45 / 125
第一章
44 晩餐会
しおりを挟む結局シェリダンに逆らう事の出来なかったローザは周りに見つからぬように部屋へと戻された。
やけにあっさりと戻ってきた事に血眼で捜していたゲイルは拍子抜けしたが、大人しく顔合わせの支度を始めたので今度こそ抜け出せぬよう見張りを倍に配備して部屋を後にした。
(それにしても……手引した奴はどこに行ったんだ?)
手引したのが本当にフェラー子爵家の息子だとしたら少々厄介だ。奴はいわゆるローザの信望者で、ただの取り巻き達とは少し性質が違う。ローザのためなら何でもやる。そんな危うい思想の持ち主だ。
(早く捕まえないと)
ゲイルは踵を返した。
***
「まあ……何てお美しいのでしょうアマリール様……。」
タミヤと数名の侍女はほうっと溜め息をついた。まさに力作、侍女の本気が詰め込まれていると言っても過言ではない。皆皇太子宮に勤めて長いが何せ主は男。いつの日か女子の憧れであるきらびやかな宝石とドレスで女主人を思う存分飾り立ててみたいと思っていた。
そして今日、遂にその腕前を発揮する時が来たのだと知り、全員異様な気合いが入ってしまったのだ。
「ちょ、ちょっとやり過ぎじゃない……?」
たっぷりと保湿した艶のある肌。滑らかな唇の上には肌馴染みの良いほんのりピンクみのあるベージュの口紅。
ここまでは良い。控え目で品があって本当に素晴らしい。けれど問題はこの先だ。
テーマは妖精でしょうか?
本気でそうツッコミたくなる。複雑かつ美しく編み込まれた髪はサイドへ垂らし、その編み目には小さな生花がバランス良く挿し込まれている。
宝石は白く細い首を更に引き立てるような華奢な鎖にドレスと合わせた青紫の石。
(ネックラインがビスチェだから……肌がたくさん出ててちょっと恥ずかしいわ……。)
「やり過ぎなんてとんでもありません!アマリール様は殿下のご婚約者になられて初めての行事でもありますし、他国の高貴な方をお迎えしての晩餐ですからこれくらいでちょうど良いですわ!」
ふんす!と鼻から息を吹き、自信満々の侍女の皆さん。
「さあさあ、殿下に見ていただきましょう!」
タミヤに背を押され隣室のルーに声を掛ける。
「……ルー……?」
「ん?終わっ………」
「どしたのルー?顔が変よ?」
何かを言いかけて口を開けたまま止まってしまったルーベル。
後ろに控えている侍女達からはクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「あんまりお綺麗だから殿下が固まっちゃったわ!」
「うふふ!やったわね!」
そしてお互いの健闘を讃え合っている。
「良く似合ってる……綺麗だ。」
「ルー……ありがとう。」
しかしルーベルは、照れるアマリールに放った次の一言を侍女達に大否定される。
「……我慢できない……脱がしてもいいか?」
「「「ダメです!!」」」
***
晩餐が行われる広間に着くと、中からはご機嫌な陛下の声が聞こえてきた。どうやら既にお酒が入っているようだ。
「もう始めてるのか?」
「はい。お食事はまだなのですが、陛下が先に祝杯だと仰られて……」
ルーベルの質問に答えたのはちょうど通り掛かった給仕の男性。苦笑いをしているのはきっと陛下がもうたくさん飲まれているからなのだろう。
「おおルーベル!遅いではないか!ロウ公爵、これが我が息子ルーベルだ。」
ロウ公爵と呼ばれた男性はルーベルに向かって深々と礼をする。そしてルーベルの後ろにいたアマリールを見た途端、頬を染めて微笑んだ。
「ロウ公爵、遠いところご苦労だった。私がルーベル。そしてこれは我が妃…今はまだ婚約者だが、アマリールだ。」
「………えっ………?」
「何か?」
ルーベルの言葉にロウ公爵はあからさまに動揺している。それが何故なのかアマリールにはまったくわからず横にいるルーベルを見た。するとルーベルはロウ公爵の心の内を探るような目をしていた。まるで彼を警戒しているかのように。
「おお、おお、アマリールも来たか!今宵はまた一段と美しいな!これはルーベルが片時も側から離さぬ訳だ。さあお前達もこちらへ来なさい。」
上機嫌な陛下に促され二人は案内された席に着く。すると……
(………何………?)
視線を感じて顔を向けると真っ直ぐにこちらを見ているロウ公爵と目が合った。
気のせいかと思ったが違う。隣のルーベルではない。間違い無く自分を見ている。
(……どうしよう……)
困ったアマリールが横を向くと今度はルーベルと目が合う。優しい金色の瞳にホッとする。
「リル、酒は苦手だろうが祝杯だ。一口だけ付き合えばいい。」
そう言って手渡されたグラスの中にはワインが注がれてある。
「ルー、私ワインなら大丈夫なの!少しならだけど。」
「本当か?」
「うん。」
「リル……」
ルーベルはアマリールの耳元で囁く。
「……あいつ、さっきからずっとお前を見てる。まさかとは思うが知り合いか?」
「ルーも気付いてくれてたのね!ううん……一度もお会いした事ないわ……どうしてさっきからあんなに見るのかしら……」
私が誰かに似てるとか?
その時、入り口の方がざわめいた。
「おおローザか!!さあこっちへ!待ちくたびれたぞ!」
暗い表情でやってきたローザ様はあの日…私達の婚約式で着ていたドレスを…着替えさせられたドレスを着ていた。
未だルーベルを諦められぬ気持ちを表したかのようなその装いは、彼女なりの最後の抵抗なのかもしれない。
「ロウ公爵、ローザだ。どうだ美しいだろう?」
「ええ陛下……ローザ殿下、アレクサンドル・ド・ロウと申します。」
さっきアマリールに見せた笑顔と違い、その顔はどこか曇っている。
しかしローザはアレクサンドルの見目が想像よりも良かったのだろう、少しだけ安堵しているような感じが見受けられる。
(……お母様の言う通り……悪くないわ……)
ルーベルを忘れるために嫁ぐ相手としては及第点だ。何よりこの人との婚姻をお母様が一番喜んでいる。
母親が喜んでくれるのなら……今のローザはその一心で何とか自分を保っていた。
36
あなたにおすすめの小説
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました
唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」
不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。
どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。
私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。
「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。
身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる