侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第一章

31 解ける

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    「…皇宮へ…戻る…?」

    目覚めて一番に聞いたその言葉にアマリールは固まった。

    「どうしたリル?」

    「いえ…あの…」

    つい先日までもう皇宮に戻る事はないだろうと思っていた。それはもちろん皇宮でのルーベルとローザの噂を真実だと思っていたから。
    (今のルーはローザ様とどういう関係なのだろう…。)
 気になるけど聞けない…聞きたくない。
    
    「その喋り方はやめろ。」

    ルーは“皇宮”と聞いてついかしこまってしまった私の喋り方が気に入らなかったようだ。 

    「ごめんなさい…。」

    「…どうしたんだ?戻りたくないのか?」

    戻りたくない訳じゃない。けれど今の皇宮に私の戻れる場所などあるのだろうか。
    宮勤めの侍女でさえルーとローザ様の関係を噂していたくらいだ。今頃は更に尾ひれが付いて広まっている事だろう。

    「…私はどこに戻ればいいの…?」

    ここが彼の腕の中で良かった。今の自分はきっとひどく情けない顔をしているだろうから。
    アマリールが恐る恐る尋ねると、ルーベルは眉間に皺を寄せた。

    「“どこに”とはどういう意味だ?」

    どういう意味かと言われても、皇宮の…あなたの部屋にはローザ様がいるんでしょう?だから私を離宮にやったんじゃ…でもそんな事言えなかった。
    ルーベルは不機嫌そうにアマリールの返答を待っていたが、いつまで経っても帰ってこない答えに痺れを切らし、とうとう口を開いた。

    「…またか…。」

    「…また…?」

    彼は何が言いたいのだろう。予想もしなかった溜め息混じりの“またか”に思わずアマリールは上を向いた。
    すぐ目の前にはしかめっ面のルーベル。アマリールは更に困惑した。

    「…また気に入らなかったのか…!」

    「“また”って…一体何の事を言ってるのルー?」

    「またあの宮が気に入らなかったのかと言っている!」

    「えっ!?」

    (宮?宮って皇太子宮の事?)

    「お前…アレを建て直すのにいくらかかったと思ってる!?また俺に散財させる気か!?」

    (…もしかしてルー…私が皇太子宮が気に入らないから帰るのを渋ってるとでも思っているの?)

    とんだ見当違いだったがルーベルは大真面目だ。それもこれもすべては皇太子宮の改築当時に遡る。
    改築の費用を皇家から支出するとなるとそれなりに口も出されてしまう。実際ルーベルがアマリールを妃に迎える準備を始めたと感付いた父は親心なのだろう、新たな門出にとド派手な黄金の獅子の像を置こうとした。そして母親はと言うとこれまた父に続けとばかりに意味のない噴水を作ろうとしたり、豪華さ優先の壁や柱にしろとあれこれ口を出してきた。このまま大人しく年配者の意見を取り入れた日にはアマリールの事だ。間違いなく厠の二の舞になる。
    だからルーベルはアマリールのためだけの、アマリールが気に入ってくれそうな宮をと必死に考え、自身の懐から巨額の出費をして建て直したのだ。
    それほど思い入れのある宮なのに、またアマリールが気に入らなかったのだと勘違いしたルーベルは内心穏やかでない…どころか憤慨も憤慨、大憤慨中だ。

    「ル、ルー!違うの!あのね…!「わかった……」

    「え!?」

    蘇る死者の如く恐ろしい形相で顔を上げたルーベル。アマリールは比喩でなく凍り付いた。
    (い、今“わかった”って言った?何が?)

    「…もう一度建て直す…」

    「は!?」

    「聞こえなかったのか?もう一度建て直すと言ったんだ!!」

    「た、建て直す!?」

    「今度はお前が決めろ。内装もすべてお前の好みにしていい。…俺が勝手に建てた宮だ…気に入らないのも仕方ない。」

    最後の方は何だか力がなかった。憤慨したのと同じくらい、相当落ち込んでいるようだ。

    「違うのルー!皇太子宮には何の不満も無いわ!昔厠と間違えてしまった事は本当にごめんね。でも今はそんな事思ってないから!」

    「………。」

    しかしルーベルは恨めしそうな目でこちらを見るばかりで何も言ってくれない。
    (こ、これは相当根に持ってるのね…全部私のせいだから仕方ないけど…!!)

    「…違うのルー。あのね…とても聞きづらくて言えなかったの…。ルーが私を離宮へやった理由は…ルーの側にローザ様がいるからじゃないの…?」

 「ローザ?何でローザが関係あるんだ?…そう言えば父上もそんな事を言ってたな…。ローザが何だって言うんだ?」

 「な、何だって言われても…その…ローザ様の事をルーが召し上げたって侍女が噂してたわ。私とローザ様、どっちが皇后になるのかとか…それを聞いて私…ルーは私が邪魔になって離宮へ行かせたんだとばかり思ってた…。」

 「はぁ!?俺がローザを召し上げた!?何だその噂は!」

 「だ、だってルーはローザ様を自分のお部屋に閉じ込めて出さなくしちゃったんでしょ?」

 「確かに部屋には閉じ込めた。お前を貶めようと妙な動きを見せていたからな…だが俺の部屋じゃない。俺の執務室の隣の休憩室だ。」

 「隣の休憩室!?でもそれで皇太子宮にも帰って来なくなって…」

 「それはお前が…!」

 「私が何?」

 ローザの口からアマリールとハニエルの関係について聞いてしまったから、ショックで会いに行けなくなったとは情けなさ過ぎてさすがのルーベルも言えなかった。

 「…リル、ローザの事はまったくのデマだ。ローザは昔からお前の事を目の敵にしていただろう?最近は特に…。だからお前に手出し出来ないようにしていただけなんだ。誤解させたならすまない。」

 誤解…本当に?本当にそうなの?

 「じゃあ…じゃあルーはローザ様とは何でもないの?だってローザ様はルーの事を…」

 「俺の事を何だ?」

 知らないの…?ローザ様の気持ちを…。そしてあなたもローザ様を女性としては見ていないの…?

 「…あれの性格が歪んだのは俺の姉達のせいでもある。だから時々目を掛けるようにしていたんだ…。確かにそれを少し勘違いしているようなところがあったとは思うが、俺とあいつの間には何もない。あいつ、お前にも嫌な思いをさせただろう?悪かったな…。だがあいつは早目にアーセルへ嫁がせる。だからもう何も心配するな。」 

 「…ルー……!!」

 その言葉を聞いた瞬間アマリールはルーベルの胸にしがみついてわんわんと声を上げて泣き出した。
 この人は…ルーは私の身に起こっていた事をすべてわかってくれていた。すべてを見ていてくれたんだ。そしてローザ様の人間性も正しく見抜き、私から遠ざけてくれた。
 その気持ちがたまらなく嬉しかった。自分には一生手に入れられないのだと諦めていた真実の愛と信頼を、愛しいこの人が私にくれようとしている事が。

 「どうしたリル!?」

 ルーベルは何故アマリールが泣いているのかわからず困惑した。けれど何故だがこの涙は悪いものではないような気がして、何も言わずアマリールを優しく自分の胸にしまい込んだ。

 そしてアマリールはルーベルの腕の中、これまで抱えてきた胸のつかえがすべてとれるまで、子供のようにただ泣き続けたのだった…。





 



    
    
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