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しおりを挟む朝の支度のために入室してきた侍女の手に抱えられていたのは、シャロンが拉致された日に着ていたドレスだった。
「どうしてこれを……?」
怪訝そうな顔で尋ねるシャロンに、侍女たちは皆一様に気まずそうな顔をした。
エイミーは作業の手を止め、シャロンの前へ出た。
「シャロン様は本日、ロートスへ向かわれる事になっております」
エイミーは言い終わった後、悔しそうに唇を噛んだ。
目にはうっすら涙が滲んでいる。
その様子から、シャロンは自分の置かれている状況を悟った。
「……エドナは、エウレカを交渉の席につかせる見返りとして、私を差し出すつもりなのね」
シャロンの言葉にエイミーの身体が強張った。
シャロンは、溢れそうになる涙を必死で堪えるエイミーの肩に優しく手を置いた。
事実を告げるのはさぞかしつらかっただろうに。
「泣かないで。私なら大丈夫よ」
「シャロン様……!」
既に汚されたこの身では、マヌエル王子の花嫁として迎えられるとは考えにくい。
ならばおそらく今と同じような扱いを受けるだろう。
慰み者から慰み者へ──これまでと何も変わらない。
「エイミー、あなたがいてくれたお陰でここまで生きてこれたわ。本当にありがとう」
「そんな……こんなのあんまりです。なぜ我が国はシャロン様にこんな仕打ちをするのです……愛する祖国といえど、こんなやり方酷すぎる……!」
という事は、これは国王陛下の意向であり、セシルもそれに賛同したという事なのだろう。
「滅多な事を口にするものではないわ。明日からはどうか私の事は忘れて。あなたの幸せをずっと祈ってる」
***
「これはこれは……噂以上の美しさですな。殿下が骨抜きにされるのも無理はない」
ロートスまでの道中、移送されるシャロンの警護を担当すると名乗ってきた男──イゴルは、まるでシャロンの身体を舌で舐めるようにゆっくりと視線を上下させた。
ねっとりとした空気に怖気が立つ。
「各国の王族を手玉に取れるその美貌、実に羨ましい。機会があればぜひ私も一度お相手していただきたいものですな」
──誰がお前なんかと
しかし、今男が口にした言葉こそが、周囲が下したシャロンへの評価そのものだ。
癪だから言葉は返さなかった。
無言で馬車に乗り込むシャロンの背後から、男たちがこぞって彼女を罵る言葉が聞こえた。
**
強行軍だった行きと違い、帰りは整備された街道を通るため、途中宿場町へ寄る必要があった。
しかし、常に男たちの下卑た視線に晒され、部屋に鍵をかけても心が休まることはなかった。
エドナを発ってから三日目、シャロンは再び祖国の土を踏んだ。
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