鳥籠姫は夢を見る

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第二章

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    「うわっ!本当に“アンリ様”だ!!」

    「まずは“初めまして”でしょ!!」

    本当に無礼な奴だが今はそんな事を言っている場合ではない。アンリ様が側近キランを救い出すためにゼノの力を借りたいと言うので、速攻魔法学園まで飛んで授業中のゼノの首根っこを掴んで戻ってきた。後で絶対学園長から呼び出されるだろう、しかしここは堂々と無視だ。

    「すまないねゼノ。早速だが君の力を借りたいんだ。君は奪う側の力の使い手だと聞いた。質問なんだが人の記憶を瞬時に奪い、できれば別の記憶とすり替える事はできるかい?」

    人の記憶…?それがキランを助けるために必要な力なの?

    「おそらくだがキランの囚われたのは神殿内にある独房だ。神殿は城と違って同じ神を信仰する者達が一つの場所で寝起きし、行動を共にしている。一人一人相手にしている時間の猶予はないし、万が一にもファルサのような異能の使い手がいたら大変な事になる。事を大きくしないために人の記憶を消しながら進むことはできないかと思ってね。そして別の記憶を植え付けてしまえば私達の事を勘繰られる事もない。」

    「なるほど…確かに異能の持ち主はファルサだけとは限らないわ。騒がれて束になられたらファルサだってすぐに出てくるだろうし…でもアンリ様?独房の場所はわかってるの?」

    「あぁ。神殿内部の造りを調べてくれたのもキランだ。彼を死なせる訳には行かない。頼む、ゼノ。」

    アンリ様を抱えて飛ぶ寸前に見たあのファルサの力は相当なものだ。案内役のアンリ様を守りながら進むためにも私とゼノ、両方の力がいる。
    ゼノは少し考えていたが、ピコーンと何かを閃いたかのように顔を上げた。

    「よし、何とかいけそうだ。だが今すぐは駄目だ。」

    アンリ様は“何故”という顔をする。
    キランはアンリ様の乳兄弟だ。一刻も早く救い出したいのだろう。しかしゼノは私達が思うよりずっと真面目に考えているようだ。

    「まず二人が逃げてきたのがさっきなら、キランは今連行されてる最中ってとこだろう。それだとファルサが側にいる可能性が高い。兵力の差を考えても忍び込むのなら人が寝静まった夜のほうが都合がいい。」

    確かに。集団生活を送っている場所だ。忍び込むなら夜間がいいだろう。

    「次にあんたのその状態だ。神殿内で戦うことになるかもしれない。だから今は姫さんからたっぷり力を貰って備えてくれ。決行は深夜だ。いいな。」

    ゼノの言葉にアンリ様は顔を少し赤くして頷いた。


    「お、お止めください!!そちらは駄目です!!」

    しかし和やかな空気が流れたその時だった。

    「レニー!?」

    廊下から鬼気迫ったレニーの叫び声が響く。

    「うるさい!俺はエルフィリアに用があるんだ!!」

    「ギャレット!?」

    アンリも叫んだ。

    「ちょ、ちょっと何であいつがこんなとこ入って来てるのよ!?騎士達は何してるの!?」

    しかし足音はどんどん近付いてくる。
    何でこんな時に厄介事がたてつづけに起きるのだ!しかし今の私達にはギャレットなど恐るるに足らず!こっちには記憶を奪える優秀な魔法使いがいるのだ!

    「ゼノ!今こそあなたの出番よ!ギャレットの記憶をバンバン奪って頂戴!!」

    そうだ!神殿攻略の前哨戦だ!やっておしまいゼノ!!
    しかしこのあとゼノから帰ってきた答えに私の全身の血は沸騰しながら逆流する事となる。

    「あ、俺まだその魔法使えないから。」

    「はぁぁぁぁぁぁあ!?」

   何て言った!?今何て!? 

    「あんた使えるって言ったじゃない!!」

    「使えるとは言ってない。“何とかいけそうだ”って言ったんだ。」

    「それは使えるって意味でしょ!?」

    「違う。今から夜までの間に習得するって意味だ。任せとけ。俺は天才だ。夜までなら余裕でやれる。」

    「こ、この馬っ鹿ヤロォォォォ!!!!!」

    前言撤回だ!この馬鹿魔法使いが!
    しかしここでアンリ様からストップがかかる。 

    「エルフィリア落ち着いて!!ゼノ、じゃあ姿変えの魔法は?使えるかい?」

    「姿変え?使える。」

    「じゃあ今すぐ私の姿を変えてくれ!」

    姿を変える?何で?
    しかしアンリ様の言葉にゼノは姿変えの呪文の暗唱を始める。そしてアンリ様が眩い光に包まれ始めた。

    「ア、アンリ様…!?」

    しばらくして光の中から現れたのはローゼンガルドの王族の証である青銀の髪じゃなくキラキラ輝く銀の髪。そして深海のような瞳は淡い紫水晶の色に変わっていた。


    「……いい……良すぎる…アンリ様素敵……」


    はっ!違う!!
    しっかりしろエルフィリア!

    「アンリ様!どうするの!?」

    アンリ様は変わった自分の姿を確認してから私に言った。

    「エルフィリア、いいかい?今から私はシャー。シャーだ。」

    「シャー?」

    「そう。アンリ・シャルディンだからシャー。決してアンリとは呼んではいけないよ?」

    一体アンリ様は何をしようとしているんだろう?けれど今はアンリ様に従うのが懸命だ。

    「わかったわ。」

    そしてアンリ様はいきなり私をベッドに押し倒した。

    「ゼノ!隠れていて!」

    アンリ様の言葉にゼノは咄嗟にクローゼットの中へ飛び込んだ。

    バン!と乱暴に開いた扉と同時にギャレットの声が響く。

    「エルフィリア!どこだ!?」

    足音は確実にこっちへと向かっている。

    「…エルフィリア、今は何も考えずに私を感じていて。ギャレットの事はいないものだと思うんだ。いいね?」

    どういう意味かはわからなかった。
    でもその瞬間、アンリ様の唇が深く深く重なったのだった。
    



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