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春の予感
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「いつから?」
柳田に合わせるように身を屈め声量を落とした。きっと、今の俺の顔には隠し切れない好奇心が浮かんでいる。だって仕方ない。俺と同じく恋愛から距離のあったあの親友のことを好きだというのだ。野次馬精神からくるものではないから許してほしい。
「4月から」
「はやっ。全然そんな素振りなかったよね?」
「だって小田原くん、いっつも水野くんと一緒にいるから」
「あー……」
心当たりがあった。というより、心当たりしかなかった。中学の頃からただでさえ一緒にいる時間が多かったが、同じクラスになった今そうでない時を探す方が困難だった。他クラスに知り合いがいないともなればなおさらだ。それこそ、一緒に過ごしていなかったのは互いの委員会の時くらいではないだろうか。俺が図書室にいる間、環がどのように過ごしているか定かではないが、こうして相談を持ち掛けられたあたり、気軽に話しか蹴られなかったのだろう。男子だけの中に女子が入っていくのは難しいに決まっている。
環に恋人の気配がなかった原因の一端を知らず知らずのうちに担いでいたことに今更気づき、湧き出た罪悪感に眉を垂れさせた。
「ごめん」
「いや全然! ただ、その、協力……してくれないかなぁ、なんて」
恐る恐る上目で窺った柳田に、もちろん、と脊髄で返そうになる自分を抑え、そろりと隣を見た。
「したいのは山々なんだけど、協力って何すればいいの?」
協力は惜しまない。小学1年生から、もうすぐ10年が経とうとしている幼馴染の恐らく初めてであろう恋路を邪魔しようなどと言う無粋な思いは一切ない。しかし、互いに恋愛のれの字も見せないまま遊び惚けていたおかげで、一般的な紹介の仕方や環の好きなタイプなど、目の前の恋する少女の役に立ちそうな情報を持っていないのも事実だ。
そもそも環には好きなタイプとかあるのだろうか。衝動の赴くまま行動する自由奔放を体現する幼馴染に固定の好みが……?
というのが俺の見解だ。熱しやすく冷めやすい。そんな男の心を射止める手助けは恋愛初心者の俺にとってはハードが高いどころか、棒高跳びくらいの高さである。首が痛くなるほど見上げてようやく目視できるかどうかだ。
「協力って言ってもね、わざとらしく紹介されるのは何か違うって言うか……。友達に紹介されたから付き合うとかは虚しいじゃん? だから、なるべく自然に、とりあえずは水野くんと仲良くなって話す機会を増やそうと思ってました……」
「なるほど……?」
複雑な乙女心。その一言に尽きる。しかし、これに関してはありがたい。急にわざとらしくクラスメイトを環に紹介するよりはずっと簡単だ。環以外と話したこと等ほとんどない俺が、ぎこちなく柳田を紹介する場面を数パターン考えていたが、そんなことをする必要はないと分かり、胸を撫で下ろした。
「何も作戦とかはないんだけど、文化祭までには仲良くなれたらいいなぁって思ってるの」
柳田が小石を抓み、丸味を帯びた可愛らしい字で地面に『文化祭』と書いた。文化祭まではおよそ2カ月。短くはないが決して長いとも言えない。一から関係を構築するとなれば、難しい期間だ。柳田が提案した作戦と言うには大雑把な、ゴールに交際が掲げられているであろうそのルートの最難関は、環の興味をひき続けることである。親友に思いを寄せるクラスメイトが、あの気まぐれに振り回される姿は見たくない。うーん、と小さく唸り、思考を巡らしながら石で円を描くクラスメイトのつむじを見つめた。
「環は飽き性だから、なんか話題いっぱい提供できるようになった方がいい気する」
「そうなの? 意外かも」
「めっちゃ飽き性。あれやろって誘われた数分後に飽きたって言われたこともあるし」
「はやくない?」
「そう。だから、広く浅い会話を……」
「広く浅い会話……」
ってなんだ?
2人で顔を見合わせた。困ったように愛想笑う柳田に、ここでしっかりするべきは俺だとハンディファンで膝をこつこつと叩く。
「待って、もうちょっと絞る。環が好きなこと……」
「あれ、サボり?」
柳田に合わせるように身を屈め声量を落とした。きっと、今の俺の顔には隠し切れない好奇心が浮かんでいる。だって仕方ない。俺と同じく恋愛から距離のあったあの親友のことを好きだというのだ。野次馬精神からくるものではないから許してほしい。
「4月から」
「はやっ。全然そんな素振りなかったよね?」
「だって小田原くん、いっつも水野くんと一緒にいるから」
「あー……」
心当たりがあった。というより、心当たりしかなかった。中学の頃からただでさえ一緒にいる時間が多かったが、同じクラスになった今そうでない時を探す方が困難だった。他クラスに知り合いがいないともなればなおさらだ。それこそ、一緒に過ごしていなかったのは互いの委員会の時くらいではないだろうか。俺が図書室にいる間、環がどのように過ごしているか定かではないが、こうして相談を持ち掛けられたあたり、気軽に話しか蹴られなかったのだろう。男子だけの中に女子が入っていくのは難しいに決まっている。
環に恋人の気配がなかった原因の一端を知らず知らずのうちに担いでいたことに今更気づき、湧き出た罪悪感に眉を垂れさせた。
「ごめん」
「いや全然! ただ、その、協力……してくれないかなぁ、なんて」
恐る恐る上目で窺った柳田に、もちろん、と脊髄で返そうになる自分を抑え、そろりと隣を見た。
「したいのは山々なんだけど、協力って何すればいいの?」
協力は惜しまない。小学1年生から、もうすぐ10年が経とうとしている幼馴染の恐らく初めてであろう恋路を邪魔しようなどと言う無粋な思いは一切ない。しかし、互いに恋愛のれの字も見せないまま遊び惚けていたおかげで、一般的な紹介の仕方や環の好きなタイプなど、目の前の恋する少女の役に立ちそうな情報を持っていないのも事実だ。
そもそも環には好きなタイプとかあるのだろうか。衝動の赴くまま行動する自由奔放を体現する幼馴染に固定の好みが……?
というのが俺の見解だ。熱しやすく冷めやすい。そんな男の心を射止める手助けは恋愛初心者の俺にとってはハードが高いどころか、棒高跳びくらいの高さである。首が痛くなるほど見上げてようやく目視できるかどうかだ。
「協力って言ってもね、わざとらしく紹介されるのは何か違うって言うか……。友達に紹介されたから付き合うとかは虚しいじゃん? だから、なるべく自然に、とりあえずは水野くんと仲良くなって話す機会を増やそうと思ってました……」
「なるほど……?」
複雑な乙女心。その一言に尽きる。しかし、これに関してはありがたい。急にわざとらしくクラスメイトを環に紹介するよりはずっと簡単だ。環以外と話したこと等ほとんどない俺が、ぎこちなく柳田を紹介する場面を数パターン考えていたが、そんなことをする必要はないと分かり、胸を撫で下ろした。
「何も作戦とかはないんだけど、文化祭までには仲良くなれたらいいなぁって思ってるの」
柳田が小石を抓み、丸味を帯びた可愛らしい字で地面に『文化祭』と書いた。文化祭まではおよそ2カ月。短くはないが決して長いとも言えない。一から関係を構築するとなれば、難しい期間だ。柳田が提案した作戦と言うには大雑把な、ゴールに交際が掲げられているであろうそのルートの最難関は、環の興味をひき続けることである。親友に思いを寄せるクラスメイトが、あの気まぐれに振り回される姿は見たくない。うーん、と小さく唸り、思考を巡らしながら石で円を描くクラスメイトのつむじを見つめた。
「環は飽き性だから、なんか話題いっぱい提供できるようになった方がいい気する」
「そうなの? 意外かも」
「めっちゃ飽き性。あれやろって誘われた数分後に飽きたって言われたこともあるし」
「はやくない?」
「そう。だから、広く浅い会話を……」
「広く浅い会話……」
ってなんだ?
2人で顔を見合わせた。困ったように愛想笑う柳田に、ここでしっかりするべきは俺だとハンディファンで膝をこつこつと叩く。
「待って、もうちょっと絞る。環が好きなこと……」
「あれ、サボり?」
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