侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第一章

45 幸せに向かって

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 私の花嫁だと思っていた人は、違う男のものだった。しかも相手は帝国の皇太子。どうあがいても私に勝ち目などない……いや、勝負にもならないだろう。
 広間に姿を現した彼女を見た時、あまりの美しさに再び胸が震えた。
 妖精のように儚げで可憐な彼女をすぐにでも連れ去ってしまいたい衝動に駆られた。
 それなのに……。


 「本当に……ローザのお相手がこんなに素敵な方で嬉しいですわ。素晴らしいご縁を結んで下さった陛下には感謝してもしきれません。」

 ローザの母シェリダンは喜色満面。いつもは忌々しい皇后が側にいようとも今夜だけは違った。この晩餐会の主役はローザであり、そしてその母である自分なのだ。

 「……ありがとうございます……。」

 「まあ、照れてらっしゃるのね!うふふ、今日のローザは本当に輝いているから……。とても綺麗よローザ。」

 「……お母様……!」

 シェリダンに優しく微笑まれ、ローザはやっと心からの笑顔を見せる。
 やっぱり自分はお母様の言う通りにするのが良いのだ……きっとそれが一番の幸せなのだ。
 そう自分に言い聞かせて……。

 皆の酔いも進み、そろそろお開きと言うところで皇帝アヴァロンはルーベルに祝辞を述べるよう言った。

 「ローザの門出に最後の言葉をかけてやれ。お前は義兄としてよくローザを気に掛けていたしな。」

 (……お義兄様……!!)
 立ち上がったルーベルと目が合い、ローザの胸はズキズキと痛んだ。
 きっとこんなに好きになれる人と出会うことは二度とない。生まれて初めて恋をして、生まれて初めて心から傷付いた。
 甘い想いも辛い悲しみも……すべてを教えてくれた世界で一番愛おしい人……。

 「……ローザ。ここでの暮らしは辛い事も多かっただろうが、もうお前は一人ではない。これからはロウ公爵と共に支え合い、アーセルの発展に努めよ。お前なら必ず出来るはずだ。そしてロウ公爵、至らない点の多い義妹だがどうか末永く宜しく頼む。」

 ルーベルの言葉にロウ公爵は頷き、ローザの目からは涙が零れ落ちた。

 「さあ皆、残念だが今日はこれでお開きとしよう。ロウ公爵も、今夜はゆっくりと休んでくれ。」

 アヴァロンの言葉に皆が席を立ったその時、入り口の方からゲイルがやって来た。

 「殿下、急ぎお伝えしたい事がございます……よろしいでしょうか?」

 ゲイルの顔は真剣だ。何かあったのだろうか。

 「……リル、少しここで待っていろ。」

 ルーベルはそう言い残し、ゲイルと共に話し声の漏れない場所へと移動した。

 (……ちょっと飲みすぎちゃったかしら……)
 飲めると言っても強い訳ではない。だが先ほど振る舞われたワインはとても飲みやすく、しかもアマリールの大好きなみずみずしい果実のような味わいであったため、つい注がれるまま飲んでしまったのだ。
 広いバルコニーの窓は開け放され、外からは心地良い風が流れてくる。
 アマリールは酔い醒ましにと夜風に当たる事にした。


 **


 「うわぁ……気持ちいい風……!」

 風に乗って庭園に咲く花の香りや緑の匂いが流れてくる。
 しばらく目を閉じて風を感じていると

 「……いい風ですね……」

 不意に後ろから声を掛けられた。
 驚いて振り向くと、そこにはロウ公爵が立っていた。

 「……ロウ公爵、お部屋に戻られないのですか?」

 アマリールの問いにロウ公爵は苦笑する。

 「……あなたがここへ出るのが見えたので……


 「……私が……?」

 ロウ公爵の顔は途端に引き締まり……目元は切なげに細められた。

 「実は今日、庭園であなたを見掛けました……小さな薔薇を苺のようで美味しそうと……」

 (えっ!?あれを見られてたの!?)
 まさかそこに彼がいたとは思っていなかったアマリールは、自分の子供じみた発言を思い出し顔が赤くなる。

 「……薔薇にハサミを入れる事を謝っていましたね……」

 そこまで見られていたのか……
 (……穴があったら入りたいわ……)
 万が一ルーベルにバレたら即“お前皇太子妃としての自覚ゼロだな!!”とこってり怒られそうな内容である。

 「あの……どうしてロウ公爵は庭園に?」

 「……私の花嫁となる人が庭園へ行っていると聞いたのです。それで私は……それがあなたの事だと……」

 「………え………?」


 **


 「ローザ、最後にロウ公爵と少しお話してから戻りなさいな。」

 「……はい……お母様。」

 「……辛いだろうけど元気を出してローザ?お母様がついてる。お母様はいつでもあなたの味方よ。だから私を信じなさい。ロウ公爵との結婚は必ずあなたを幸せに導いてくれるわ。」

 シェリダンは両手で優しくローザの手を包んだ。
 この手に引かれてここまで来た。
 貧乏貴族のままならお義兄様に会う事すら出来なかった。すべてはお母様が与えてくれたもの……
 (……だからこれでいい……これで私は幸せになれる……)

 「……ロウ公爵はどこにいらっしゃるのお母様……?」

 「ほら、今バルコニーで夜風にあたってらっしゃるわ。行ってきなさい。」


 そしてローザは歩き出す。
 幸せに向かって。




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