鳥籠姫は夢を見る

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第一章

26

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    父の部屋から出ると護衛騎士が山盛りになって扉に張り付いていた。
    あれほど聞き耳禁止って言ったのに……!!
    怒りに震える私に護衛達は

    「…だって…姫様がお嫁に行っちゃうのかと思って……」

    だの

    「王がご乱心召された時は命を懸けてお止めしなければと思って……!!」

     だのと指をツンツンしながらぶつぶつ言い始めた。こっそり遮音壁の魔法をかけておいて正解だったわ!!

    部屋に戻る道すがらアンリ様は

    「あなたはとても愛されているんだね。」

    と、さっきの護衛達を思い出したのか笑いながら言う。

    「気持ちはありがたいけど度が過ぎて困っちゃう。」

    「ふふ、私もあなたを大切にしなければ怒られてしまうね。」    

    「アンリ様が?私を? 」

    「うん。」

    「それは駄目よ。」

    「えっ!?」

    アンリ様はとても変な顔をしてる。
    私を大切にしてくれる人達はたくさんいる。家族だって友達だって国の皆もいる。でもアンリ様はそのほとんどを失ってしまったのだ。だから…

    「その人達の分まで私がアンリ様を大切にするわ!だからアンリ様はどんな時でも自分の幸せを考えて?ね?」

    「エルフィリア……。」

    
    部屋に着くとレニーがお茶の用意をしてくれていた。

    「にゃっ♡」
    「にゃにゃっ♡」

    …いつもの野太い声はどこにいった…
    二匹は戻ってきてくれたアンリ様の足元にすり寄って甘えている。
    そういえばアンリ様とこうやって昼間に会うのもお茶をするのも初めてだ。

    「アンリ様…お菓子は好き?」

    「子供の頃はよく食べていたよ。それこそ怒られるくらい。今は…一緒にお茶を楽しむような人がいなくてね。」

    そうなんだ……。
    何だか悪いことを聞いてしまった。

    「そんな顔をしないで。私は何も気にしていないよ。」

    「…はい。あ、あのねアンリ様。今度会って欲しい子がいるの。ゼノって言うんだけど…」

    「未来の私と行動を共にしていたと言う少年の事だね?」

    「そう。これからゼノの力を借りる事があるかもしれないから、顔だけでも知っておいて欲しくて。」

    「わかった。今日の方がいい?」

    今日…早い方が良いとは思うけど、今日はお父様との謁見に大分時間を使わせてしまったし、アンリ様はローゼンガルドの自室を抜け出すにも限度があると言っていた。

    「ううん、また今度でも大丈夫。ゼノにも伝えておきます。それよりアンリ様、身体は大丈夫?」

    転移の魔法も決して身体に負担がない訳じゃない。まして今日は初めてだ。

    「確かに転移の魔法は少し驚いたね。身体があちこちに引っ張られるような…不思議な感じだった。でも今夜また会えるのでしょう?少しくらい辛くても大丈夫だよ。」

    そう言って微笑むが顔色はあまり良くない。
    …まただ。アンリ様の悪い癖が炸裂してる。

    「アンリ様は我慢し過ぎだわ。」

    「我慢…私が?」

    アンリ様は“そんな事ないんだけど”と言うような不思議顔で私を見る。

    「誰だって辛いのは嫌いだわ。楽になれるものが目の前にあったらすぐに手を出すわ。でもアンリ様はそれをしない…ううん、出来ないの。辛い事が起こり過ぎて、失ったもの全てが自分のせいだと思い込んで、欲しがる事が悪い事だと勘違いしてるのよ。」

    でもそれじゃいつまでたっても何も手に入れる事は出来ない。アンリ様はもっと欲を持つべきだ。アンリ様のような人だからこそ……。

    「…欲しがってもいいの?本当に?」

    「うん。いいの。」

    「…欲しいよ…エルフィリアが……。」

    「うん。アンリ様。」

    私は椅子から立ち上がりアンリ様の側に立った。

    「じゃあ、お口を開けて?アンリ様。」

    そう言って頬を包むとアンリ様はぎゅっと唇を噛み締めて切なそうな顔をする。

    「アンリ様?」

    どうしたのだろう。欲しいって言うからあげるだけなのに。やっぱり欲しがってしまった事を後悔してるのだろうか。
    その時だった。アンリ様は立ち上がり私を横抱きにして歩き出す。

    「ア、アンリ様?」

    決して軽くない私を軽々と持ち上げる。こういうところはやはり大人の男の人なのだなと感じてドキドキする。
    たどり着いたのは部屋の奥にあるベッド。アンリ様はさっき自分も落ちたその上に私を優しく下ろし上に重なる。

    「…あのね、エルフィリア…」

    アンリ様の瞳の中に、驚いた顔の私が映る。

    「…私が欲しいのはね………」

    そこまで言いかけるとアンリ様は顔を切なそうに少し歪めて黙ってしまった。

    「どうしたの?アンリ様……。」

    「…ごめんね、何でもないよ。……エルフィリア、苦しいんだ…だから…元気にして…?」

    「うん…。もう大丈夫よアンリ様…。」

    アンリ様の顔がゆっくり、ゆっくりと近付いて、唇が触れるか触れないかのところで彼の口が少し開く。いつもそれを合図のように私は目を閉じる。
    柔らかい唇が触れ合うと、いつも優しく撫でてくれるアンリ様の手はぎゅっと握られている。苦しいのを我慢しているのだろうか。それならもっと早く気付いてあげればよかった。

    大丈夫…大丈夫よアンリ様……。

    いつもアンリ様がしてくれるように彼の艶のある髪に手を滑らせると、だんだん彼の身体から余計な力が抜けていく。
    アンリ様の身体を流れる気はとても柔らかで心地良い。
    不思議…アンリ様の綺麗な気に触れると私も元気になるみたい……。
    
    しばらくしてアンリ様の手が私の指を絡めとるように重なる。少し元気になってくれたのだろうかと安心していると

    ドタン!!!

    すごい音がした。
    私もアンリ様も驚いて一旦唇を離す。
    二人で音のする方を振り返るとそこには顔を真っ赤にして倒れているレニーがいた。  

    「レニー!?」

    私は急いで駆け寄るが、レニーはひたすら謝ってきた。

    「すすす、すみません!!まさかそんな最中だと思わずに………!!!」

    レニーは私の助けを断り転びそうになりながら部屋の外へ出ていった。

    「一体どうしたのかしら…?」

    不思議に思う私にアンリ様は困り顔で笑っていた。







    
    


    

    

    
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