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しおりを挟む定期的に上がってくる諜報部員からの報告によると、どうやらアルベールはマリの世話役に任命されたらしい。
国王は第二王子のディオンを世話役につけるよう指示したそうだが、マリの反応が芳しくなかったとか。
そして提出された報告書には、さらに続きが書かれていた。
王宮内を歩くふたりはとても仲睦まじく見え、口さがない噂を立てる者が現れ始めている。
しかしそれは、マリが元いた世界での習慣に原因があり、彼女の国では男女の距離感が非常に近いという。
だがアルベールは、あくまで節度をもって彼女と接しているとのこと。
(そうなんだ……)
前世のサラはアルベールのことを信じていたし、気が動転していたせいもあり、諜報部員を使って調べることまでしなかった。
アルベールはまだ心変わりをしていない。
そのことに安堵する反面、いつ来るかわからないその時をただ待つのはつらかった。
悶々とした日々を送るサラの元に、意外な客人がやってきた。
アルベールの実弟、第二王子ディオンだ。
先触れもなく突然やってきた王子に、サラを始めオースウィン侯爵家の使用人たちは激しく動揺した。
簡素な部屋着で過ごしていたサラは、急いで支度を済ませ、ディオンの待つ応接室を訪れた。
するとディオンはサラの顔を見るなり立ち上がり、駆け寄ってきた。
「オースウィン侯爵令嬢、大丈夫だったかい?」
ただごとではない様子と近すぎる距離に、サラは少し後ずさる。
「ディオン殿下、ご無沙汰しております。あの『大丈夫だった』とは……?」
ディオンは一瞬『しまった』というような顔をしたあと、とても言いにくそうに切り出した。
「僕はその……オースウィン侯爵令嬢が、兄上とマリのことで心を痛めているんじゃないかと心配で、居ても立ってもいられなくて……」
最近になり、アルベールとマリの噂については市井でもまことしやかに囁かれるようになっていた。
漏らしたのは噂好きの女官か、それともオースウィン侯爵家を敵視する勢力か──
どちらにせよ、婚約者のいる王太子と異世界からの訪問者のスキャンダルは、今王都で一番注目の話題と言っても過言ではない。
今世、諜報部員の報告のお陰であらかじめ詳細を知っていたサラは、噂を耳にしても落ちついたものだったが。
「ディオン殿下、心配してくださってありがとうございます。ですが私は大丈夫です」
「本当に?無理をしているんじゃない?」
「いいえ。本当に、無理などしていません」
「なんだ、僕の早とちりかぁ」
ほっとしたように脱力するディオンの仕草がなんだか可愛らしくて、サラは思わず笑みを漏らした。
それにしても、元々よく似た顔立ちの兄弟だとは思っていたが、久しぶりに見るディオンの顔はアルベールそっくりだ。
「ディオン殿下はお兄さま思いでいらっしゃるのですね」
「確かに兄上は大切だけど、オースウィン侯爵令嬢のことも大切に思っているよ。とてもね」
「え?」
「だって未来の義姉上だから」
「え、ああ、そうですね……」
それもこのままだとどうなるかはわからないが。
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