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第3節 震撼
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ー 神奈川県警 署内 ー
土曜日のため、執務室内はほとんど人がいない中、秋吉は大量の資料を広げ、読み更けていた。
「眞鍋…幸司。奴が全てを握ってるな。」
秋吉はボールペンで、資料に書かれた眞鍋の名前をトントン叩きながら独り言を呟いた。
ー 横浜市内某所 ー
「桐生朱美の恋人、あなたが?」
池畑が驚きながら聞いた。眞鍋は大きく頷き話を続けた。
「大学の頃に出会い、同じ研究テーマで意気投合しましてね。我々は生命の死について研究をしていました。死についての研究を深めると、それは逆に生命の延長、ひいては生命の再生に繋がると考えていました。…このリムの原型を考えたのは彼女です。…彼女は併せてヒエロニムズマシンについても研究をしていました。ご存知ですか?」
「えぇ、名前だけは。確かアメリカの科学者が発明したものですよね。念だけで遠くの家にいる虫を殺した記録が残ってると。」
即答した池畑の横で、全く知らなかった正人は、黙って二人の話を聞いていた。
「さすが刑事さん。アメリカでは特許も取得されているものですが、科学的には今日まで認められてはいませんでした。」
正人は一人会話に付いていけないといった表情で、聞き手に徹することを決め、背中を椅子の背もたれに預けて、腕を組むリラックスできる姿勢に直した。そんな正人を見て、眞鍋はニコっと微笑み、話を続けた。
「簡単に言えば、彼女はヒエロニムズマシンを対人間用に改善しようとしていました。それは当然殺すためのものではなく、もし人間を念だけで操ることができたら、身体の不自由な人や年配の人など、多岐にわたる分野で活用できると信じての研究です。」
「操るって…それが呪いの根源ですよね。やっぱり桐生朱美が呪いの生みの親か。」
聞き手に徹する姿勢をしたが、思い付きで言葉に出てしまった正人に対し、少しムッとした表情で眞鍋が反論した。
「朱美は本当に殺人とは真逆のことを考えて研究に没頭していました。勿論、理論的に殺人が可能ということも頭の片隅にはあったと思います。でも、本当の彼女は違う!」
眞鍋の今までにない凄みに正人は驚き、すみませんと謝った。
「…あ、いえ、すみません、取り乱しました。でも、今私の言ったことは本当です。」
眞鍋は立ち上がって頭を下げた。池畑は、場の空気を立て直そうと話題を変えた質問をした。
「眞鍋さん、ひとついいですか?朱美さんは父親に育てられたんですよね。…親子仲はどうでしたか?」
眞鍋は再び椅子に腰掛け、少しの間、床を見つめるように考え込むと、決意したかのように顔を上げ、池畑に目を向けた。
「池畑さん。その聞き方は、既に真実をご存知ですね?」
「…と言いますと?」
池畑は一回とぼけて見せた。だが、更に眞鍋の表情は固くなり、池畑を睨みながら話し出した。
「…私にはわかります、池畑さんが演技をしてることが。あなたがご存知の通りです、朱美は父親から性的暴行を受けていました。」
「えっ!?」
驚く正人と、一切表情を変えない池畑に眞鍋は、やはりという表情をした。眞鍋はリムを見つめながら続けた。
「私もその事を知ったのは本当にだいぶ後になってです。これは、私の想像ですが、きっと普段は普通の良い父親なんでしょう。彼女の大学の費用も問題なく支払ってくれていたようですし。多分、彼女の中ではかなりの葛藤があった。もし、警察になんか知らせたら、もう大学の費用が払えなくなり、好きな研究が一切できなくなる。または、唯一の身内を失い一人ぼっちになってしまうという恐怖から…か。」
「…直接聞いたわけじゃないんですか?」
池畑が詰め寄った。
「…ふっ。…いよいよ核心をお話ししますかね。」
正人は、眞鍋が何かとんでもない話をし出すと思い身構えた。
「桐生朱美は…リムにより生き返った最初の人間です。」
「え、今、死刑を待っている桐生朱美は…。」
正人は頭が混乱してきた。
「今刑務所にいる桐生朱美は、一度蘇った桐生朱美…そういうことですか。」
池畑が冷静な口調で確認した。眞鍋は、頷き話を続けた。
「あれは、朱美が逮捕される一年前くらいでした。二日間全く連絡がつかず、心配になった私が自宅を訊ねると…寝室で全裸で息絶えている父親と、クローゼットの取っ手に、タオルを巻き付けて首を吊っている朱美の姿がありました。父親の下半身は刃物で切断されており、それを見て私は気付きました。朱美が父親から性的暴行を受けており、我慢の限界がきて、犯行に及んだのだと。…私は警察には連絡しませんでした。何故かその光景を見た途端、ひとつのシナリオが頭に浮かびました。」
「…それが、朱美さんを生き返らせるということですか。」
正人の言葉に、眞鍋は大きく頷き話を続けた。
「リムは90パーセント以上完成していました。ただ、まだ人間で試験をするには危険があるとし、ネズミなどの小さな動物で数回行った程度だったんです。…私は朱美を生き返らせるために、誰もいない研究室で朱美を再生した。」
「父親の死体はどうしたんですか?父親は現在、行方不明状態になっている。」
池畑の質問に、眞鍋は立ちあがり、落ち着かない様子でキッチンの方へのと歩きながら答えた。
「私が始末しました。薬品で…溶かした。これで、全てはうまくいくはずだったんです。」
池畑も席を立ち上がった。
「眞鍋さん、あなたは…。」
「蘇った朱美は、かつての朱美じゃなかった!!」
眞鍋は池畑の言葉を掻き消すように、大きめの声量で会話を重ねた。
「蘇った朱美には、父親への、いや、人間への恨みの感情しかなかった!よほどの期間、父親から暴行を受けていたのでしょう。部屋を漁ると生き別れの母親に宛てた、助けを乞う手紙がありました。クシャクシャになっていたので、恐らくは失敗作だったんでしょうが、母親への助けも実らなかった。結局、恋人の私には良い顔を見せるために相談もできず…彼女は…苦しんで…いたんだと…思います。」
眞鍋は後半になるにつれ、守れなかった後悔の念で自然と涙が込み上げてきた。
「それからすぐでした。彼女が現在の呪いの理論を完成させたのは。…まさか、実際に人殺しに使うなんて思いもしませんでした。………つまり、私なんですよ。私が…殺人鬼桐生朱美を造り上げたんです。」
「眞鍋さん…。」
正人は何も言葉が見つからなかった。
「逮捕しますか?私を。」
眞鍋は両手を前に出しながら、池畑の目を見て言った。
「…証拠がありません。…そんな妄想話を証拠に逮捕なんてできませんよ。」
池畑が鼻で笑いながら言った。
「嘘かどうかはもうじき分かります。」
その言葉で、正人は漸く気がついた。
「ちょっと待ってください!リムの条件にありましたよね。生き返らせた人間が殺された場合、監督責任者は…。」
「もう半月以内になりますかね、朱美の死刑。その日が私の死刑日にもなる。池畑さん、これで赦してください。」
池畑は落ち着かない様子で、自分が当初寝かされていたソファへと移った。正人と眞鍋を背後に、ソファに座りながら話し始めた。
「今の妄想話は冥土の土産のつもりですか?…私は何も聞いてませんし、知りません。」
眞鍋は何も言わず、少し震えながら、ソファに腰掛けた池畑の背中に深く深く頭を下げた。
「妹の長尾智美さんとは交流は?」
正人が混乱中の頭の中を整理し、眞鍋が長尾智美とも面識があった可能性があると考え、質問した。
「いえ、生き別れの妹がいることは知っていましたが。それに、朱美は妹の住んでいる住所も知っていました。実際に会っていたかはわかりません。……とにかく、朱美はリムで生き返ってから人が変わってしまった。私には暴走する朱美を止められなかった……。…だから、朱美が逮捕されたとき、ホッとしました。そして…私の罪の償い方はこれしかなかったんです。」
眞鍋の最後の言葉に、池畑はハッとした。
「まさか、由比裁判長らに死刑判決を出させたのは…あなたですか?」
眞鍋は微笑みを浮かべた。
「…全てです。朱美を、いや、自分も死刑にするには、警察も検察も裁判所も手中にする必要があった。呪いのメカニズムは朱美の資料を呼んで分かりました。…私は朱美の父親の遺体を損壊、消滅させ、朱美自身も殺した。…文字通り死刑に相応しい人間なんですよ。」
「…警察も…。」
池畑は、警察も呪いで操られいたのかと恐怖を感じた。正人は、次々と明るみになる真実が余りに衝撃過ぎて絶句した。
今、目の前にいる人物が、今の世の中を震撼させている呪い騒動の創造主であることに、恐怖心からか、身体が震えてきた。
「眞鍋さん、私は…あなたを拘束したり逮捕したりはしない。さっきも言ったが証拠がない。頭のイカれた妄想話と判断させてもらいます。」
池畑も、冷静を装っていたが、内心震えていた。
「あの…朱美さんは失敗したと言っていましたが、今回のは大丈夫なんですか?」
正人の問いに、眞鍋は再びダイニングテーブルの椅子に腰掛けて答えた。
「数値を…変えています。間違いなく、あなたたちが望む姿、中身に近い形で再生されるはずです。これは本来のリムの使い道です。私は死ぬ前に、朱美と私の努力の結晶を目の前で見たかった。漸くその日が来ました、感謝申し上げます。…それから、あと三時間程度で再生が完了しますが、この状況をどう本人にご説明するかを考える必要があろうかと思います。」
眞鍋の言葉に、池畑はソファに座りながら振り向き、正人の目を見ながら聞いた。
「村上さんは、奥さんにどう説明しますか?私は…由香里は科学者です。真実に近い形を打ち明けるつもりです。」
「そうですね、正直全く考えていませんでした。でも、南雲由実が死んだことと本人が自殺したことは出来る限り隠すつもりです。本人の情緒を見ながら、折を見て話していけたら。…とりあえずは、不慮の事故で死んでしまったことにでも…。」
正人はあまり自信のなさそうな弱々しい声で答えた。
「まだ時間はありますから、お考えください。死んだ人間が生き返ること、更にはしっかり荼毘に伏した方が生き返ることは、周囲にも混乱を招くことが必至です。私も出来る限りのことは協力いたしますので。」
眞鍋はそう言うと、パンパンと手を打ち鳴らした。すると、キッチンの奥の扉から柳田が部屋に入ってきた。
「客人に温かい紅茶をお願いします。」
「畏まりました。」
キッチンの奥から、良い茶葉の香りがし始めた。
14時12分
ピーピーピー、リムがサイレンを鳴らし始めた。いきなりの音に、正人と池畑はビクッと身体を歪ませた。
「あの音は、あと五分で完了の合図です。では、お持ちいただいた衣装を持って、リムの元へ行きましょう。」
正人と池畑は言われたとおり、鞄から衣装を取り出し、眞鍋の後ろに付いて、ゆっくりと歩き出した。
正人の胸は、今までにないくらい、大きな音で鼓動していた。
土曜日のため、執務室内はほとんど人がいない中、秋吉は大量の資料を広げ、読み更けていた。
「眞鍋…幸司。奴が全てを握ってるな。」
秋吉はボールペンで、資料に書かれた眞鍋の名前をトントン叩きながら独り言を呟いた。
ー 横浜市内某所 ー
「桐生朱美の恋人、あなたが?」
池畑が驚きながら聞いた。眞鍋は大きく頷き話を続けた。
「大学の頃に出会い、同じ研究テーマで意気投合しましてね。我々は生命の死について研究をしていました。死についての研究を深めると、それは逆に生命の延長、ひいては生命の再生に繋がると考えていました。…このリムの原型を考えたのは彼女です。…彼女は併せてヒエロニムズマシンについても研究をしていました。ご存知ですか?」
「えぇ、名前だけは。確かアメリカの科学者が発明したものですよね。念だけで遠くの家にいる虫を殺した記録が残ってると。」
即答した池畑の横で、全く知らなかった正人は、黙って二人の話を聞いていた。
「さすが刑事さん。アメリカでは特許も取得されているものですが、科学的には今日まで認められてはいませんでした。」
正人は一人会話に付いていけないといった表情で、聞き手に徹することを決め、背中を椅子の背もたれに預けて、腕を組むリラックスできる姿勢に直した。そんな正人を見て、眞鍋はニコっと微笑み、話を続けた。
「簡単に言えば、彼女はヒエロニムズマシンを対人間用に改善しようとしていました。それは当然殺すためのものではなく、もし人間を念だけで操ることができたら、身体の不自由な人や年配の人など、多岐にわたる分野で活用できると信じての研究です。」
「操るって…それが呪いの根源ですよね。やっぱり桐生朱美が呪いの生みの親か。」
聞き手に徹する姿勢をしたが、思い付きで言葉に出てしまった正人に対し、少しムッとした表情で眞鍋が反論した。
「朱美は本当に殺人とは真逆のことを考えて研究に没頭していました。勿論、理論的に殺人が可能ということも頭の片隅にはあったと思います。でも、本当の彼女は違う!」
眞鍋の今までにない凄みに正人は驚き、すみませんと謝った。
「…あ、いえ、すみません、取り乱しました。でも、今私の言ったことは本当です。」
眞鍋は立ち上がって頭を下げた。池畑は、場の空気を立て直そうと話題を変えた質問をした。
「眞鍋さん、ひとついいですか?朱美さんは父親に育てられたんですよね。…親子仲はどうでしたか?」
眞鍋は再び椅子に腰掛け、少しの間、床を見つめるように考え込むと、決意したかのように顔を上げ、池畑に目を向けた。
「池畑さん。その聞き方は、既に真実をご存知ですね?」
「…と言いますと?」
池畑は一回とぼけて見せた。だが、更に眞鍋の表情は固くなり、池畑を睨みながら話し出した。
「…私にはわかります、池畑さんが演技をしてることが。あなたがご存知の通りです、朱美は父親から性的暴行を受けていました。」
「えっ!?」
驚く正人と、一切表情を変えない池畑に眞鍋は、やはりという表情をした。眞鍋はリムを見つめながら続けた。
「私もその事を知ったのは本当にだいぶ後になってです。これは、私の想像ですが、きっと普段は普通の良い父親なんでしょう。彼女の大学の費用も問題なく支払ってくれていたようですし。多分、彼女の中ではかなりの葛藤があった。もし、警察になんか知らせたら、もう大学の費用が払えなくなり、好きな研究が一切できなくなる。または、唯一の身内を失い一人ぼっちになってしまうという恐怖から…か。」
「…直接聞いたわけじゃないんですか?」
池畑が詰め寄った。
「…ふっ。…いよいよ核心をお話ししますかね。」
正人は、眞鍋が何かとんでもない話をし出すと思い身構えた。
「桐生朱美は…リムにより生き返った最初の人間です。」
「え、今、死刑を待っている桐生朱美は…。」
正人は頭が混乱してきた。
「今刑務所にいる桐生朱美は、一度蘇った桐生朱美…そういうことですか。」
池畑が冷静な口調で確認した。眞鍋は、頷き話を続けた。
「あれは、朱美が逮捕される一年前くらいでした。二日間全く連絡がつかず、心配になった私が自宅を訊ねると…寝室で全裸で息絶えている父親と、クローゼットの取っ手に、タオルを巻き付けて首を吊っている朱美の姿がありました。父親の下半身は刃物で切断されており、それを見て私は気付きました。朱美が父親から性的暴行を受けており、我慢の限界がきて、犯行に及んだのだと。…私は警察には連絡しませんでした。何故かその光景を見た途端、ひとつのシナリオが頭に浮かびました。」
「…それが、朱美さんを生き返らせるということですか。」
正人の言葉に、眞鍋は大きく頷き話を続けた。
「リムは90パーセント以上完成していました。ただ、まだ人間で試験をするには危険があるとし、ネズミなどの小さな動物で数回行った程度だったんです。…私は朱美を生き返らせるために、誰もいない研究室で朱美を再生した。」
「父親の死体はどうしたんですか?父親は現在、行方不明状態になっている。」
池畑の質問に、眞鍋は立ちあがり、落ち着かない様子でキッチンの方へのと歩きながら答えた。
「私が始末しました。薬品で…溶かした。これで、全てはうまくいくはずだったんです。」
池畑も席を立ち上がった。
「眞鍋さん、あなたは…。」
「蘇った朱美は、かつての朱美じゃなかった!!」
眞鍋は池畑の言葉を掻き消すように、大きめの声量で会話を重ねた。
「蘇った朱美には、父親への、いや、人間への恨みの感情しかなかった!よほどの期間、父親から暴行を受けていたのでしょう。部屋を漁ると生き別れの母親に宛てた、助けを乞う手紙がありました。クシャクシャになっていたので、恐らくは失敗作だったんでしょうが、母親への助けも実らなかった。結局、恋人の私には良い顔を見せるために相談もできず…彼女は…苦しんで…いたんだと…思います。」
眞鍋は後半になるにつれ、守れなかった後悔の念で自然と涙が込み上げてきた。
「それからすぐでした。彼女が現在の呪いの理論を完成させたのは。…まさか、実際に人殺しに使うなんて思いもしませんでした。………つまり、私なんですよ。私が…殺人鬼桐生朱美を造り上げたんです。」
「眞鍋さん…。」
正人は何も言葉が見つからなかった。
「逮捕しますか?私を。」
眞鍋は両手を前に出しながら、池畑の目を見て言った。
「…証拠がありません。…そんな妄想話を証拠に逮捕なんてできませんよ。」
池畑が鼻で笑いながら言った。
「嘘かどうかはもうじき分かります。」
その言葉で、正人は漸く気がついた。
「ちょっと待ってください!リムの条件にありましたよね。生き返らせた人間が殺された場合、監督責任者は…。」
「もう半月以内になりますかね、朱美の死刑。その日が私の死刑日にもなる。池畑さん、これで赦してください。」
池畑は落ち着かない様子で、自分が当初寝かされていたソファへと移った。正人と眞鍋を背後に、ソファに座りながら話し始めた。
「今の妄想話は冥土の土産のつもりですか?…私は何も聞いてませんし、知りません。」
眞鍋は何も言わず、少し震えながら、ソファに腰掛けた池畑の背中に深く深く頭を下げた。
「妹の長尾智美さんとは交流は?」
正人が混乱中の頭の中を整理し、眞鍋が長尾智美とも面識があった可能性があると考え、質問した。
「いえ、生き別れの妹がいることは知っていましたが。それに、朱美は妹の住んでいる住所も知っていました。実際に会っていたかはわかりません。……とにかく、朱美はリムで生き返ってから人が変わってしまった。私には暴走する朱美を止められなかった……。…だから、朱美が逮捕されたとき、ホッとしました。そして…私の罪の償い方はこれしかなかったんです。」
眞鍋の最後の言葉に、池畑はハッとした。
「まさか、由比裁判長らに死刑判決を出させたのは…あなたですか?」
眞鍋は微笑みを浮かべた。
「…全てです。朱美を、いや、自分も死刑にするには、警察も検察も裁判所も手中にする必要があった。呪いのメカニズムは朱美の資料を呼んで分かりました。…私は朱美の父親の遺体を損壊、消滅させ、朱美自身も殺した。…文字通り死刑に相応しい人間なんですよ。」
「…警察も…。」
池畑は、警察も呪いで操られいたのかと恐怖を感じた。正人は、次々と明るみになる真実が余りに衝撃過ぎて絶句した。
今、目の前にいる人物が、今の世の中を震撼させている呪い騒動の創造主であることに、恐怖心からか、身体が震えてきた。
「眞鍋さん、私は…あなたを拘束したり逮捕したりはしない。さっきも言ったが証拠がない。頭のイカれた妄想話と判断させてもらいます。」
池畑も、冷静を装っていたが、内心震えていた。
「あの…朱美さんは失敗したと言っていましたが、今回のは大丈夫なんですか?」
正人の問いに、眞鍋は再びダイニングテーブルの椅子に腰掛けて答えた。
「数値を…変えています。間違いなく、あなたたちが望む姿、中身に近い形で再生されるはずです。これは本来のリムの使い道です。私は死ぬ前に、朱美と私の努力の結晶を目の前で見たかった。漸くその日が来ました、感謝申し上げます。…それから、あと三時間程度で再生が完了しますが、この状況をどう本人にご説明するかを考える必要があろうかと思います。」
眞鍋の言葉に、池畑はソファに座りながら振り向き、正人の目を見ながら聞いた。
「村上さんは、奥さんにどう説明しますか?私は…由香里は科学者です。真実に近い形を打ち明けるつもりです。」
「そうですね、正直全く考えていませんでした。でも、南雲由実が死んだことと本人が自殺したことは出来る限り隠すつもりです。本人の情緒を見ながら、折を見て話していけたら。…とりあえずは、不慮の事故で死んでしまったことにでも…。」
正人はあまり自信のなさそうな弱々しい声で答えた。
「まだ時間はありますから、お考えください。死んだ人間が生き返ること、更にはしっかり荼毘に伏した方が生き返ることは、周囲にも混乱を招くことが必至です。私も出来る限りのことは協力いたしますので。」
眞鍋はそう言うと、パンパンと手を打ち鳴らした。すると、キッチンの奥の扉から柳田が部屋に入ってきた。
「客人に温かい紅茶をお願いします。」
「畏まりました。」
キッチンの奥から、良い茶葉の香りがし始めた。
14時12分
ピーピーピー、リムがサイレンを鳴らし始めた。いきなりの音に、正人と池畑はビクッと身体を歪ませた。
「あの音は、あと五分で完了の合図です。では、お持ちいただいた衣装を持って、リムの元へ行きましょう。」
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