【完結】白銀を捧ぐ

白井ゆき

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サイネリア

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 窓越しに喧騒が遠く聞こえる。普段は机に向かい、深緑の板に書かれた白い文字を追いかけている時間に、何をするでもなくぼんやりと時間を過ごすことは、それだけで非日常を味わえるものだ。祭り気分一色に染まった校内の高揚は、扉を隔てるだけで遠のき、程よい雑音として耳に届く。頬を押し付けたカウンターの上。役目を終えたカンペが、俺の呼吸でふわりと浮かび上がり、床に落ちた。

「水野くん遊びに行かなくていいの?」

 落ちたプリントを拾うべきかと目線だけで追いかけていると、そんなことを投げかけられた。俺に尋ねた人物は、もちろん蒲田だ。ビブリオバトルが無事終わり、他の参加者が足取り軽く一般棟へ帰る中、俺と蒲田だけは吸い込まれるようにカウンター内の椅子に腰を下ろした。

「それ、先輩が言います?」
「僕は2年目だからね」
「こういう行事って、何事も2年生が一番楽しくないですか?」
「そう? 学年なんて関係ないんじゃないかな」

 そう言った蒲田は普段と変わらぬ飄々とした態度で頬杖をついている。俺でさえ美術部所属のクラスメイトが気合を入れてデザインしたというクラスTシャツを着用しているというのに、蒲田は見慣れた制服のままだ。2年生が作っていないはずがない。面倒だとかそう言った理由で着ていないのだろう。そういう俺も図書室に篭りっきりだった初日は制服で過ごしていたのだが。今日は朝一番に唯一の仕事である、1時間の見張りがあったから着ているだけだ。発注の段階では暑かったのだろうか。ここ数日で冷え込んだこともあって、Tシャツは少し肌寒い。本音を言うならば、今すぐ制服に着替えたいのだが、教室に置いてある荷物を取りに行くのが面倒で、寒さを我慢している次第である。

「関係あると思いますけど……。そういえば、先輩仕事しなくていいんですか? 昨日も引き篭もってましたけど」
「するよ。今日の13時からかな」

 スマホで時間を確認する。ロック画面の上方には、12:41と表示されていた。

「って、もうすぐじゃないですか」
「そうだねぇ」

 あぁ、めんどくさい。全身から滲み出る蒲田の嘆きに苦笑いを浮かべつつも、ここからしばらくは1人だと、若干の寂しさを覚えた。移動や準備の時間を考えれば、今すぐ出て行ってもおかしくないだろう。寂しさを紛らわそうにも、一眠りするには周囲が気なるし、1人で回るほどのメンタルは持ちあわせていない。文化祭といえど、HRをしっかりと行うこの学校では帰宅も難しい。戻るのは何時頃だろうかと蒲田を見た。

「水野くんも一緒に来る?」

 そんな気持ちが滲み出ていたのだろうか。相変わらず花でも背負っていそうな笑顔を浮かべる蒲田からの思ってもみない提案に、そろりと視線を外した。
 
「行っても何もできないですよ。たこ焼きも作れないです」
「やだなぁ、そこは期待してないよ」

 照れ隠しに行った言葉はすぐさま否定される。

「そもそも必要ないしね。僕呼び込みだし」
「あぁ、先輩向きの……」
「そうそう。お仕事ついでに遊ぼうと思って」

 とうとう遊ぶとはっきり言葉にした蒲田に噴き出した。2人の邪魔をしなければ、楽しんでも罰は当たらないだろう。

「どう?」
「行きます」

 あざとく首を傾げた蒲田に、しっかりと頷き返した。
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