしら動いてくれてるとは思うが。」
すると、足立は手に持っていた封筒から荒々の企画案を書いた紙を正人に渡した。
「あのぅ、私たち、次の記事でkiriちゃんの事件を書こうと思ってまして、来週月曜にkiriちゃんのアパートに行こうと思ってるんです。」
「それで、出来たら村上さんにも一緒に来て頂けないかと…。」
足立と畑が顔色を伺うように言った。すると、生駒が急に立ち上がり、畑たちを睨んだ。
「お前ら、まだ警察みたいなことしようとしてるんじゃないだろうな!?長尾は桐生朱美と絡んでるとしたら単純な事件じゃない。深掘りしたら、お前たちにも危険が及ぶかもしれないぞ。」
いつも優しい生駒がかなりの剣幕で物申したため、畑と足立は呆気にとられてしまった。
「一緒に行ってやれ、村上。」
稗田が自席で座りながら言った。
「班長、いいんですか!?」
まさかのフォローに生駒は驚いた。
「村上、お前も気にしてるんだろ?畑と一緒に警察に行ったらしいじゃないか。…まだ復帰したばかりだから、気晴らしも兼ねて群馬行ってこい。」
「…わかりました。」
畑と足立は稗田に一礼し、その後生駒にも一礼した。生駒は乱暴に自席に座り、舌打ちして仕事を再開した。
「…どうなっても知らないからな。」
生駒の独り言は、正人の耳だけに届いていた。
ー 神奈川県警 署内地下霊安室 ー
17時35分
バタバタバタと廊下を物凄い勢いで駆けてくる足音が聞こえ、ノックもなしに霊安室の扉が開いた。
「千代田!!」
「…池畑さん。」
溝口の声は涙声だった。霊安室には他に千代田の家族と杉崎、秋吉、鷲尾がいた。
「すまない、こんなことになって。」
杉崎が責任者として池畑にも頭を下げた。霊安室には千代田の家族であろう、両親と弟が千代田の遺体を囲み、静かに涙を流していた。
「……自殺ですか?事故ですか?…それとも。」
千代田の父親が誰にでもなく疑問を吐いた。誰も即座に返答ができない中、鷲尾が口を開いた。
「…私は3年近く、彼女とペアを組んで、色々と捜査を行ってきました。とても素直な子で、仕事熱心で、真実を突き止めようとする思いは我々の中で一番だったと思います。その分、無茶をすることもありましたが、私も出来るだけ彼女をサポートしてきました。
…今はまだ事故か自殺か、はたまた事件に巻き込まれたのか、判断が付いていません。でも、彼女が自殺する理由は私には見当たりません。」
「これからしっかりと捜査をします。それと…ひとつお願い事がございます。娘さんを司法解剖させていただきたい。真実を見つけるために。」
杉崎がゆっくり深々と頭を下げた。
「…これ以上娘に傷は……。」
千代田の母親が目を伏せながら言った。
「娘さんがずっと追い求め、信念としていた真実というものを突き止めたいんです。私も娘さんが自殺したなんて思えません。なら、事故なのか、事件に巻き込まれたのか、あらゆる面から細かく捜査し、真実に結び付けたいんです。…よろしくお願いいたします。」
杉崎がもう一度頭を下げると、池畑ら四人も合わせて頭を下げた。
「…わかりました。…必ず真実を私たちに伝えていただきたい。どんな残酷な真実であっても構いませんから。」
千代田の父親は、泣き崩れる母親を抱きしめながら言った。
杉崎はお礼を言い、溝口に解剖医学センターの予約を取らせた。早く葬儀をしてやりたいという遺族の意向もあり、急遽2時間後に行うこととなった。
池畑、溝口、秋吉は、遺族への説明を杉崎と鷲尾に任せた、部屋を出て執務室へ向かった。
「秋吉さん、こんなこと言いたくないですが、千代田さんに何か言われてたんですよね?」
執務室へ向かう道中で、溝口がボソッと口にした。
「お前、俺が何かやったと言いたいのか?馬鹿が。俺はあん時お前と一緒にいたろ。…だいたい俺はお前にも忠告したよな?これ以上組織の決定を裏切るようなことはやめろって。」
「…それって、桐生朱美の件か?」
池畑が二人の会話に入り込んだ。
「池畑、お前わかってんじゃねぇか、そうだよ。俺がお前らから引き継いだ桐生朱美の事件、上はもうこれ以上捜査はするなとお達しを出した。…俺だって不本意だ。千代田の言うとおり、まだ世には出てない真実が隠れていると思ってるさ。だが、俺は命令には従う。そういうもんだろ?組織ってのは。」
秋吉はそう言うと、池畑と溝口を置いてそそくさと行ってしまった。
「…池畑さん。知らない方がよい真実ってあると思いますか?」
徐々に小さくなっていく秋吉の姿を見つめながら溝口がボソッと呟いた。
「………。」
池畑は何も答えなかった。
ー 北条出版 ー
17時40分
定時が過ぎた執務室の正人と畑のシマには、正人、畑、足立、稗田、生駒が残業していた。
「正人、無理しないで帰っていいんだぞ。」
生駒が缶コーヒーを啜りながら言った。
「あぁ、ありがとう。キリがいいとこまで。」
正人がキーボードを叩きながら答えた。しばらく画面と格闘していると、トンッと机に何かを置く音がしたので、見ると缶コーヒーが置かれていた。
「お疲れ様です、先輩。」
畑と足立だった。
「ちょっといいですか?」
正人が頷くと二人は自席から持ってきた椅子に座ると、畑が質問した。
「あれから、池畑刑事から何か連絡ありましたか?」
「いや、特には。…まぁ池畑さんも真剣に聞いててくれたし、何かしら動いてくれてるとは思うが。」
すると、足立は手に持っていた封筒から荒々の企画案を書いた紙を正人に渡した。
「あのぅ、私たち、次の記事でkiriちゃんの事件を書こうと思ってまして、来週月曜にkiriちゃんのアパートに行こうと思ってるんです。」
「それで、出来たら村上さんにも一緒に来て頂けないかと…。」
足立と畑が顔色を伺うように言った。すると、生駒が急に立ち上がり、畑たちを睨んだ。
「お前ら、まだ警察みたいなことしようとしてるんじゃないだろうな!?長尾は桐生朱美と絡んでるとしたら単純な事件じゃない。深掘りしたら、お前たちにも危険が及ぶかもしれないぞ。」
いつも優しい生駒がかなりの剣幕で物申したため、畑と足立は呆気にとられてしまった。
「一緒に行ってやれ、村上。」
稗田が自席で座りながら言った。
「班長、いいんですか!?」
まさかのフォローに生駒は驚いた。
「村上、お前も気にしてるんだろ?畑と一緒に警察に行ったらしいじゃないか。…まだ復帰したばかりだから、気晴らしも兼ねて群馬行ってこい。」
「…わかりました。」
畑と足立は稗田に一礼し、その後生駒にも一礼した。生駒は乱暴に自席に座り、舌打ちして仕事を再開した。
「…どうなっても知らないからな。」
生駒の独り言は、正人の耳だけに届いていた。
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