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最終章 真実と代償 第1節 同胞
(2)
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19時05分
畑たちが帰宅し、執務室内には正人と生駒だけになった。正人も帰るためにパソコンを閉じ、鞄に手帳などを仕舞いながら生駒に聞いた。
「なぁ、畑と足立に言ってた件、心配してんだろ?あんなに怒鳴らなくても良かったのに。…お前不器用だからな。」
「フッ、本当にな。由比裁判長の件で単純な事件じゃないなってわかってさ。あいつらに高遠さんみたいな結末には、なって欲しくなかったってだけだ。………もちろんお前もな。………無茶はすんなよ。」
「あぁ、わかってるよ。お疲れさん。」
正人は手を振りながら執務室を出ていった。
「…何か嫌な予感がするんだよな………。」
生駒が正人を見送りながら呟いた。
ー 横浜市内某所 ー
19時15分
「…はい、もしもし。」
「ま、眞鍋か!?やっと出てくれたか。」
「……その声は室長ですか?」
「お前今どこにいる?」
「…………。」
「悪いことは言わん。リムを持って帰ってこい。」
「…………。」
「おい、眞鍋、聞いてるのか?」
「……私はもう……取り返しのつかないことをしています。…私にはもう時間がありません。」
「時間が……やっぱりお前…。」
「室長、ご迷惑かけてすみません。最期にはリムをお返ししますから。では。」
「まな……」
プーッ、プーッ、プーッ。
ー 解剖医学センター ー
19時30分
池畑、溝口、秋吉、鷲尾の四人は千代田の解剖に立ち会うためにセンターを訪れていた。
間もなく解剖が始まる時間となり、四人は千代田の遺体を解剖台の上にゆっくり移した。すると、解剖室の扉が開き、久保寺と本多がゴム手袋を付けながらやって来た。
「なーに、こんなに警察が立ち会うの?あんたたち暇ねぇ。」
久保寺が遺体に覆われたビニールを剥がしながら言った。
「え?千代田ちゃん!?」
溝口が予約をした時は本多が相手をしており、久保寺は千代田の遺体を解剖することを知らなかったらしい。
「揃いも揃ってってのはそういうこと。本多くん、何で私に言わなかったの?」
久保寺は、本多を睨み付けた。
「え!あ、いえ。先生いつもおっしゃってたから。遺体がどこの誰とは関係ない。男か女か、年齢が分かれば十分。余計な感情は解剖の邪魔だって。」
本多は、蛇に睨まれたカエルのように、ビビって固まっていた。
「…そうね。でもね、私は千代田ちゃんだから余計な感情を挟んだ解剖をするつもりは毛頭ないわ。そうじゃなくて、どんだけ私が正確な解剖をしても、知り合いの解剖書は信憑性に欠けてしまうのよ。裁判時の証拠に成りうるとしても、第三者から見たら何か私情を挟んだんじゃないかって思われてしまうの。…だから、今回の件は先に知りたかったわ。」
本多は自分の判断が誤ったことに反省の面を浮かべ、すみませんと頭を下げた。
「とりあえず、千代田ちゃんと親交の無かった先生に代わって貰うかな。」
池畑は、親交のあった人間が突然遺体として目の前に現れても何一つ動じない久保寺を凄いと思った。
そんな池畑の視線に気付いた久保寺は、池畑たちに向かって淡々と話し出した。
「冷静でしょ?私。決めてるのよ、この部屋では私情は出さないって。言い方悪いけど、遺体はモノ、それが知りあいだろうが家族だろうが、その考えは崩したくはない。
………でも、この部屋出たら多分悲しくなるわね。まぁ、あなたたちにその姿を見せるつもりはないけどね。……本多くん、早野(はやの)先生呼んできてくれる?」
「は、はい。」
本多が解剖室の扉に向かって走り出すと、扉が開き、男性が室内に入ってきた。皆の視線が扉に集中した。
「私がやろう。」
「…竈山(かまどやま)センター長…。」
本多がまた固まった。
畑たちが帰宅し、執務室内には正人と生駒だけになった。正人も帰るためにパソコンを閉じ、鞄に手帳などを仕舞いながら生駒に聞いた。
「なぁ、畑と足立に言ってた件、心配してんだろ?あんなに怒鳴らなくても良かったのに。…お前不器用だからな。」
「フッ、本当にな。由比裁判長の件で単純な事件じゃないなってわかってさ。あいつらに高遠さんみたいな結末には、なって欲しくなかったってだけだ。………もちろんお前もな。………無茶はすんなよ。」
「あぁ、わかってるよ。お疲れさん。」
正人は手を振りながら執務室を出ていった。
「…何か嫌な予感がするんだよな………。」
生駒が正人を見送りながら呟いた。
ー 横浜市内某所 ー
19時15分
「…はい、もしもし。」
「ま、眞鍋か!?やっと出てくれたか。」
「……その声は室長ですか?」
「お前今どこにいる?」
「…………。」
「悪いことは言わん。リムを持って帰ってこい。」
「…………。」
「おい、眞鍋、聞いてるのか?」
「……私はもう……取り返しのつかないことをしています。…私にはもう時間がありません。」
「時間が……やっぱりお前…。」
「室長、ご迷惑かけてすみません。最期にはリムをお返ししますから。では。」
「まな……」
プーッ、プーッ、プーッ。
ー 解剖医学センター ー
19時30分
池畑、溝口、秋吉、鷲尾の四人は千代田の解剖に立ち会うためにセンターを訪れていた。
間もなく解剖が始まる時間となり、四人は千代田の遺体を解剖台の上にゆっくり移した。すると、解剖室の扉が開き、久保寺と本多がゴム手袋を付けながらやって来た。
「なーに、こんなに警察が立ち会うの?あんたたち暇ねぇ。」
久保寺が遺体に覆われたビニールを剥がしながら言った。
「え?千代田ちゃん!?」
溝口が予約をした時は本多が相手をしており、久保寺は千代田の遺体を解剖することを知らなかったらしい。
「揃いも揃ってってのはそういうこと。本多くん、何で私に言わなかったの?」
久保寺は、本多を睨み付けた。
「え!あ、いえ。先生いつもおっしゃってたから。遺体がどこの誰とは関係ない。男か女か、年齢が分かれば十分。余計な感情は解剖の邪魔だって。」
本多は、蛇に睨まれたカエルのように、ビビって固まっていた。
「…そうね。でもね、私は千代田ちゃんだから余計な感情を挟んだ解剖をするつもりは毛頭ないわ。そうじゃなくて、どんだけ私が正確な解剖をしても、知り合いの解剖書は信憑性に欠けてしまうのよ。裁判時の証拠に成りうるとしても、第三者から見たら何か私情を挟んだんじゃないかって思われてしまうの。…だから、今回の件は先に知りたかったわ。」
本多は自分の判断が誤ったことに反省の面を浮かべ、すみませんと頭を下げた。
「とりあえず、千代田ちゃんと親交の無かった先生に代わって貰うかな。」
池畑は、親交のあった人間が突然遺体として目の前に現れても何一つ動じない久保寺を凄いと思った。
そんな池畑の視線に気付いた久保寺は、池畑たちに向かって淡々と話し出した。
「冷静でしょ?私。決めてるのよ、この部屋では私情は出さないって。言い方悪いけど、遺体はモノ、それが知りあいだろうが家族だろうが、その考えは崩したくはない。
………でも、この部屋出たら多分悲しくなるわね。まぁ、あなたたちにその姿を見せるつもりはないけどね。……本多くん、早野(はやの)先生呼んできてくれる?」
「は、はい。」
本多が解剖室の扉に向かって走り出すと、扉が開き、男性が室内に入ってきた。皆の視線が扉に集中した。
「私がやろう。」
「…竈山(かまどやま)センター長…。」
本多がまた固まった。
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