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第二章
2 真実(中編)
しおりを挟む『エレンディールが滅亡の道を辿る……?』
一体どういう事?
だって今の…彼が皇帝となる直前のエレンディールはその長い歴史の中で最盛期だった。たとえそれが少しくらい衰退したとしても、滅亡なんてするはずがない。
《……彼はその世界のすべてを失ってしまったんだ。そんな彼に帝国などもはや無価値。》
『彼の世界のすべて……?それは何……?』
《君だよ。彼のすべて。その心のすべてを占めるもの。》
そしてプルマはまた手をかざす。
聞こえてくるのは怒号。
狂ったようにルーベルを責め立てているのは
『……ハニエル様……』
「お前のせいだ!!お前のせいでアマリールは死んだんだ!!これで満足か!?僕達を引き裂いて彼女を一人死なせて満足か!?」
僕達を引き裂いて……?
ハニエル様……何を言ってるの……?
場面は目まぐるしく変わる。
「お義兄様……これからはローザがずっと側にいるわ。だからもうアマリールの事は忘れて?」
私の事を忘れろ……?
これからはずっと側にいる……?
あなた達は愛し合っていたんじゃないの……?
だからあんなにも私に見せ付けるように睦まじく微笑み合っていたんじゃないの?
映像の彼は誰の言う事にも耳を貸さない。
その目と心はどこまでも果てのない虚無を抱えているかのよう。
しかし彼の目に生気が宿る時がある。
それは……
「ただいまアマリール……淋しかったか?」
大きな手が優しく頬だったであろう場所を撫でている。
彼は私を埋葬しなかったようだ。
肉は腐り落ち、ところどころ骨が露出している。ひどい悪臭がするだろうに……それなのに彼の顔は幸せで満ち足りている。
「……愛してるアマリール……今日も美しいな……」
どうして……どうして今になってそんな事言うの……?
その言葉がずっと聞きたかったのに……ただそれだけだったのに……。
そしてまた場面は変わる。
「エクセル!!お前本当に行く気か!?」
(ゲイル様……そしてアドラー公爵も……どこかに出陣するのかしら……?)
アドラーは大勢の部下を引き連れ出立しようとしているところだ。
「お前の顔もこれで見納めだな。達者で暮らせよゲイル。」
「止めろ!行くな!この戦に勝ち目がない事くらいお前だってわかっているだろう!?」
「……あの方を主と決めたのは他でもない俺自身だ。最後まで付き合うさ……。」
「エクセル……!!」
そしてアドラーは駆けて行く。
《君が死んでから徐々に狂って行った彼は周辺国を力でねじ伏せ服従させた…それこそ血の皇太子の異名の如く血で染め上げたんだ。……それが原因でエレンディールを取り囲む国々は手を組み、首都を包囲するように攻めてきた。周囲を囲まれ補給路も絶たれたエレンディールには餓死者が溢れ、頼みの綱となるアドラー公爵も戦死。》
『そんな!!じゃあお父様やお母様は!?』
プルマは目を閉じ首を横に振った。
(嘘だ……そんなの嘘よ……!!)
《嘘じゃないよ……。皆死んで行った。ハニエルと言う子もローザという子も敵兵に殺された。最後に残ったゲイルという子もね……。》
『殿下は……?殿下も殺されたの……?』
《見せてあげるよ……彼の最後を……》
煙の上がる宮殿。
断末魔の叫び。
そんな中で彼は鋏を手に薔薇を切っていた。
(……苺の薔薇……)
手に持ちきれないほどたくさんの薔薇を抱えて彼は戻って行く。
「アマリール……今年もこんなにたくさん咲いたぞ……どうだ、美味そうだろう?」
彼のベッドに寝ていたのは白骨化した私。
彼は庭で切ってきたたくさんの薔薇をその周りに丁寧に置いて行く。
「……思い出さなくても良かったんだ……俺が馬鹿な事にこだわっていたせいで……」
乾いた骨に殿下の美しい瞳から零れ落ちた涙が優しく染み込んでいく。まるで私を包むように。
「……愛していたんだ……誰よりも何よりも……それなのにごめん……ごめんなリル……」
彼の広いベッドは薔薇でいっぱいだ。
まるで花を敷き詰めた棺のよう。
そして彼は部屋に火を放った。
「……リル……お前を誰にも触らせたりはしない……熱いけど我慢してくれ。大丈夫……俺がずっと抱いているから……」
骨だけの私を抱く彼の顔は優しく微笑んでいる。
どうして……?熱いのはあなたでしょう?お願いだから早く逃げて……骨だけの私なんて捨てて早く逃げて……!!
けれどルーベルはアマリールを抱いたまま火に包まれていった。アマリールを火に触れさせないようにしっかりとその胸に抱いて。
《これが彼の最後だよ……。辛かったね……。》
胸を押さえて泣くアマリールにプルマが声を掛ける。
《……今から君達の歩むはずだった人生に干渉し、捻じ曲げた悪意についてすべてを教えてあげる……でも約束して欲しいんだ。》
『……約……束……?』
《うん……。前世へ戻って彼を救うと約束して欲しい。》
彼を救う……?どうやって……?
どうやったらそんな事が出来るの?
私はせっかく与えられたやり直しの人生すら失敗してしまったのに…
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