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第一章
43 いらない子
しおりを挟む(公爵なんてと思っていたけれどいい男じゃない…!!性格も良さそうだし、国王からの信頼も厚いと聞く。これは意外と良いご縁かも知れないわね……!)
シェリダンの足取りは軽い。未だ女盛りの身体を持て余す彼女は、ロウ公爵の見目の麗しさと若く逞しい肉体に魅せられ、自分の中での彼への評価が現在急上昇中だ。
(殿下ほどの権力と財力は望めないけれど、アーセルはこれからもっと大きくなる国…それもローザとの婚姻で…。)
ルーベルの心を掴むのはもはやアマリールが死にでもしない限りは無理だろう。それならばいつまでも蔑まれ生き辛いエレンディールより、帝国の庇護と恩恵をもたらした皇女として尊く迎えてくれるアーセルの方がローザにとっては幸せに違いない。
(そしてここが窮屈になれば私も……)
国外に逃げる伝ができるのもいざという時に有り難い。
思わぬところから運がやってきた。
シェリダンはしばらくの間、だらしなく緩む頬を止められなかった。
***
「ルー?何色のドレスがいいと思う?」
ルーベルがあつらえてくれた何着もの豪奢なドレスを前に、アマリールとタミヤは悩みに悩んでいた。
「なかなか難しゅうございますね。ローザ様より目立たず、かといって皇太子妃としての品格を損なわない装いとなると……」
「そんなに難しく考える事はない。」
そう言ってルーベルは一着のドレスを手に取った。
「……うん……これだな。お前の瞳の色。」
落ち着いた色味がとても上品な印象を与えるそのドレスは、重なり合うチュールのスカートが裾に向かって大きく広がるデザインだった。
「これ……ルーが……?」
ルーが商人達を呼んだあの日、疲れが溜まっていた私は何も決めず寝室へと引っ込んでしまった。そして皇宮を出て離宮へ行く支度をした日も華美な物を避けて荷造りをしていたから、どんなドレスを彼が選んでくれたのか全然知らずにいたのだ。
アマリールの問い掛けにルーベルはしばらく無言のまま、しかし何か言いたげな面持ちを向けている。
「ル、ルー?」
(何かしら……物凄く不機嫌そう……)
しかしタミヤは何やら楽しそうにニヤニヤとしている。
「……好きな女にドレスを選ぶなんて生まれて初めての事だったのに……お前ときたらろくに見もしないで全部置いて行きやがって……!!」
怖い。あんな事やそんな事をしている仲…いや、しまくっている仲と言えど本当に怖いから下から睨みつけないで欲しい。
「アルノー様達と一緒に随分長いお時間真剣に悩んでおられましたものね。」
タミヤも微妙な加勢しないでお願いだから。
「タミヤ……ちょっと外に出てろ……」
「何言ってるのルー!?もうロウ公爵いらっしゃってるのよ!?」
「うるさい!!タミヤ!!」
「はい。ドレスはもう決まりましたから、あとは宝石類をお願い致しますね。髪結いとお化粧は少し時間がかかりますので早めにお願い致します。」
「ちょ、ちょっと待ってタミヤ!!」
しかし無情にもタミヤは部屋を出て行ってしまった。くふふ、と笑いながら。
「……リル、こっちに来い。」
「ルー!時間が……!!」
「安心しろ。俺達が挨拶するのは晩餐の前だ。しっかり磨いてもらえ。」
ルーベルはベッドに戻り、アマリールに向かって手招きする。
「ルー……でも傷が……!!」
躊躇うアマリールとは反対にルーベルの手招きは高速になる。
アマリールは諦めてベッドの上に乗った。
ルーベルは自分の上にアマリールを乗せて言う。
「ほんとは無茶苦茶にしてやりたいけど傷の事もあるから我慢するんだぞ。感謝しろ。」
「もう…!何言ってるのルー!」
「アドラーも言ってただろ……初恋を拗らせた男は扱いにくいんだ。」
「それもこれも私のせいだって言いたいのね?」
「そうだ。」
(……別にわざとじゃないんだけど……)
でも仕方ない。彼にずっと淋しい想いをさせて来たのは私なのだ。
そしてアマリールはルーベルの目の前でゆっくりと衣服を脱ぎ始めた。
「……リル……」
“脱げ”と言われた訳じゃなく、自分の意思で脱ぐのは初めてだ。
ルーベルの視線が自身の白い肌に釘付けになるのがわかり、身体は燃えるように熱くなる。
「……ルー……見て……」
もっと見て……そして目に、頭に、心に刻んで欲しい。他の誰も入り込む隙間がなくなるほどあなたのすべてを私で満たしてしまいたい。
明るい部屋の中でその美しい裸体を惜しげも無く晒したアマリールは神々しいほどに美しかった。眩く輝く金の髪と白磁のような肌に、ルーベルは抑えきれない衝動を覚える。
「……私のすべてはルーのもの……ルーだけのものよ……。」
もう二度と間違えたりしない。あなた以外の人を受け入れたりなどしない。
傷口に触れぬようルーベルのシャツのボタンを外していく。ルーベルはアマリールの白く美しい指先が緊張で少し震える様を何も言わずにずっと見ていた。
まるでルーベルの五体すべてに誓うようにアマリールは口付けていった。
額に、頬に、唇に。首筋から胸に落ち、包帯の巻かれる腹……そして……
「……リル……そこは駄目だ……!!」
「……どうして……?ルーはいつも私のここを愛してくれるのに……」
切なそうに下から見上げてくるアマリールの顔を見た瞬間ルーベルは心臓を鷲掴みされたような気持ちになる。
「どうしてって……好きな女にそんな事させられるか……!!」
するとアマリールは眉を八の字にして唇を噛んだ。それを見てルーベルはたまらない気持ちになってしまう。
「……嫌じゃないのか……?」
「……うん……ルーの身体に嫌なところなんて一つもない。」
アマリールはもう一度ルーベルを真っ直ぐ見た後、ゆっくりと下腹部へ顔を近付けていった。
「……んっ……ぅ……!!」
大きな昂りに口付けた瞬間、それはビクビクと震えた。口の中に収まりきるのか不安になるほどの膨らみにゆっくりと舌を這わせると、ルーベルから切なげな吐息が漏れ出した。
先端から零れ落ちるトロリとした蜜を舐め取ると、少し塩気があるけど何だかほんのり甘みも感じる。
「……ルー……ルーの、とっても美味しい……」
「……っ、リル!!」
ルーベルの顔は比喩でなく火を噴いた。
ずっと見守ってきた愛しい愛しいリルが、自身の下腹部に顔を埋め、どうしようもなく荒ぶる昂りにその柔らかな唇を寄せているのだ。
そして顎が外れそうなくらい大きく口を開け、ぱくっとすべてを含んだその様を見た瞬間ルーベルは顔を両手で押さえて降参した。
「頼むリル!!もう、もういい!!いいからこっちにおいで!!」
「ふぁんふぇ?」
「何でじゃない!!いいから来なさい!!」
何でルーベルはいきなり父親みたいな喋り方になっているのだろうとアマリールは首を傾げた。
しかしそれが先日まで童貞だった青年の混乱と恥じらいだとはまったく知る由もない。
ルーベルは自分の顔を見せないようにアマリールを後ろから抱き締める形で膝の上に乗せ、プリプリと怒りながら自身を挿入した。
(…何で怒ってるのかしら…)
けれど自分を抱く腕はとても優しい。
アマリールは胸の前でその大きな手を抱き締めながら、彼のくれる甘い快感に酔いしれた。
***
「ロ、ローザ!!」
部屋に戻るなりシェリダンは悲鳴を上げた。
そこに居たのは庭園へ行ったと聞いていたローザだったからだ。
「あなた何をしてるの!?今日はロウ公爵との顔合わせだって知ってるでしょ!!早く支度をして公爵の所へ行きなさい!!」
ローザはシェリダンの言葉に信じられないといった顔で返す。
「何を言ってるのよお母様!!お母様だって反対してたじゃない!!公爵なんかって!!」
母親なら匿ってくれるだろうと思っていたローザは気が狂ったように泣き喚いた。
しかしそんな娘に労るどころか苛立ちを感じたシェリダンは、顔に傷を付けぬよう手の平で頭を叩き付けた。
「きゃぁぁっっ!!」
床に倒れ込んだローザにシェリダンはしゃがみ込んで顔を寄せた。
「……いい?あなたが殿下の心を掴むのはもう無理よ。」
ローザは額に皺を寄せて目を見開いた。
(……そんな……そんな事ない……!!)
しかし必死に心の中で否定するローザに尚もシェリダンは畳み掛ける。
「あなたが生き残る道はロウ公爵との結婚しかないの。いいわねローザ。もう殿下の事は諦めなさい。」
「そんな……そんなの嫌よ!きゃあっっ!!」
再びシェリダンはローザの頭を打つ。今度は反対側だ。
「ねえローザ……あなた、誰のお陰でこんな素敵なドレスを着て美味しい食事が食べれると思ってるの……?」
「………え………?」
「全部私がこの美貌で手に入れた暮らしよね?でもあなたは私に何をしてくれたのかしら?」
「……何……お母様……何を言ってるの……?」
お母様は私を愛しているからすべてを与えてくれたんじゃないの?母親とは何があったってお腹を痛めて生んだ子を守るものじゃないの?
「……あなた、このまま無様な醜態を演じて皇家の恥晒しになるつもり……?そんな使えない子はいらないのよ。」
いらない……?
私はお母様の役に立たなければいらない子なの……?
「いいローザ?騙されたと思って一度ロウ公爵に会ってみなさいな。素晴らしい青年よ。きっとあなたを幸せにしてくれるはず。だからもう殿下の事は諦めなさいな。ね?」
嫌だ……嫌だ……諦めたくない……!
だってずっと好きだった。ずっとずっとお義兄様だけを見つめて来たのに……!!
けれどローザにはそれ以上母親に逆らう事が出来なかった。
いらない子になりたくなくて。
そして力なく言葉を発した。
「……はい……お母様………。」
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