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第一章
16 心の在処
しおりを挟む「殿下、タミヤが参っております。」
「タミヤが?」
皇太子宮付きの侍女が執務室を訪れるのは珍しい。
(まさか…アマリールの身に何かあったのか…)
「わかった。ゲイル、タミヤを中に入れてくれ。」
遠慮がちに部屋に入ってきたタミヤはその手に一通の封筒を持っていた。
「どうした?何かあったのか?」
「殿下、実は今朝差出人のわからない手紙がアマリール様に届きまして…」
タミヤはルーベルにまだ封の閉じられたままの手紙を差し出した。
「アマリール様が既に皇太子宮で暮らされているという事実はごく一部の者しか知らないはず…。差出人も書いてありませんので怪しいと思いまして。」
確かに婚約はしたがアマリールが一度も侯爵邸に帰らずルーベルの宮で暮らしている事を知っているのは限られた人間しかいない。それに宮仕えの長いタミヤの勘は無視できない。
ルーベルは慎重に封を開けて中を確かめた。そこに記されていたのは逢瀬の日時。ルーベルの眉間に深い皺が寄った。
【アマリール、最後にもう一度だけ僕の話を聞いて欲しい。三日後の夕方、皇太子宮に繋がる庭園で君を待っている。 ハニエル】
ルーベルはしばらく黙ってその手紙を見ていたが、やがて馬鹿馬鹿しそうに言い放った。
「…筆跡が違う。ニセモノだな。」
お前も確かめてみろと渡されたゲイルも内容を見て一瞬顔をしかめたが
「ハニエル様の筆跡に似せてはいますが全然違いますね。何が目的でしょう?」
「…さぁな。だが本人に聞けばわかるだろう。」
「本人?」
「これを書いた本人だ。恐らくはアマリールとハニエルの醜聞が欲しいんだろう。なら必ず現場近くで二人の逢瀬を見ようと姿を現すはずだ。それを捕まえろ。」
「かしこまりました。捕らえた後はどう致しますか?」
「牢に繋げ。とりあえずな。」
ゲイルは承知したとばかりに頭を下げた。
「タミヤ、よく知らせてくれた。長い宮仕えで培った勘はさすがだな。」
しかしタミヤは慌てて手を振って否定した。
「そ、そんな大層なものではありません。私はただアマリール様が心配で…!」
タミヤの頬にはあの日アマリールの手袋を血に染めた傷痕が残っていた。王族の傲慢さを嫌と言うほど見てきたタミヤにとって、アマリールの純粋な心はさぞかし眩しかった事だろう。
「これからもアマリールの事を頼んだぞタミヤ。」
タミヤは恥ずかしそうに微笑んで執務室を後にした。
「さぁ…こそこそ嗅ぎ回る溝鼠を始末しないとな。」
*****
「…散歩、ですか?」
ある日の夕方、普段ならまだ執務室にいるはずのルーベルが突然姿を現した。
「ああ。たまにはいいだろう?行くぞ。」
ルーベルは少し強引にアマリールの手を引き、庭に向かって歩き出した。
(どうしたのかしら…。)
散歩と言う割にどこか目的の場所があって向かっているようだ。
「昔もこうして二人でよく歩いた…お前は忘れてしまったがな…。」
「え…?」
二人で歩いた?私が?殿下と?
私の表情で考えている事がわかったのだろう。殿下は淋しそうに微笑む。
そして殿下の足はある場所で止まった。
「ここは…?」
「父親から聞かなかったか?昔お前が頭を打った場所だ。」
そこにはつるりとした大理石の石畳と真っ赤な蕾をつけた薔薇。
「…“苺の薔薇が咲くところを見たい”、そう言って雨上がりの庭を走ったんだ。俺が止めるのも聞かずに…。」
『ルー!雨粒がキラキラ光ってとっても綺麗よ!早く早く!』
『アマリール!危ないから走るな!!』
もうずっと昔の記憶なのに、思い出すだけで心臓を握り潰されるような痛みを伴う。自分の世界の全てだった愛しい人を失ってしまったあの日の事。自分を取り囲むすべての人間に価値が見出だせなくなったあれからの日々。
「…ルー…?どうしたのですか?」
“ルー”
同じ呼び方。同じ女性。だけどそれはあの日の“ルー”じゃない。わかってる。それでもいいと望んだのは俺だ。
「ルー!?だ、駄目!こんなところじゃ嫌…!!」
ルーベルはアマリールを後ろから抱き締め、ドレスの中へと手を伸ばす。
柔らかな双丘をやわやわと揉まれ、耳朶を優しく食まれ熱い息がかかると、誰よりも彼を知るこの身体が勝手に熱い昂りを迎え入れる準備を始めてしまう。
「アマリール…力を抜いて足を開け。大丈夫だ…支えていてやるから…。」
熱く潤う花弁を掻き分けるように二本の指が差し入れられと、無意識に腰がしなり尻を彼の昂りに付き出すような格好になる。
じゅぶじゅぶと音を立てて浮き沈む指に翻弄されて立っているのもやっとだ。
「ひゃあっ♡♡あぁん♡やだ…やだぁ♡♡」
胸の小さな頂を何度も弾かれて口はだらしなく開き喘ぐ声を漏らす。
「こっちだ。」
「…えっ…?」
息も絶え絶えのアマリールを抱えながら庭石に腰掛けると、ルーベルはまるで周りに見せるように後ろからアマリールの足を持ち上げ大きく開かせた。
「こんな…こんな…丸見えなの嫌!許して!許してルー!!」
しかし足を開かせる手から力が緩む事はない。雨露に濡れたあの日の薔薇のようなアマリールを、まるで見せ付けるようにしながらルーベルはその花芯に己の滾った熱杭を打ち込んだ。
「あぁぁぁん♡♡♡」
溢れる蜜で溶けてぬかるむ花弁の奥からぐちゅっ、ぐちゅっとルーベルの抽挿に合わせて絶え間なく音が響く。
「いつもより凄いな…締め付けも、食い千切られそうだ…っ!!」
「やっ♡やっ♡やぁぁ♡♡」
ルーベルは休みなくゆさゆさと上下に激しく揺さぶり続ける。アマリールは宙に浮いたような頼りない身体に激しく熱杭を打ち込まれ、気が狂ったかのように啼いた。
「アマリール…こっちを向け。」
名前を呼ばれ、顔だけで振り向くとルーベルは優しく唇を重ねた。
「……っん……ふっ……!」
ぬるぬるした柔く熱い舌が這い回り、全てを吸いとろうとする。
「イキたいか…?それとももっと欲しい?」
そんなのわからない。このままじゃ恥ずかしい。でも…でも信じられないくらい気持ちいいの。
「お前の言う通りにするから言え。どうして欲しい?」
ずるい。どうしてこんな時だけ私に選択権を与えるの?本当にずるい人…。
「…っ…イキ…たいです…。」
消え入るような声だったがルーベルにはちゃんと聞こえた。
「わかった…激しくするから気をしっかり保てよ?」
これ以上?そう思った瞬間彼は立ち上がり、思い切り私の足を広げて突いた。
「ひゃあああん♡♡♡もうダメ…ルー!!」
私が彼の名を叫んだ瞬間びゅるるっと熱いものが奥へと放たれたのがわかった。それは何度もビクビクと脈打ちながら私のナカを大量に満たし、受け止め切れなかった彼の欲がポタポタと音を立てて石の上に落ちた。
「…愛している…。」
聞こえてきた言葉に耳を疑った。今…何て…?
「お前を愛している。アマリール…。」
「ルー…。」
何でだろう。自分の事なのにわからない。
どうしてこんなに切ないのか。
どうして涙が出るのか。
でもこの人はきっと知っている。
私の知らない私を知る人。
「…教えて下さい…私達の間にあった事を…」
私の言葉に彼は少し困ったように微笑んだ。
***
「皇女様が覗き見とは…良い趣味をお持ちですねぇ。」
「!!」
音も無く近付いたゲイルに驚き逃げようとしたが遅かった。既に周りを囲まれており、ローザの額から嫌な汗が伝う。
「まったく…ルーベル様も人が悪い。アマリール様のあんな美しくも淫らな姿を見せられてはこちらも我慢が利かなくなる…そうでしょう?ローザ様。」
しかしローザは青ざめるばかりで返事をしない。
「殿下からの命令です。“溝鼠を見つけ出し牢に繋げ”とね。」
「わ、私は何もしてないわ!ただ散歩してただけじゃない!そうだわ!さっきマデラン侯爵家のシャロンを見掛けたわよ!怪しいと言うなら彼女の方じゃなくて?」
必死に言い逃れするローザをゲイルは塵を見るような目付きで見た後、兵士にローザを捕らえるよう命令した。
「何をするのよ!私は皇女よ!?こんな事が許されると思ってるの!?捕らえるならシャロンを捕らえなさいよ!!」
「うるさい女は嫌われますよ?それにシャロン嬢ならもう捕まってますよ。」
「…え…?」
「不本意ですが別の方にね…。可哀想に…彼女にはさぞかしきついお仕置きが待っているでしょうね。ま、自業自得でしょうけど。」
***
「やぁシャロン…こんなところで会うなんて奇遇だね。」
「ハ、ハニエル様……!!」
ローザとは離れた場所で待機していたシャロンは、アマリールとの逢瀬を果たすはずだったハニエルが自分の前に現れた事に激しく動揺していた。
「こんなものに僕が騙されるとでも思ったのか?本当に愚かな女だな君は…。」
ハニエルはローザが偽造した手紙をヒラヒラとシャロンの前で振って見せた。
「お、お許し下さいハニエル様!でも私、ハニエル様をあの泥棒女から救って差し上げたくて…ぎゃあっ!!」
シャロンが言い終わらないうちにハニエルはシャロンの髪を掴んで地面に引き倒した。
「おい…お前のせいでこんな不愉快な思いをしたんだ…!!死ぬより辛い目に遭わせてやるから覚悟しろ…!!」
シャロンは恐怖に震えた。
ルーベルとアマリールの情事を見せられたハニエルの顔が、見たことも無いほど醜く歪んでいたからだ。
「ルーベル…死んでもお前を許さない…!!」
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