侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第一章

22 逢いたい人

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    彼は昼間は比較的穏やかだった。
    だけどいつの間にか嗜むようになっていたお酒を飲んだ時と、夜の閨の中で豹変した。

    「ねぇ…どこでそんな事覚えたの?」

    そして今夜も尋問が始まる。

    「そんな誘うような顔して自分から腰を振って…はしたないねアマリール…!!」

    そんな事してないのに。
    求めてくれたから、それに精一杯答えたいと思っただけなのに。
    なのに今日も彼は私を打つ。僅かに残る矜持と理性が暴力の手前の力加減に彼を抑えてくれているのだろう。けれど女の柔肌が男の力で毎日打たれて平気なはずはない。日を増す毎に表情が無くなっていく私と青紫色の頬。最初は心配してくれていた使用人達も主の狂気に気付いたのか今では何も言わなくなった。


    「ねぇアマリール…わかるだろう?僕だって苦しいんだ…。これも全て君を愛してるからなんだよ?」

    ギリギリとゆっくり絞め上げられた首に声も出ない。舌が浮き、潰された蛙のような声が漏れる。

    「…あぁ凄い…こうされるのが好きなの?こんなに僕を締め付けて…いやらしいねアマリール。」

    「…ぁ゛……ぅ゛………」

    酸素が足りなくなった頭がぼうっとして、悲しくもないのに涙が頬を滑り落ちる。いっそこのまま殺してくれたらいいのに。そんな風に思えるほど私の心は少しずつ死んで行った。



   ***



    「……様……アマリール様?」

    いつから名前を呼ばれていたのか。気付けばバルコニーで海を眺めていた私の側に侍女が立っていた。初めて見る顔だ。

    「お茶をお持ちしました。」

    侍女がチラリと目線を下にやった。
    おそらくこの首の痣でも見たのだろう。

    「…ありがとう。そこに置いて下さい。」

    今日はハニエル様はご実家に用があると行って朝から出掛けられた。私をこの部屋に閉じ込めて。

    【君のためなんだ。わかってくれるよね。】

    いつの間に取り付けたのだろう。彼はそう微笑んで扉の外から鍵を掛けた。
    この部屋でただ彼に抱かれて、傷つけられて生きる日々。どうしてこんな事になってしまったのだろう。私はただ愛されたかっただけ…。だから愛をくれる人についてきただけなのに。
    差し出された手を取れば幸せになれると思って握り返すとそれは遠ざかって行く。

    侍女が用意した紅茶の横に、苺の盛られた皿があった。何故だろう…いつもは焼き菓子なのに。
    可愛らしい小振りの果実を一粒摘まんで噛ると、甘い香りそのままの味が口に広がる。殿下の宮で食べた時はまだ酸味の多い時期だった。

    殿下……。
    私はどうすれば良かったのだろう。
    殿下の手を取れば幸せになれた?

    …ううん、それはきっと違う。

    ただ黙って手を取るだけじゃきっと駄目なんだ。だって彼らはきっとわかってる。そこにを。
    ハニエル様は何も悪くない。ハニエル様の愛に彼を愛してもいないくせに答えた私がいけないんだ。
    殿下だってきっと私の考えている事くらい見抜いていただろう。だから…だから自分を真実愛してくれるローザ様に……。

    「アマリール様!?」

    侍女は驚き声を上げた。
    いきなり私の顔がぐしゃぐしゃと醜い皺を作ったからだ。さぞかし見苦しいのだろうが本当に見苦しいのは顔じゃない、私だ。誰かに頼らないと生きていけない私自身の弱い心だ。
    涙は次から次へと溢れ出る。

    「…ルー………!!」

    愛でもない。恋とも違う。
    けれど逢いたかった。私とは違う、強い強い心を持ったあの人に。
    
    「アマリール様、どうかお心を強くお持ち下さい…!大丈夫、もう大丈夫です…!」

    一体何が大丈夫だと言うのだろう。
    明日の夜にはまた無理矢理抱かれて殴られて、最後に首を絞められるのだ。【全部君のせいだ】と。

    永遠に明日が来なければいいのに。
    穏やかな海に夕日が全て飲み込まれた後も、私はその場から動く事が出来なかった。

    


    

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