おや? 婚約者の様子が……

りんごちゃん

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 オスカー様と和解したあとは腕を組んでまた会場に戻った。
 ちょうど曲が流れ始めるところで、その曲に合わせて私たちは会場の中心で手を取り踊り始める。
 目が合って、どちらからでもなくお互いに微笑むと、周りからざわついた声が聞こえた。それだけで周りが私たちに注目しているのがわかる。
 会場の視線を受けながら、踊りを終えた。

「姉上っ」
「アーノルド?」

 踊りを終えた途端急いだ様子でやってきたアーノルドに首をかしげた。アーノルドは焦った様子で、私の肩を掴む。
 顔が怖くてびっくりする。どうしたの、アーノルド。

「無事ですか、姉上!」
「え、ええ。無事だけど……? なにかあったの?」
「なにかって、あんな険悪な様子の姉上と殿下が会場から離れたら何かあったのかと……」

 こてりと首をかしげる。
 そんなに険悪な雰囲気だったかな。そうかもしれない。私も珍しく少し怒っていたから。

「二人して心中なんてしていたらと思うと……」
「アーノルドはわたくしとオスカー様のことをなんだと思っているの?」

 青褪めた様子のアーノルドは冗談を言っているようには思えない。本気でそう思っていたらしい。
 困って眉を下げていると、オスカー様が私の肩に置かれていたアーノルドの手を払って、にこりと微笑んだ。

「まさか僕がソフィーを傷付けるわけないでしょ」
「いえ、殿下ならあり得ます。そもそもあの珍しくお怒りだった姉でもあり得る……」

 アーノルドはオスカー様が見えていないらしい。にっこりと笑いながらもその目に笑みが浮かんでいないオスカー様を前に、アーノルドはなにかを想像してふるふると震えている。
 アーノルド、目の前を見て。想像よりも恐ろしいものが目の前にいる。
 それにしても、怒ってる私はオスカー様のこと害しそうなくらいだったの? たしかにオスカー様のことを私のモノにするとは考えてたけど、まさか心中だなんて。そんなことするはずがない。失礼しちゃう。

「アーノルド、」
「ソフィーちゃん!」

 少し落ち着いて、と言う前に私の言葉は遮られた。
 大きな声で私を呼んだのはルバーニ殿下。目が合うと、ルバーニ殿下はパッと満面の笑みを浮かべる。
 どうしてそんな顔をなさるのだろうと思っていると、大きな手に視界を覆われた。 

「オスカー様?」
「僕以外を見ないで、ソフィー。あいつは特にダメ」

 不満そうにオスカー様が耳元で囁く。
 オスカー様はルバーニ殿下のどこが気に入らないんだろう。ルバーニ殿下が私を気にかけるのなんて、女好きだからなのに。別に私だから、っていうわけじゃない。
 彼は女好きで、オスカー様のものである私が気になるっていうだけでちょっかいをかけてきてるのだろうと思う。

「……オスカー、その手はなに?」
「ソフィーの目を労っているんだよ」

 どんな言い訳だろう。そう思いながらもなにも言わずに微笑む。
 スッと手を取られた。誰だろうと思ったけれど、後ろから恐ろしい気配を感じて、手を取ったのはルバーニ殿下なのだとわかった。
 ルバーニ殿下は鋼の心でも持ってるの? ひっ、と悲鳴を漏らしたアーノルドによって、この場が冷え切っているのがわかる。
 僕様VSラスボスの手下って感じ?
 ……私を巻き込まないでほしい。

「ソフィーちゃん。さっきの約束。俺と踊ってくれるよね」
「あっ……」

 圧力をかけるかのようにギュッと私の手を握るルバーニ殿下に言葉が出てこない。
 上の空だったから、ルバーニ殿下の言葉に頷いてしまったのは私。責任を取らなくちゃと思うけど、オスカー様が恐ろしくて答えられない。

「ソフィーは、」
「なら、オスカーさまはわたしと踊りましょう!」

 ルバーニ殿下と一緒に来ていたらしいジェーン様が愛らしい声を上げる。言っていることは可愛くないけど。
 少しだけむっとしてしまうのは私の心が狭いから。

「ソフィアさま。お断りなさるのはダメですよ? お互いの国のために、協力しましょう?」

 ジェーン様がそう言ってにこりと笑う。
 国のため、と言われたら私に断る選択肢はなかった。もともとなかったけど、オスカー様もそう言われては私を手離す他ない。

「オスカー様。またあとで」
「……仕方ないなぁ。ソフィー、あまり優しい言葉はかけちゃダメだからね? 距離を置いて話すように」
「オスカー、無茶言わないであげなよ。ダンスは密着してするものだよ。ね、ソフィーちゃん」
「きゃっ!」

 ルバーニ殿下に肩を捕まれてオスカー様から引き離される。
 オスカー様の視線に胃に痛み感じつつも、ジェーン様があまりにもオスカー様に近くて少し苛立ちを感じてしまった。
 うー、イライラする。

「じゃ、行こうか」
「え、は、はい。喜んで」

 イライラして、ついルバーニ殿下に返事をしてしまった。どちらにせよ、断ることはできないから仕方がないのだけど。
 だけど、ルバーニ殿下はどうしてこうもオスカー様を挑発するような行いをなさるのだろう。一体全体オスカー様にどんな恨みがあるの? オスカー様って結構無意識に人を挑発する天才肌だから、私の知らないところで二人にはなにか確執があるのかもしれない。それにしたって、私を利用してオスカー様を挑発することはやめてほしい。私の胃が痛くなっちゃう。

 ルバーニ殿下と手を取り合って、ダンスホールで向き合う。すぐそばにはジェーン様と手を合わせたオスカー様。
 曲が流れ始めると、私たちに視線が集まっているのがわかった。

「たくさんの人に見られているね」
「そうですわね。……殿下、なんだか距離が近い気がしますの」
「そうかな。これが普通だよ」

 普段私が踊るのはオスカー様以外だとお父様とアーノルドとアルドルフ兄様くらい。その三人は踊るとき、踊り辛くてイライラするぐらい距離を置いていたから気がつかなかった。
 ダンスって、こんなに密着するものだったっけ。
 オスカー様とならどんなに身体を寄せ合っても足りないくらいなのに、他の男性とこんなに近付くことが不快なものだなんて知らなかった。
 早くこのダンスが終わればいいのに。
 そう思っていると、ルバーニ殿下が耳元で囁いてくる。

「ジェーンとオスカーの仲が心配?」

 その言葉に「ええ」と頷いた。

「オスカー様は素敵な人だから、ジェーン様が好きになってしまったらどうしようかと不安になってしまいますわ」

 オスカー様は本当に素敵な人。ジェーン様と踊るオスカー様を見ていると、しみじみと思う。二人のダンスシーンはまるで一枚の絵画のよう。
 オスカー様は私のことが好きだって言ってくれたけど、ジェーン様がどうかはわからない。貴族にとって政略結婚は当たり前のこと。そもそも私とオスカー様だって、元は政略的なもの。両想いになれたからといって、ラボス国からの要請があれば、ジェーン様がオスカー様と婚約することも不可能じゃない。
 それにオスカー様は一人っ子だし、もしも私たちの間に子ができなければ、オスカー様が側室を娶ることも十分にあり得る。
 あ、むり、つらい。

「ソフィーちゃん……。すごく苦しそうだね。オスカーとの婚約は、ソフィーちゃんにとって辛いんじゃない?」
「そんなこと、」
「ねえ、俺にしない?」

 ルバーニ殿下が私の言葉を遮った。
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