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第3節 震撼
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ー 群馬県前橋市 長尾宅内 ー
10時20分
「犬童先輩、また長尾智美の自宅の捜索って、何が目的ですか。既に目ぼしいものは徴収済みだと思うんですけど。」
長尾智美の部屋の中、ソファに腰を下ろした松蔭がぼやいた。
「まぁだ事件は解決してない、原点で見落としがあるかもしれないだろ?…あ、こら、ソファに座るな。」
犬童は松蔭に立つようにジェスチャーをし、松蔭は渋々立ち上がった。
「…松蔭、なんか急は妙にやる気を感じないな。」
「…だって、今日土曜日ですよぉ。当番でもないですし…目的教えてくださいよ。」
松蔭が口を尖らせながら言った。
「すまんな。…何か予定があったか?デートとか。」
犬童は、松蔭がフリーなのを知っていて、笑みを浮かべながら聞いた。
「……いや、無いんですけど。なんか、予定無いこと、改めて意識させられるとまた腹立たしいです。てか、今の発言、セクハラですからね!」
松蔭はぷっくりと頬を膨らませて怒ってることを表した。犬童は、松蔭のその顔を見て、一瞬吹き出しそうになったが、特に触れずに捜査の話を始めた。
「まだわかってない金融機関の口座だよ、口座。若者の一人暮らしだったら収入源はバイトだろ?だったら給料の振込みがあるだろう。」
無視された松蔭は渋々頬を元に戻し、またソファに座りながら答えた。
「それが…バイトはしてなかったようで。どうやら親からの仕送りのみだったようですよ。それも毎月現金書留で送られてきてたようで。空の封筒が複数見つかりました。…調書読んでないんですか?」
犬童は、松蔭が再びソファに座ったことに気が付き、立ち上がるようジェスチャーをしながら言った。
「直接的な部分しか目を通してはない。…だが、例のサイトで呪いの紙を購入した人間にも、現金書留で代金を送らせてたのか?住所なんて知らせたくはない内容だろうに。」
すると、松蔭が何かを思い付き、ソファを勢いよく立ち上がった。
「もしかすると!口座も長尾智美っていう本名では作ってないかもしれませんね。可能性のある金融機関に問合せをして見つからなかったのは、それが原因かもしれませんよ。」
松蔭が名推理だと勝ち誇った表情で言った。
「…偽名の口座…か。と、なると通帳とかも何とかっていうバンドのグッズと、同じ場所に隠してる可能性があるな。」
「ミストです。…あ、じゃあ手紙もかも。…でも、一体どこに。携帯に連絡先が入っていた友人には全員に聞きましたが、誰も預かってはないってことですし。」
「そう言えば、連絡したうちの誰かが男の話をしてただろ。」
松蔭は手帳を開き、メモを探した。
「あ、漆崎紗希さんですね。そのバンドを通じて知り合ったと言ってました。紗希さんの話ですと、れんたっていう男の人の名前を智美さんが時々言っていたと。……でも、れんたなんて名前で携帯のアドレス帳には無いんですよねぇ。」
「……………。」
15分後に二人は長尾の部屋を出た。
「…何も見つかなかったな。壁や床下に隠し穴のようなものがあると睨んだんだが。」
松蔭がアパートの入り口に目を向けると、調度郵便業者がスクーターに乗り、去っていくところだった。その姿を見て、松蔭は入り口脇に付いている集合ポストへと駆け寄り、長尾の部屋番号のポストを覗きこんだ。
「犬童先輩、ビンゴかもしれません。」
その言葉に、犬童も駆け寄り、捜査の為に予め解錠されていたポストを開いた。
中には、金融機関からの封筒が一通入っており、松蔭が取り出して見てみると、宛名は長尾智美ではなかった。
「…藁科美帆(わらしなみほ)…?誰ですかね。」
「今の集合ポストは部屋番号だけで、表札は載せてないんだな。…戻って調べてみるか。とにかく、これでまた事件が動きそうだな。」
犬童はニヤリとした。
ー 横浜市内某所 ー
「…では、まずは何からお話ししましょうかね。…先程池畑さんにお渡しした名刺に私の肩書きがございますが、今はもう、その肩書きは関係なくなっていると思います。」
「それは…どういう意味ですか?」
池畑が聞いた。柳田は、三人の会話を聞きながら、各々のカップにコーヒーを注ぎながら聞き耳を立てていた。
「私は……犯罪者です。このリムを研究室から盗み出した。」
犯罪者という言葉に、正人と池畑は驚き、顔を見合わせた。
「幸司様!よろしいのですか!?」
柳田も予期せぬ眞鍋の言葉に、話を止めようとした。
「いや、いいんだ柳田。私にはもう時間がないのだ。この二人は、私にとっての最期の希望となろう。全て正直に話しておきたいんだよ。」
柳田は一礼し、部屋を後にした。眞鍋は、コーヒーを一口飲み、話を続けた。
「この倉庫は眞鍋家のもので、柳田は本当にうちに仕えていた執事です。祖父が事業で大成功し、莫大な富を得て、父親も跡を継ぎました。…でも、私は父の会社は継ぎたくなかった。大学卒業と同時に継がないことを告げ、好きな生物学の研究を取り、両親には勘当され、家を飛び出しました。
柳田は普段は実家に居ますが、私の育ての親と言っても過言ではない彼は、両親の目を盗んでは私の元に来てくれています。この倉庫も柳田が用意してくれたものです。柳田はもっと良い物件を用意すると言ってくれたのですが、リムを置くにはこの倉庫が調度良かった。この家も見た目通り、ドラマのセットを買い取ったものです。私が終始リムを眺めていられるように、我が儘を言ったんです。…変わってますよね。」
後半笑いながら話す眞鍋に、正人と池畑は、苦笑いをするのが精一杯だった。
「…さっき、リムは研究室から盗んだと言っていましたが…。」
池畑が聞いた。
「…えぇ。…桐生朱美はご存知ですよね。」
正人と池畑は頷いた。
「彼女は…私の恋人でした。」
10時20分
「犬童先輩、また長尾智美の自宅の捜索って、何が目的ですか。既に目ぼしいものは徴収済みだと思うんですけど。」
長尾智美の部屋の中、ソファに腰を下ろした松蔭がぼやいた。
「まぁだ事件は解決してない、原点で見落としがあるかもしれないだろ?…あ、こら、ソファに座るな。」
犬童は松蔭に立つようにジェスチャーをし、松蔭は渋々立ち上がった。
「…松蔭、なんか急は妙にやる気を感じないな。」
「…だって、今日土曜日ですよぉ。当番でもないですし…目的教えてくださいよ。」
松蔭が口を尖らせながら言った。
「すまんな。…何か予定があったか?デートとか。」
犬童は、松蔭がフリーなのを知っていて、笑みを浮かべながら聞いた。
「……いや、無いんですけど。なんか、予定無いこと、改めて意識させられるとまた腹立たしいです。てか、今の発言、セクハラですからね!」
松蔭はぷっくりと頬を膨らませて怒ってることを表した。犬童は、松蔭のその顔を見て、一瞬吹き出しそうになったが、特に触れずに捜査の話を始めた。
「まだわかってない金融機関の口座だよ、口座。若者の一人暮らしだったら収入源はバイトだろ?だったら給料の振込みがあるだろう。」
無視された松蔭は渋々頬を元に戻し、またソファに座りながら答えた。
「それが…バイトはしてなかったようで。どうやら親からの仕送りのみだったようですよ。それも毎月現金書留で送られてきてたようで。空の封筒が複数見つかりました。…調書読んでないんですか?」
犬童は、松蔭が再びソファに座ったことに気が付き、立ち上がるようジェスチャーをしながら言った。
「直接的な部分しか目を通してはない。…だが、例のサイトで呪いの紙を購入した人間にも、現金書留で代金を送らせてたのか?住所なんて知らせたくはない内容だろうに。」
すると、松蔭が何かを思い付き、ソファを勢いよく立ち上がった。
「もしかすると!口座も長尾智美っていう本名では作ってないかもしれませんね。可能性のある金融機関に問合せをして見つからなかったのは、それが原因かもしれませんよ。」
松蔭が名推理だと勝ち誇った表情で言った。
「…偽名の口座…か。と、なると通帳とかも何とかっていうバンドのグッズと、同じ場所に隠してる可能性があるな。」
「ミストです。…あ、じゃあ手紙もかも。…でも、一体どこに。携帯に連絡先が入っていた友人には全員に聞きましたが、誰も預かってはないってことですし。」
「そう言えば、連絡したうちの誰かが男の話をしてただろ。」
松蔭は手帳を開き、メモを探した。
「あ、漆崎紗希さんですね。そのバンドを通じて知り合ったと言ってました。紗希さんの話ですと、れんたっていう男の人の名前を智美さんが時々言っていたと。……でも、れんたなんて名前で携帯のアドレス帳には無いんですよねぇ。」
「……………。」
15分後に二人は長尾の部屋を出た。
「…何も見つかなかったな。壁や床下に隠し穴のようなものがあると睨んだんだが。」
松蔭がアパートの入り口に目を向けると、調度郵便業者がスクーターに乗り、去っていくところだった。その姿を見て、松蔭は入り口脇に付いている集合ポストへと駆け寄り、長尾の部屋番号のポストを覗きこんだ。
「犬童先輩、ビンゴかもしれません。」
その言葉に、犬童も駆け寄り、捜査の為に予め解錠されていたポストを開いた。
中には、金融機関からの封筒が一通入っており、松蔭が取り出して見てみると、宛名は長尾智美ではなかった。
「…藁科美帆(わらしなみほ)…?誰ですかね。」
「今の集合ポストは部屋番号だけで、表札は載せてないんだな。…戻って調べてみるか。とにかく、これでまた事件が動きそうだな。」
犬童はニヤリとした。
ー 横浜市内某所 ー
「…では、まずは何からお話ししましょうかね。…先程池畑さんにお渡しした名刺に私の肩書きがございますが、今はもう、その肩書きは関係なくなっていると思います。」
「それは…どういう意味ですか?」
池畑が聞いた。柳田は、三人の会話を聞きながら、各々のカップにコーヒーを注ぎながら聞き耳を立てていた。
「私は……犯罪者です。このリムを研究室から盗み出した。」
犯罪者という言葉に、正人と池畑は驚き、顔を見合わせた。
「幸司様!よろしいのですか!?」
柳田も予期せぬ眞鍋の言葉に、話を止めようとした。
「いや、いいんだ柳田。私にはもう時間がないのだ。この二人は、私にとっての最期の希望となろう。全て正直に話しておきたいんだよ。」
柳田は一礼し、部屋を後にした。眞鍋は、コーヒーを一口飲み、話を続けた。
「この倉庫は眞鍋家のもので、柳田は本当にうちに仕えていた執事です。祖父が事業で大成功し、莫大な富を得て、父親も跡を継ぎました。…でも、私は父の会社は継ぎたくなかった。大学卒業と同時に継がないことを告げ、好きな生物学の研究を取り、両親には勘当され、家を飛び出しました。
柳田は普段は実家に居ますが、私の育ての親と言っても過言ではない彼は、両親の目を盗んでは私の元に来てくれています。この倉庫も柳田が用意してくれたものです。柳田はもっと良い物件を用意すると言ってくれたのですが、リムを置くにはこの倉庫が調度良かった。この家も見た目通り、ドラマのセットを買い取ったものです。私が終始リムを眺めていられるように、我が儘を言ったんです。…変わってますよね。」
後半笑いながら話す眞鍋に、正人と池畑は、苦笑いをするのが精一杯だった。
「…さっき、リムは研究室から盗んだと言っていましたが…。」
池畑が聞いた。
「…えぇ。…桐生朱美はご存知ですよね。」
正人と池畑は頷いた。
「彼女は…私の恋人でした。」
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