侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第一章

21 罪と罰

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    離宮に続く森の道を少し外れた茂みの側、そこに隠すように繋がれてあった馬にアマリールを乗せハニエルは駆けた。
    綿密に計画してあったのだろう。二人乗りは馬に負担がかかり長時間は乗れない。馬が疲れる頃合いの場所に替えの馬が繋いであったのだ。

    「お尻が痛いよね…ごめんねアマリール。もう少しだから我慢してね。」

    ハニエル様は優しい笑顔で私を気遣った。
    その笑顔は孤独だった心に染み渡り、渇きを満たして行く。
    何て優しい人なんだろう。彼だけはどんな事があっても私を見捨てない。己の身の危険を顧みず、ただひたすらに私を想って行動を起こしてくれた。彼の想いに答えれば私は前世とは違う人生を歩めるのでは…幸せになれるのではないだろうか。
    
    ひたすら走り続けて空が白んできた頃、目の前に見えたのは…

    「…うわぁ…綺麗…!」

    朝の光を受けてキラキラと輝く美しい海。

    「ハニエル様の瞳の色と同じだわ!何て綺麗なの…。」

    やっと笑顔を見せたアマリールにホッとしたようにハニエルは微笑む。自分の瞳の色と同じ海の色を喜ぶアマリールが愛おしくて。
    エメラルドグリーンの海を背景に建っていたのは白亜の邸宅だった。

    「うちの別荘なんだ。」

    ハニエルはアマリールを馬から下ろすと再び抱き上げた。

    「ハニエル様…?私歩けます。」

    「ずっと馬に乗っていたから辛かったでしょう?いいんだよ。僕がこうしたいんだ。」

    ハニエル様は私を抱いたまま屋敷へと続く道を進んでいく。
    こんなに朝早くだというのに中から執事らしき男性が扉を開けてくれた。まるでこの時間に来ることがわかっていたかのように。

    「上で休むから飲み物を用意してくれ。」

    ハニエル様は男性にそう告げると階段を上り、二階にいくつかある部屋の中で一番大きな扉の前で止まった。

    「アマリール、目を閉じて?」

    「目を…?」

    「うん。さぁ早く!」

    何だろう。私は言われた通り目を閉じた。
    するとそのすぐ後に扉を開ける音。ハニエル様は迷わず部屋の中を進んで行った。

    「もういいよ。目を開けて?」

    促され目を開けたその瞬間、私は再び感嘆の声を上げた。
    
     「すごい……!!」

    眼下には一面の海。さっきよりも高く登った朝日が惜しみ無く海面を照らす。

    「この部屋が一番海が綺麗に見えるんだ。夜は波の音が子守唄になってくれる。きっとアマリールの心を癒してくれるよ。」

    「…ハニエル様……!」

    朝日に照らされるその顔は、もう少年のそれとは違う。大人の男性の顔つきだった。
    こんな素敵な人がどうして私なんかにこんなに優しくしてくれるの? ただの厄介者でしかない私にどうして…。
    けれどハニエル様の瞳には何の迷いも見えない。それが私の胸を余計きつく締め付けた。

    「泣かないでアマリール…!!」

    ハニエルはアマリールを寝台の上へと下ろし胸に抱いた。

    「アマリール…君は昨夜離宮の火事に巻き込まれて死んだんだ。今ここにいるのは何者でもない僕の愛しい人。君はもう自由なんだ。」

    「でも…」

    焼け跡から私が逃げた事がバレてしまうのではないだろうか。

    「大丈夫だよ。を用意したって言ったでしょう?」

    「代わり…まさか身代わりですか!?」

    「うん…申し訳ないとは思ったんだけど、病で亡くなったアマリールと同じ背格好の女の子の遺体を部屋に置かせて貰ったんだ。それくらいしなければルーベルを騙せないと思ってね…。」

    「…遺体…。そこまでして私を…何で…?どうしてなのハニエル様……?」

    私にはどうやったってこの人を幸せにしてあげる事は出来ないのに。公の場で隣を歩く事も。あなたの子を…アルザス公爵家の後継ぎを生んであげる事も…。

    「何を言ってるのアマリール…。僕の子を宿すのはこの世でただ一人、君だけだ。公の場なんて…そんなつまらない所へ行くのは僕だけで十分。二人で庭を散歩したりお忍びで町へ出たっていい。そっちのほうが楽しいじゃないか。あぁ…でもお忍びだとさすがにドレスや宝石といった豪華な装いはさせてあげられないけど…」

    しゅんとして彼は言う。
    私にとってはこんなに切なく辛い事なのに、ハニエル様にとってはそんなに小さな事なの?それよりも私と人生を歩く事の方が何倍も大切な事で、後の事はそんなにも取るに足らない事なの…?

    「…ハニエル様…私…私……!!」

    「あぁ、またそんなに泣いて…きっと安心したんだねアマリール。大丈夫だよ。これからはずっと一緒だ。」

    ずっと一緒…。彼の言葉はいつも迫り来る孤独に怯える私の心を救ってくれる。
    涙は次から次へと溢れた。けれどハニエル様は胸元が濡れるのも気にせずに、ずっと私を抱き締めてくれた。



    久し振りに触れる肌に胸がときめく。
    彼はまるで神聖なものに触れるかのように丁寧に私の服を脱がして行く。

    「アマリール…すごく綺麗だ…。」

    「…私…私は……」

    綺麗なんかじゃない。何度も何度も他の人に抱かれて喘いだ。揺さぶられて、しがみついて、それを嫌とも思わず何回も昇りつめた。

    「全部忘れさせてあげるからね。」

    そう言う彼に私は全てを預けた。        


    ハニエル様は私を抱いた後、蜂蜜のように甘くとろりとした笑顔で微笑んだ。そして終わった後も自身を私の中から引き抜かず、そのまま今度は深く抉るような激しさで抱いた。それから私が気を失うまでずっと彼は私の中にいた。

    幸せだった。
    これで幸せになれるんだと本気で思っていた。殿下の事を忘れた訳じゃない。けれど彼の側でまた同じ結末を辿って行く事に耐えられなかったのだ。

    でもきっとこんないい加減な気持ちでいたから罰が下ったんだ。






   ***





    別荘に来てからもう半月ほど経った。離宮の火事についてハニエル様が疑われる事は無かったようで、日々は穏やかに過ぎて行った…かのようだった。
    

    「…んっ…!んんっ!!ハニエル様もう…!」

    「駄目だよまだイッちゃ…僕は全然足りてない。わかるでしょ?」

    「あぁん!!」

    ここに来てからというもの彼は昼夜問わず私を抱いた。服を着る暇もないほどに。
    そして今日は特に凄かった。もう何度目だろう。何度達しても止むことのない激しい抽挿から彼の渇望が嫌と言うほど伝わってくる。
    (でも…でも…違う…)
    いつも優しくて蕩けるように甘い彼の行為とは全然違う。
    それが何故なのか理由がわからない。ここに来て初めて身体を重ねた時は涙が止まらなくなるほど満たされた時間だった。けれど今の彼はまるで渇いた心と身体をもてあまし、苛々としているようだった。

    「…何を考えてるの…?」

    「…えっ……?」

    ハニエルの動きが止まる。
    アマリールはハニエルの言わんとしている事が何なのかわからなかった。

    「僕としてるのに…誰の事を考えてるの?」

    「ハニエル様?私は何も……っ!?」

    その瞬間、ハニエルの手が鋭く空を切った。
    驚きで声も上げられなかった。
    唐突に打たれた頬が熱を持ってじんじんと痛む。気付けばハニエルはアマリールに馬乗りで跨がっていた。

    「あいつと比べてるのか!?」

    見たこともないハニエルの剣幕に、身体は固まったように動かなくなる。
    しかしアマリールが向ける怯えた目が更に彼の機嫌を損ねる結果となってしまう。

    「何でそんな目で見るんだよ!?そんなにあいつに可愛がられたのか!?どんな風にされたんだ!?何回イッたんだよ!?」

    「そんな…ハニエル様やめて…!やめて下さい…!!」

    許しを乞うアマリールの頬を再びハニエルの手が打つ。
    あまりの衝撃に目の前がチカチカと光る。意識が飛びそうになるのを必死に堪えたが、気を失った方がマシだったかもしれない。

    「やめて…!!……もうやめてぇ!!」

    くしゃくしゃに顔を歪めて泣くアマリールの赤く腫れた頬を目に映した瞬間、ハニエルは我に返ったように馬乗りになっていた身体を離した。

    「ごめん…!!ごめんアマリール!!」

    ハニエルの目からも涙が溢れている。
    
    「ごめんよアマリール…でも僕だって辛いんだ…!!君があいつとこんな風に抱き合ってたと思うと堪らないんだ!!ごめん…ごめん!」

    ハニエルはアマリールを抱き締め何度も謝罪の言葉を口にした。“僕が辛いのは君のせいだ”。遠回しにそう言いながら。

    痛む頬はもう気にならなかった。それよりも今目の前にある絶望にも似た状況を理解するのに精一杯だったのだ。

    これは罰だ。
    淋しさを埋めようとばかりして、逃げていた自分への。
    


            
   

    


    
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