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第二章
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しおりを挟む「うっ…ひっく…」
真っ暗な部屋に帰って自分のベッドに横になると、涙が溢れて止まらなかった。
(アンリ様…アンリ様…アンリ様…)
初めて好きになった大切な人。
何故だろう。あれは…私が見たのは私を愛してると言ってくれた彼ではないのに。同じ人だけど別人なのに。何も悪くない彼を拒絶してしまった。
傷付いた顔。帰り際のアンリ様の顔はとても切なそうだった。当たり前だ。私だって同じ事をされたらとっても傷付く。それに私には二人の距離を軽々と越えられる魔法の力があるけれど彼には無いのだ。逢いたいと思っても彼は待つことしか出来ない。
本当にひどい事をしてしまった。でもとても普段通りにはいられなかった。
「アンリ様……」
一人のベッドは広くて冷たい。
冷えた身体を足を温めようと重ねてくれた優しいアンリ様。
いつの間にか彼の腕の中が自分にとってかけがえのない場所になっていた。それをこんな形で知るなんて……。
その夜はいつまでも眠る事が出来なかった。
「姫様!?」
「……おはよ……レニー………」
「「ぶ、ぶにゃー!!」」
気の置けない仲の侍女と猫二匹は私の顔を見るなり顔をひきつらせた。
「……そんなに不細工な顔してる……?」
「…控え目に言っても相当ですわ…。」
「「ぶにゃあ……」」
そんな心底気の毒そうな目で見ないでくれ。
しかしこんな時こそ魔法使いの本領発揮。回復魔法を唱えれば…ほら綺麗な顔が戻ってきた。
「今日は他国の王族の方とお会いになるんですよね?」
「うん。アテルナとエストリアの王族だとお父様が言ってたわ。」
レニーは私の言葉を聞くや否やすちゃっとおめかしセットを用意する。
「ちょ、ちょっとレニー!おめかしは要らないわ!皆さん治療に来られた病人よ!」
「え~っ…。じゃあ姫様、髪を少しだけ結いましょう?その方がお顔もよく見えて印象も良いですし。ね?」
ここのところ自分の腕を見せる機会のないレニーはつまらないのだろう。私も気分を変えたかったから、“じゃあ少しだけね?”とお願いする事にした。
「アテルナからの患者はノエリア王妃だ。」
「王妃様が!?」
王妃とあれば国の医療の差はあれど最高の治療が施されるはず。しかもアテルナは精霊の加護を受ける国。私のような治癒師だって山ほどいるだろうに。
「ノエリア様は一体どんな病なの?私に治せるかしら…」
今の時点でかなり自信が無い。しかしお父様は少し沈黙し
「とにかく診てみるんだ。お前なら何か出来る事があるかもしれない。」
難しい顔で私にそう告げた。
案内された部屋でお会いしたノエリア王妃様はとても美しい方だった。長く美しい金の髪と漂う儚さからこの方が精霊なのではないかと見間違うほど。
けれどそのきっと美しいだろう瞳の色を見ることは出来ない。何故なら…
「もうずっと目を覚まされないそうなのだ。」
ノエリア様は深い眠りの底にいた。
「一体いつからこんな状態に?」
「もう十年以上になります。」
アテルナからノエリア様に付き添って来た従者が私の質問に困ったように答える。
「十年以上!?そんなに長い間!?」
精霊の祝福と加護を受けた国の王妃だ。その治療には精霊達も喜んで力を貸したはず。なのに何故ノエリア王妃は目を覚まさないの?
「…精霊達もノエリア様を愛していました。そして何度も治そうと試みた。けれど駄目でした……。」
「原因は何かわかりますか?きっかけは?」
「…直接の原因なのかはわかりかねますが…ノエリア様がこのような状態になる少し前に、王女様を亡くされております。」
「王女様が……?ご病気だったのですか?」
従者は言いにくそうにしている。
「大丈夫です。絶対に他言致しません。お約束します。」
従者は少し躊躇ったがやがて口を開いた。
「おそらくなのですが…拐われて…殺されたのです。」
「殺された!?」
「はい…。突然の事でした…」
そして従者は語り出した。
それは何の変哲もないとある一日だった。
庭園で遊んでいたはずの王女が突然姿を消した。
すぐに国をあげて王女を捜索したがどこを捜しても見つける事はできなかった。しかしその日の夜更けに王妃の悲鳴が聞こえ、庭に出るとそこには行方不明だった王女の亡骸とその側で倒れる王妃が。
「それからノエリア様は一度も目を覚ましません。」
正直言葉を失ってしまった。これはどんな治療が必要なのだろうか。精神的なダメージだけでこんなに長い間眠り続けるなんてあり得ない。それならば何故……。
「…自力で摂取出来なくても栄養状態は良いようですね。これはもしかして精霊達が?」
「はい。何とか身体だけでもと心を砕いてくれています。」
「もしかして今も?」
「…はい。エルフィリア姫なら見えるのではありませんか?」
どこに?どこにいるんだろう…。
ずっと憧れた精霊さん。見たい。不謹慎だがすごく見たい!
うーん…見えないわね。好奇心丸出し過ぎて出てきてくれないのかしら。
私は黙って目を閉じた。
魔力を感じるように何か感じる事が出来るかしら……ん!?
ノエリア様の寝ている側に少しだけどポワポワした温かい力を感じる。
(とってもあったかい…それに優しい力だわ……)
そう思ったその瞬間だった。
「い゛っっ!?」
『ちっちゃい鼻だ。ノエリアとは大違いだ。』
「な、何っ!?」
つまんだ!?今私の鼻をつまんで馬鹿にした!?
『お前、いい匂いがする!お前だけじゃない他のいい匂いも!くんくん……知ってる!この匂い知ってるぞ!』
目を開けるとそこにはひたすら私の匂いを嗅ぎまくる小さな小さな精霊がいた。
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