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第一章
8 愛を乞う
しおりを挟む「アマリール、お前が俺に教えてくれ。お前がどうすれば悦ぶのか。」
彼は一体何を言っているのか。理解が追い付かない。急に身体から熱杭を引き抜かれ与えられる苦痛から解放された私は、力の抜けた身体をうつ伏せにして横たわりながら彼の言葉を聞いていた。
「アマリー……」
動かない私を彼は覗き込み、シーツに広がる涙の跡を見て言葉に詰まった。
「…そんなに俺に触れられるのが嫌か…?」
……嫌……?
正確に言えば“嫌ではなかった”だ。
前世では皆が恐れる彼の金色の瞳と漆黒の髪をとても美しいと思っていた。
そして自分達の意志などお構い成しに結ばれた婚約だったが、それでも私はいつか彼の妻になる事を嫌だなんて思った事はなかった。
彼が優しい目でローザを見るたびに、いつか自分も彼の妻になれば、あんな風に瞳に映して貰える日が来ると信じていた。
「…こんなに酷く…痛くされて泣かぬ女などいないでしょう…」
傷付いた身体と心からは弱々しく掠れた声しか出ない。これ以上私をどうしたいのか。
「…どうしたら悦くなる?」
彼はうつ伏せの私の身体をゆっくりと上へ向かせ、体重をかけないように重なってきた。美しく隆起する筋肉が柔い女の肌を押し返すようにしてぴったりと合わさると、お互いの熱が対流するようだ。
「…わかりません…それに…この身体は殿下のものです。泣いて申し訳ありませんでした。もうこんな事はないように致します…。」
好きにしてくれればいい。きっとそのうち傷付く事も上手に忘れるだろう。
しかし彼は私の言葉にその美しい顔を歪めた。
「教えてくれアマリール。俺は…お前の顔が快楽に溶ける様を見たい。」
これは何かの冗談なのだろうか。
けれど彼の顔は、瞳は嘘をついているようには見えない。
「殿下には大切なものはございますか…?」
「…ある。それがどうした?」
「…殿下は大切なものにどうやって触れますか?例えばそれが硝子細工なら?強く乱暴にすれば壊れてしまう…。女の心も身体も…私には脆く美しい硝子細工と同じように思います…。」
彼は私の目を見つめながらしばらく黙っていた。馬鹿な事を言う女だと思われたのだろうか。
「…大切なものに触れるのが初めてだからわからなかった…。すまない。」
「……え……?」
「…女は声を上げるものだと教わった。高い声で啼けば啼くほどそれは悦い証拠だと…。」
今…謝った…?それに“大切なものに触れるのが初めて”って…まさか私の事を言ってるの?
「どうすればいい?アマリール頼む。お前はどんな風にすれば悦んでくれる?」
こんな…こんなの嘘だ…。
こんなの私の知ってる彼じゃない。
ローザ様と二人して私を嵌めようとでもしているのだろうか。心を許して微笑んだ瞬間手のひらを返したように私を嘲笑うのではないのか。
「アマリール…。」
大きな骨張った手が優しく頬を撫で、何度も髪を梳く。
この先私を待ち受けている結末は前世とまた同じなのだろうか。それとももっとひどい地獄なのか。それでも優しい思い出が…胸に温かな光を灯すような記憶があれば、それもすべて許してあげられるかもしれない…。
美しい顔と肌はまるで彫像のよう。
いつもギラギラと光る金色の瞳が今は柔らかに揺らぎ、私だけを映している。
両手を上げて彼の頬を優しく包み、ゆっくりと下で待つ私の唇へと誘う。しっとりとして柔らかく熱い唇が、触れるだけの優しい口付けを落とした後、切なげな吐息を漏らした。
「…叶えてくださるのならどうか…どうか優しくして下さい…。他には何も望みません…だからどうか…!」
彼は私の頬に流れ落ちる涙を指で掬う。
滲む目のせいで今彼がどんな顔をしているのかわからない。
「わかった。痛かったら…辛かったらちゃんと言え。」
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