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第一章
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しおりを挟む目を開けるとそこには私を腕に抱いて眠るアンリ様。
…アンリ様…眠ってる。
すうすうと聞こえる健やかな寝息に夢の中とはいえ恐ろしさで震えた心が安堵する。
どうしてあんな夢を見たのかしら…。
今までは自分のいた未来のその先しか見なかったのに。……!もしかしたらアンリ様と一緒にいるから…?アンリ様の夢の世界と繋がったのかしら。
それならアンリ様は今頃ご両親と会えているはず。
「…夢の中だけだとしても、たくさん甘えてきてね。アンリ様……。」
それきり目が冴えてしまった私は夢の中で見たギャレットという少年の事を思い返していた。例えるならアンリ様は春の柔らかな日差しだが、あの少年はまるでこの凍てついた大地ローゼンガルドそのものであるかのようだ。
敵はファルサを擁する神殿だけじゃない。アンリ様の叔父上とその息子もだ。まだまだ知らなければならない事がたくさんある。それに…アンリ様の命を繋いでいたお母様の事も。魔力持ちが一般的でないこの国で、アンリ様のお母様が魔力を持っていたのは何故なのだろう。ゼノの夢では魔力がある事を隠しているように見えたとの事だったが、それも何故?
そして他国との関わりを絶っていたこの国の人間がどうやって私の存在を知ったのか。アンリ様とてその経緯の全てを知っている訳では無いのだろう。
「…だめだわ。考えても考えてもわからない。」
アンリ様の腕をそっとはずして私は壁一面の本棚へと向かう。たくさんの本はそれだけアンリ様の身体が蝕まれていた証。
本当はこんな風に魔力を手や口から何度もあげるんじゃなくて、手間も負担もかからない方法がひとつだけある。これは書物にも記されない魔力の与え手の者に口伝される方法。
私とアンリ様の命をひとつに繋げるのだ。
文字通りひとつに。つまりその…アンリ様と身体を繋げ、命の契りを交わせばそれは成立する。
「でも…そんな事出来ない…。」
アンリ様の身体さえ自由になればファルサの存在意義など消え失せる。この国を取り戻す事も夢では無いだろう。でもその代わりアンリ様は一生私に縛り付けられる事になるのだ。
命の契りを交わした者以外と身体を繋げる事は許されない。それを破れば二度と命の契りは交わせない。また不自由な身体に逆戻りだ。
国を取り戻した後、愛する者と共に自由に生きる事がアンリ様の本当の幸せなのだ。
「だから…そこに私は邪魔なだけ…。」
しばらくはこの生活を続けなければならないだろう。けれどこんな風にいつまでも私と寝所を共にする事はアンリ様にとってあまり良い事ではない。何か他の方法を考えなければならないのかもしれない。
「…エルフィリア…?」
急に背後から声をかけられびっくりする。
「アンリ様!?」
起こしてしまったのだろうか。それは悪い事をしてしまった。せっかく夢の中だけど家族に会えていたのだろうに…。
「エルフィリア…どうしたの?」
「ちょっと目が覚めちゃって…。もう帰らなきゃ。アンリ様は気にせず休んで?」
けれどアンリ様は切なそうに顔を歪める。
「どうして帰るの…?まだ朝までは時間がある。」
「そうだけど…。」
「ほら…エルフィリアこんなに身体が冷えてる。おいで…。」
アンリ様はそう言って私の手を引きベッドへと連れて行く。躊躇う私にわざと気付かないふりをしているのか、私をベッドの中へ引き入れて上からまるで蓋をするように毛布でくるんだ。捲れたシュミーズの足の間にアンリ様の足が滑り込み、冷えた足先を温められる。
「黙って消えたりしないで…お願いだ…。」
アンリ様は淋しそうに呟く。
この人は愛しい人達に置いて行かれてしまったから、淋しくて私をこんな風に側に置いて大切に扱ってくれているのだ。たまたま私がこの人の命を繋げられる存在であったから。
勘違いしちゃ駄目だ。
胸はギシギシと軋むように音を立てた。
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