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チューリップ
8 ※嘔吐表現あり
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咄嗟に口にしたその言葉は間違っていなかったらしい。環の瞳を激らせていた熱はあっという間に霧散して、冷静さを取り戻し始めた。
胸を撫で下ろし、「先輩に迷惑かかるから」と続ければ、環は深くため息をついた。首筋にかかる熱い吐息に、本能に流されそうになる頭を叱咤して、「な?」と首を傾げる。
「……本っ当、好きだよね」
ぼそりと環が呟いた。
「先輩。先輩先輩先輩先輩って。いっつもそればっか」
再び交わった環の瞳からは冷静さはなくなっていた。代わりに言葉にし難い熱がこもっている。少し前の情欲に塗れたものではない。より感情をあらわにしたそれは……。
「怒ってる……?」
環の目がすっと細まる。それは、いつか見たどろりとした真っ黒な目だ。あの時は困惑するばかりだったその瞳は、怒りだけではなく憂いを帯びている気がした。それでも、2つの感情のトリガーは分からずじまいだ。環の全てを知りたい。余すことなく全てを教えて欲しい。しかし、いつの間にか臆病になった心がそれを許さない。歪な関係性の自分がそんなことを望んでもいいのかと踏み出せずにいる。言葉に出せない本音を手のひらに込め絡めた指先を握れば、不愉快そうに眉を顰めた環に、わずかに残っていた自尊心も打ち砕かれた。
「……そんなに汚したくないなら、あざみが出さなきゃいいじゃん」
「え……? うぉっ!?」
腕を引かれ、便器に座らせられた。打ち付けた背中の痛みに顰めた顔を下半身に押し付けられる。ジャージ越しでも感じるほどに、熱く脈打つそれを肌に感じながら、ゆっくりと環を見上げた。
「舐めて」
「舐めてって……」
「フェラだよ。分かるでしょ」
「分かるけど……」
戸惑いを乗せた瞳を左右に揺らしたが、一層押し付けられるだけだった。こうなった環が頑固なことを知っている。下がる気はないのだ。ならばと、意を決してウエストのゴムに手をかけた。下着ごと下ろせば、反り勃った性器が現れる。鼻を刺す性の匂いに、ゴクリと喉を鳴らした。
舐める、と言っても知識などほとんどない。昔、興味本位で見た動画の中で見たことがある。しかし、自分の癖ではなかったのか興奮を覚えなかったため、それ以来見たことはない。朧げな記憶の中の女優がやっていたことを思い出し、そっと舌を伸ばした。先端を撫でるように往復させて、反応を伺いながら根本まで濡らしていく。唾液でてかてかと光る性器を見つめ、反応が良かったカリ首のあたりに再び唇を寄せれば、顎を掴まれた。
「慣れてるね」
「んぇ?」
環を見上げたのと同時。親指で広げられた口に性器が押し込まれた。滑るように喉奥まで入ったそれの大きさにうめき声が漏れる。あまりの苦しさに引こうとした顔は手で固定され、鼻で息をするたび充満する雄の匂いに、霧がかかったように頭がぼんやりとする。
「んぐっ、……ふっ、ぅ」
「ん……あざみっ」
舌の上を滑る環のものに必死に舌を絡ませる。溢れだして口の端を伝う体液混じりの唾液も気にならない程、それだけに意識を向けていた。耐えるように歪む眉や、動きを封じ込めるために頭に添えられた手が次第に余裕を失い髪を握りしめるのも、全て自分がそうさせていると思うと気分がよかった。いつもは受けてばかりで余裕がなく、見ることができない僅かな表情の変化を余さず目に焼き付けられることがこの上なく嬉しい。
薄く開いた環の目と視線が交わる。情欲のこもった瞳に嬉しくなり、咥えたそれを音を立て吸い上げる。環から切羽詰まった声が漏れ、粘膜で感じる脈拍が早くなった。
「あざみっ……!」
頭を掴む手に力が篭もる。ぐっと腰を押し付けられ、喉奥で熱く爆ぜた。
「んっ、ごほっ、けほっけほっ」
喉に流れ込んだ精子に咳き込むと同時に、環自身もずるりと出ていく。空咳に押し出された精子を手で受け止め、環を見上げた。
「気持ちよかった?」
僅かに上がった息と紅潮した環の顔に愉悦が胸に広がる。濡れて光る口元も気にせずへらりと笑って見せれば、見下ろす環の顔がぐしゃりと歪んだ。
「……その顔、どうにかしなよ。だらしないから」
「……え」
照れ隠しじゃない、心底不愉快だとも言いたげな表情に頭に衝撃が走る。
「た、たまきっ」
乱れた衣服を整えた環と目が合うことはない。名前を呼んでも一瞥されることすらなく出ていってしまった。ガタガタと音を立てながらバウンドする扉を見つめ呆然とする。環に投げられた言葉が理解できず、目を瞬かせることしかできない。
少しでも喜んでほしかった。いつもしてもらってばかりで何もできていない自分にできることが見つかったのではないかと嬉しかった。それなのに……。
頭の中に環の声が反芻する。到底、前向きな言葉には捉えられない。何より、俺を見なかった環の冷めきった目が全てを物語っていた。不意に吐き気を催す。食道を押し広げてはいずり出た黄色い花がぼたぼたと便器の中に落ちた。
遠くで予鈴が響く。スピーカーから鳴る余韻のように舌に絡みつく苦味がいつまでも残っていた。
胸を撫で下ろし、「先輩に迷惑かかるから」と続ければ、環は深くため息をついた。首筋にかかる熱い吐息に、本能に流されそうになる頭を叱咤して、「な?」と首を傾げる。
「……本っ当、好きだよね」
ぼそりと環が呟いた。
「先輩。先輩先輩先輩先輩って。いっつもそればっか」
再び交わった環の瞳からは冷静さはなくなっていた。代わりに言葉にし難い熱がこもっている。少し前の情欲に塗れたものではない。より感情をあらわにしたそれは……。
「怒ってる……?」
環の目がすっと細まる。それは、いつか見たどろりとした真っ黒な目だ。あの時は困惑するばかりだったその瞳は、怒りだけではなく憂いを帯びている気がした。それでも、2つの感情のトリガーは分からずじまいだ。環の全てを知りたい。余すことなく全てを教えて欲しい。しかし、いつの間にか臆病になった心がそれを許さない。歪な関係性の自分がそんなことを望んでもいいのかと踏み出せずにいる。言葉に出せない本音を手のひらに込め絡めた指先を握れば、不愉快そうに眉を顰めた環に、わずかに残っていた自尊心も打ち砕かれた。
「……そんなに汚したくないなら、あざみが出さなきゃいいじゃん」
「え……? うぉっ!?」
腕を引かれ、便器に座らせられた。打ち付けた背中の痛みに顰めた顔を下半身に押し付けられる。ジャージ越しでも感じるほどに、熱く脈打つそれを肌に感じながら、ゆっくりと環を見上げた。
「舐めて」
「舐めてって……」
「フェラだよ。分かるでしょ」
「分かるけど……」
戸惑いを乗せた瞳を左右に揺らしたが、一層押し付けられるだけだった。こうなった環が頑固なことを知っている。下がる気はないのだ。ならばと、意を決してウエストのゴムに手をかけた。下着ごと下ろせば、反り勃った性器が現れる。鼻を刺す性の匂いに、ゴクリと喉を鳴らした。
舐める、と言っても知識などほとんどない。昔、興味本位で見た動画の中で見たことがある。しかし、自分の癖ではなかったのか興奮を覚えなかったため、それ以来見たことはない。朧げな記憶の中の女優がやっていたことを思い出し、そっと舌を伸ばした。先端を撫でるように往復させて、反応を伺いながら根本まで濡らしていく。唾液でてかてかと光る性器を見つめ、反応が良かったカリ首のあたりに再び唇を寄せれば、顎を掴まれた。
「慣れてるね」
「んぇ?」
環を見上げたのと同時。親指で広げられた口に性器が押し込まれた。滑るように喉奥まで入ったそれの大きさにうめき声が漏れる。あまりの苦しさに引こうとした顔は手で固定され、鼻で息をするたび充満する雄の匂いに、霧がかかったように頭がぼんやりとする。
「んぐっ、……ふっ、ぅ」
「ん……あざみっ」
舌の上を滑る環のものに必死に舌を絡ませる。溢れだして口の端を伝う体液混じりの唾液も気にならない程、それだけに意識を向けていた。耐えるように歪む眉や、動きを封じ込めるために頭に添えられた手が次第に余裕を失い髪を握りしめるのも、全て自分がそうさせていると思うと気分がよかった。いつもは受けてばかりで余裕がなく、見ることができない僅かな表情の変化を余さず目に焼き付けられることがこの上なく嬉しい。
薄く開いた環の目と視線が交わる。情欲のこもった瞳に嬉しくなり、咥えたそれを音を立て吸い上げる。環から切羽詰まった声が漏れ、粘膜で感じる脈拍が早くなった。
「あざみっ……!」
頭を掴む手に力が篭もる。ぐっと腰を押し付けられ、喉奥で熱く爆ぜた。
「んっ、ごほっ、けほっけほっ」
喉に流れ込んだ精子に咳き込むと同時に、環自身もずるりと出ていく。空咳に押し出された精子を手で受け止め、環を見上げた。
「気持ちよかった?」
僅かに上がった息と紅潮した環の顔に愉悦が胸に広がる。濡れて光る口元も気にせずへらりと笑って見せれば、見下ろす環の顔がぐしゃりと歪んだ。
「……その顔、どうにかしなよ。だらしないから」
「……え」
照れ隠しじゃない、心底不愉快だとも言いたげな表情に頭に衝撃が走る。
「た、たまきっ」
乱れた衣服を整えた環と目が合うことはない。名前を呼んでも一瞥されることすらなく出ていってしまった。ガタガタと音を立てながらバウンドする扉を見つめ呆然とする。環に投げられた言葉が理解できず、目を瞬かせることしかできない。
少しでも喜んでほしかった。いつもしてもらってばかりで何もできていない自分にできることが見つかったのではないかと嬉しかった。それなのに……。
頭の中に環の声が反芻する。到底、前向きな言葉には捉えられない。何より、俺を見なかった環の冷めきった目が全てを物語っていた。不意に吐き気を催す。食道を押し広げてはいずり出た黄色い花がぼたぼたと便器の中に落ちた。
遠くで予鈴が響く。スピーカーから鳴る余韻のように舌に絡みつく苦味がいつまでも残っていた。
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