【完結】白銀を捧ぐ

白井ゆき

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チューリップ

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 昼休み。忘れた体育服を借りるために、2年生の教室に来た。文化祭以来、約1か月ぶりに訪れたが、前回の人がいない時とは違い昼食で賑わう教室は居心地の悪さを感じた。自意識過剰だろうか、すれ違う上級生から視線を感じる。だからと言って引き返すわけにもいかず、意を決して蒲田のクラスの入り口付近にいる生徒に声をかけた。

「すみません、蒲田先輩いますか?」
「蒲田? おーい、蒲田! 後輩来てるぞー!」

 教室にいないと思っていたが、どうやら人に囲まれていたらしい。人垣の中から顔を出した蒲田に頭を下げた。事前に連絡をしていたため、あぁ、と言った様子で体育服を持ってきてもらえた。『僕が着た後で良ければ』と快く貸してくれることになったのだ。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。洗って返します」

 入口は邪魔になるからと移動した廊下の端で几帳面に畳まれた体育服を受け取った。

「でも、何で僕? わざわざ来るの面倒だったでしょ」
「それは……」
「あぁ、友達いないんだっけ」
「……周りに聞こえますよ」

 優等生ぶっているからか、普段であれば声を上げて笑っていそうなところだが、クスクスと音を立てずに笑っている。相変わらず余念がないなと、その姿を胡乱な眼差しで見つめていれば、目じりに浮かんだ涙を拭った蒲田が「そういえば」と顔を上げた。

「昨日はどうだった?」

 環のことを聞かれていることはすぐに分かった。しかし、明るい結果とはいえないため、言葉に詰まった。その一瞬の淀みで察したのか、眉を下げた蒲田は「そっちだったかぁ」と苦笑した。

「そっち?」
「ううん、何でもない。僕にできることがあれば言ってね。相談でも。原因は僕にあるし」
「先輩は何も悪くないですよ。俺が……」

 欲を出したことが全ての始まりだ。蒲田は、俺が純粋に環のことを思っていると考えているが、実際はそうではない。柳田との関係を妨害し、環の興味を引き留めるために正しくないことをしていた。やめなければと思いつつも引き返す勇気がなく、ずるずると関係を持ち続けた。

「水野くんは想像通り鈍いよね」

 視線を落とした俺に、声を潜めた蒲田がそう言った。慰めてほしかったわけではないが、ストレートな悪口を言われるとは思っておらず眉根を顰めた。

「……何すか急に」
「そのまんまの意味。それと、小田原くんがそういうタイプならこれも逆効果だと思うよ」
「これ?」

 首を傾げたが、教える気はさらさらないらしい。にっこりと整った笑みを返されるだけだった。先程から、そっちだとか、これだとか曖昧な表現が多く言葉を理解できない。どういうことだと考える俺に、「まぁ、この短時間で友達作るのは難しいから、仕方ないけどね」と続けるのだ。

「環の話じゃなかったんですか?」

 この問いかけにも答えが返ってくることはなく、笑い返されるだけだった。その笑みが、やっぱり鈍感だなと言われているようで、ムッと顔を歪めた。そんな俺を見てくすくすと笑い、一層顔を顰めた俺の背中をぽんと押す。
 
「ほら、早くしないとお昼食べる時間なくなっちゃうよ。着替えもあるでしょ」
「はい……。ありがとうございます」

 結局、教えてくれていたようで何も教えてくれなかった蒲田に、帰り際もう一度頭を下げて更衣室へと向かった。

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