【完結】白銀を捧ぐ

白井ゆき

文字の大きさ
56 / 65
チューリップ

8 ※嘔吐表現あり

しおりを挟む
 咄嗟に口にしたその言葉は間違っていなかったらしい。環の瞳を激らせていた熱はあっという間に霧散して、冷静さを取り戻し始めた。
 胸を撫で下ろし、「先輩に迷惑かかるから」と続ければ、環は深くため息をついた。首筋にかかる熱い吐息に、本能に流されそうになる頭を叱咤して、「な?」と首を傾げる。

「……本っ当、好きだよね」

 ぼそりと環が呟いた。

「先輩。先輩先輩先輩先輩って。いっつもそればっか」

 再び交わった環の瞳からは冷静さはなくなっていた。代わりに言葉にし難い熱がこもっている。少し前の情欲に塗れたものではない。より感情をあらわにしたそれは……。

「怒ってる……?」

 環の目がすっと細まる。それは、いつか見たどろりとした真っ黒な目だ。あの時は困惑するばかりだったその瞳は、怒りだけではなく憂いを帯びている気がした。それでも、2つの感情のトリガーは分からずじまいだ。環の全てを知りたい。余すことなく全てを教えて欲しい。しかし、いつの間にか臆病になった心がそれを許さない。歪な関係性の自分がそんなことを望んでもいいのかと踏み出せずにいる。言葉に出せない本音を手のひらに込め絡めた指先を握れば、不愉快そうに眉を顰めた環に、わずかに残っていた自尊心も打ち砕かれた。

「……そんなに汚したくないなら、あざみが出さなきゃいいじゃん」
「え……? うぉっ!?」

 腕を引かれ、便器に座らせられた。打ち付けた背中の痛みに顰めた顔を下半身に押し付けられる。ジャージ越しでも感じるほどに、熱く脈打つそれを肌に感じながら、ゆっくりと環を見上げた。

「舐めて」
「舐めてって……」
「フェラだよ。分かるでしょ」
「分かるけど……」

 戸惑いを乗せた瞳を左右に揺らしたが、一層押し付けられるだけだった。こうなった環が頑固なことを知っている。下がる気はないのだ。ならばと、意を決してウエストのゴムに手をかけた。下着ごと下ろせば、反り勃った性器が現れる。鼻を刺す性の匂いに、ゴクリと喉を鳴らした。

 舐める、と言っても知識などほとんどない。昔、興味本位で見た動画の中で見たことがある。しかし、自分の癖ではなかったのか興奮を覚えなかったため、それ以来見たことはない。朧げな記憶の中の女優がやっていたことを思い出し、そっと舌を伸ばした。先端を撫でるように往復させて、反応を伺いながら根本まで濡らしていく。唾液でてかてかと光る性器を見つめ、反応が良かったカリ首のあたりに再び唇を寄せれば、顎を掴まれた。

「慣れてるね」
「んぇ?」

 環を見上げたのと同時。親指で広げられた口に性器が押し込まれた。滑るように喉奥まで入ったそれの大きさにうめき声が漏れる。あまりの苦しさに引こうとした顔は手で固定され、鼻で息をするたび充満する雄の匂いに、霧がかかったように頭がぼんやりとする。

「んぐっ、……ふっ、ぅ」
「ん……あざみっ」

 舌の上を滑る環のものに必死に舌を絡ませる。溢れだして口の端を伝う体液混じりの唾液も気にならない程、それだけに意識を向けていた。耐えるように歪む眉や、動きを封じ込めるために頭に添えられた手が次第に余裕を失い髪を握りしめるのも、全て自分がそうさせていると思うと気分がよかった。いつもは受けてばかりで余裕がなく、見ることができない僅かな表情の変化を余さず目に焼き付けられることがこの上なく嬉しい。
 薄く開いた環の目と視線が交わる。情欲のこもった瞳に嬉しくなり、咥えたそれを音を立て吸い上げる。環から切羽詰まった声が漏れ、粘膜で感じる脈拍が早くなった。

「あざみっ……!」

 頭を掴む手に力が篭もる。ぐっと腰を押し付けられ、喉奥で熱く爆ぜた。

「んっ、ごほっ、けほっけほっ」

 喉に流れ込んだ精子に咳き込むと同時に、環自身もずるりと出ていく。空咳に押し出された精子を手で受け止め、環を見上げた。

「気持ちよかった?」

 僅かに上がった息と紅潮した環の顔に愉悦が胸に広がる。濡れて光る口元も気にせずへらりと笑って見せれば、見下ろす環の顔がぐしゃりと歪んだ。

「……その顔、どうにかしなよ。だらしないから」
「……え」

 照れ隠しじゃない、心底不愉快だとも言いたげな表情に頭に衝撃が走る。

「た、たまきっ」

 乱れた衣服を整えた環と目が合うことはない。名前を呼んでも一瞥されることすらなく出ていってしまった。ガタガタと音を立てながらバウンドする扉を見つめ呆然とする。環に投げられた言葉が理解できず、目を瞬かせることしかできない。

 少しでも喜んでほしかった。いつもしてもらってばかりで何もできていない自分にできることが見つかったのではないかと嬉しかった。それなのに……。
 頭の中に環の声が反芻する。到底、前向きな言葉には捉えられない。何より、俺を見なかった環の冷めきった目が全てを物語っていた。不意に吐き気を催す。食道を押し広げてはいずり出た黄色い花がぼたぼたと便器の中に落ちた。
 遠くで予鈴が響く。スピーカーから鳴る余韻のように舌に絡みつく苦味がいつまでも残っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嘘をついたのは……

hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。 幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。 それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。 そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。 誰がどんな嘘をついているのか。 嘘の先にあるものとはーー?

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら

たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生 海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。 そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…? ※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。 ※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ

MITARASI_
BL
I 彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 Ⅱ 高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。  別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。  未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。  恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。  そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。  過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。  不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。  それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。  高校編のその先を描く大学生活編。  選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。 続編執筆中

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

好きなタイプを話したら、幼なじみが寄せにきた。

さんから
BL
無愛想美形×世話焼き平凡 幼なじみに好きバレしたくない一心で、真逆の好きなタイプを言ったら……!?

処理中です...