51 / 59
第二章
21
しおりを挟む「うわっ!本当に“アンリ様”だ!!」
「まずは“初めまして”でしょ!!」
本当に無礼な奴だが今はそんな事を言っている場合ではない。アンリ様が側近キランを救い出すためにゼノの力を借りたいと言うので、速攻魔法学園まで飛んで授業中のゼノの首根っこを掴んで戻ってきた。後で絶対学園長から呼び出されるだろう、しかしここは堂々と無視だ。
「すまないねゼノ。早速だが君の力を借りたいんだ。君は奪う側の力の使い手だと聞いた。質問なんだが人の記憶を瞬時に奪い、できれば別の記憶とすり替える事はできるかい?」
人の記憶…?それがキランを助けるために必要な力なの?
「おそらくだがキランの囚われたのは神殿内にある独房だ。神殿は城と違って同じ神を信仰する者達が一つの場所で寝起きし、行動を共にしている。一人一人相手にしている時間の猶予はないし、万が一にもファルサのような異能の使い手がいたら大変な事になる。事を大きくしないために人の記憶を消しながら進むことはできないかと思ってね。そして別の記憶を植え付けてしまえば私達の事を勘繰られる事もない。」
「なるほど…確かに異能の持ち主はファルサだけとは限らないわ。騒がれて束になられたらファルサだってすぐに出てくるだろうし…でもアンリ様?独房の場所はわかってるの?」
「あぁ。神殿内部の造りを調べてくれたのもキランだ。彼を死なせる訳には行かない。頼む、ゼノ。」
アンリ様を抱えて飛ぶ寸前に見たあのファルサの力は相当なものだ。案内役のアンリ様を守りながら進むためにも私とゼノ、両方の力がいる。
ゼノは少し考えていたが、ピコーンと何かを閃いたかのように顔を上げた。
「よし、何とかいけそうだ。だが今すぐは駄目だ。」
アンリ様は“何故”という顔をする。
キランはアンリ様の乳兄弟だ。一刻も早く救い出したいのだろう。しかしゼノは私達が思うよりずっと真面目に考えているようだ。
「まず二人が逃げてきたのがさっきなら、キランは今連行されてる最中ってとこだろう。それだとファルサが側にいる可能性が高い。兵力の差を考えても忍び込むのなら人が寝静まった夜のほうが都合がいい。」
確かに。集団生活を送っている場所だ。忍び込むなら夜間がいいだろう。
「次にあんたのその状態だ。神殿内で戦うことになるかもしれない。だから今は姫さんからたっぷり力を貰って備えてくれ。決行は深夜だ。いいな。」
ゼノの言葉にアンリ様は顔を少し赤くして頷いた。
「お、お止めください!!そちらは駄目です!!」
しかし和やかな空気が流れたその時だった。
「レニー!?」
廊下から鬼気迫ったレニーの叫び声が響く。
「うるさい!俺はエルフィリアに用があるんだ!!」
「ギャレット!?」
アンリも叫んだ。
「ちょ、ちょっと何であいつがこんなとこ入って来てるのよ!?騎士達は何してるの!?」
しかし足音はどんどん近付いてくる。
何でこんな時に厄介事がたてつづけに起きるのだ!しかし今の私達にはギャレットなど恐るるに足らず!こっちには記憶を奪える優秀な魔法使いがいるのだ!
「ゼノ!今こそあなたの出番よ!ギャレットの記憶をバンバン奪って頂戴!!」
そうだ!神殿攻略の前哨戦だ!やっておしまいゼノ!!
しかしこのあとゼノから帰ってきた答えに私の全身の血は沸騰しながら逆流する事となる。
「あ、俺まだその魔法使えないから。」
「はぁぁぁぁぁぁあ!?」
何て言った!?今何て!?
「あんた使えるって言ったじゃない!!」
「使えるとは言ってない。“何とかいけそうだ”って言ったんだ。」
「それは使えるって意味でしょ!?」
「違う。今から夜までの間に習得するって意味だ。任せとけ。俺は天才だ。夜までなら余裕でやれる。」
「こ、この馬っ鹿ヤロォォォォ!!!!!」
前言撤回だ!この馬鹿魔法使いが!
しかしここでアンリ様からストップがかかる。
「エルフィリア落ち着いて!!ゼノ、じゃあ姿変えの魔法は?使えるかい?」
「姿変え?使える。」
「じゃあ今すぐ私の姿を変えてくれ!」
姿を変える?何で?
しかしアンリ様の言葉にゼノは姿変えの呪文の暗唱を始める。そしてアンリ様が眩い光に包まれ始めた。
「ア、アンリ様…!?」
しばらくして光の中から現れたのはローゼンガルドの王族の証である青銀の髪じゃなくキラキラ輝く銀の髪。そして深海のような瞳は淡い紫水晶の色に変わっていた。
「……いい……良すぎる…アンリ様素敵……」
はっ!違う!!
しっかりしろエルフィリア!
「アンリ様!どうするの!?」
アンリ様は変わった自分の姿を確認してから私に言った。
「エルフィリア、いいかい?今から私はシャー。シャーだ。」
「シャー?」
「そう。アンリ・シャルディンだからシャー。決してアンリとは呼んではいけないよ?」
一体アンリ様は何をしようとしているんだろう?けれど今はアンリ様に従うのが懸命だ。
「わかったわシャー。」
そしてアンリ様はいきなり私をベッドに押し倒した。
「ゼノ!隠れていて!」
アンリ様の言葉にゼノは咄嗟にクローゼットの中へ飛び込んだ。
バン!と乱暴に開いた扉と同時にギャレットの声が響く。
「エルフィリア!どこだ!?」
足音は確実にこっちへと向かっている。
「…エルフィリア、今は何も考えずに私を感じていて。ギャレットの事はいないものだと思うんだ。いいね?」
どういう意味かはわからなかった。
でもその瞬間、アンリ様の唇が深く深く重なったのだった。
21
あなたにおすすめの小説
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】
積み上がった伏線の回収目前!!
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる