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第二章
3 真実(後編)
しおりを挟む《……もうわかっていると思うんだけど、君は前世でも記憶を失っている。そして彼の事を最後まで思い出せなかったんだ。》
確かにそれは何となく気付いてた。そしてルーの言葉で甦った記憶の中で見た銀の鍵と黄色のドレス……あれはおそらく前世の私なのではないかと。
《そう。あれは前世の君だ。》
『でもどうして……?お父様もお母様も……周りの誰もが私にその事実を教えてくれなかったわ。』
今生ではお父様から聞いていた。皇宮で頭を打ったと……。
《……前世の君の家族はとても心配していたんだ。その事故が君の未来に暗い影を落とすんじゃないかと。頭を打って一部記憶を失くした侯爵令嬢なんて……きちんとした嫁ぎ先も見付からないのではないかとね。だから必死で隠したんだ。時にその財力を使ってまで。》
お父様……。
《でも問題はそこじゃない。さあ始めるよ。》
そしてプルマは手をかざす。
『ハニエル様……?』
そこには今生で十六歳だったハニエル様よりももう少し幼い彼が映っていた。
そしてその隣には……私だ。とても楽しそうに笑ってる。
『これは……皇宮……?』
《そう。あそこを見てごらん。》
プルマの指差す方に見えたのは
『殿下……』
《彼はずっと君達を見てた……そしてあの子はわざと見せていた……自分達の仲睦まじい姿をね。》
『まさか……ハニエル様は殿下がそこにいる事を知って……?でも何でそんな事を?』
《君を彼…殿下に渡したくなかったからだよ。でも結局殿下は君との約束を果たすために結婚した。…だから嘘をついたんだ。》
『嘘……?』
「これで満足かルーベル!?」
「……用が無いならさっさと帰れ。俺は明日の式の準備がある。」
ハニエル様に…殿下…?
式とは……もしかして結婚式の事?
《そう。これは君達の結婚式の前日の事だ。》
「無理矢理僕達の仲を引き裂いて満足かと聞いているんだ!!彼女がどれだけ傷付いていると思う!?」
まただわ。僕達を引き裂いてって……。
前世の私達には引き裂かれるような関係など何も無かった。仲の良い姉と弟のような関係だったわ。それなのにハニエル様は何を……?
「アマリールは俺が幸せにする。お前の心配など無用だ。」
そしてルーベルが部屋を出ようとしたその時、ハニエルの顔は醜く歪む。まるで悪魔でも乗り移ったかのように。
「ねえルーベル……アマリールと僕は永遠の契りを交わしたんだ。」
永遠の契り……?何それ……一体ハニエル様は何を言ってるの?
「アマリールが昔僕に言ったんだ。“私が誰かに取られる前に絶対にハニエル様のものにして”ってね。だから愛し合った。アマリールが僕のお下がりで残念だったねルーベル。」
『!!』
何で……何でその言葉をハニエル様が知ってるの……!?その言葉は記憶を失う前の私がルーに言った言葉よ……!!
《……殿下はね、君との過去をゲイル君にだけは話したんだ。なぜ君にそこまで固執するのかずっと理由を聞かれていたから。あのハニエルという子は父親が皇帝の弟でしょう?それにあの愛嬌にみんな弱い。だから皇宮内に入れない場所なんてなかった。……だから殿下の話を偶然聞いてしまったんだよ。そしてそれを悪用したんだ。よりにもよって君達の初夜の前日にね。》
『そんな……何てこと……!』
《……そして殿下は傷付いた。いつか自分を思い出してくれると信じていたのに君があの子を選んだのだと思って……》
【父上の命でなければお前などとは結婚しなかった。俺達にとってのお前の価値はお前の領地のもたらす富だ。いいか、勘違いするな。】
結婚式直後のあの言葉はそれで……。
ハニエル様の嘘を真に受けて私を恨んでいたんだ……自分を裏切った私を……。
《そしてもう一人君達の運命を捻じ曲げた子……ローザだ。》
プルマが手をかざすと今度は……これは……?
「ねえお義兄様?お義兄様ってあのアマリールってご令嬢が好きなんでしょう?うふふ、嘘付いてもダメよ?だって見てればわかるもの。」
ローザ様と殿下……。でもこの話の内容は何?
「ローザが協力してあげる!大好きなお義兄様のために一肌脱いであげるわ!」
一肌脱いで……?何……何を言ってるの……?
「ねえお義兄様!今日アマリール様とお喋りしたのよ!私達仲良くなれそう。彼女は私の未来のお義姉様になるんでしょう?…私、あんまり言いたく無いけど、今のお義姉様達には意地悪されてばかりだから…あんなに優しいお義姉様が出来たら本当に嬉しいわ…!お義兄様頑張ってね!」
誰……この子は誰なの……私の知っているローザ様は
【どうしてお義兄様を私から奪うの!?あなたって本当に恥知らずな女ね!!そんなに皇統の血が欲しいの!?】
そんな風に私を罵ってばかりいたのに……。
《……ローザは殿下に信じさせたんだ。自分は君との関係が良好で、何でも話せる仲だと。そして殿下に少しずつ嘘を吹き込んでいったんだ……。》
「……お義兄様……あのね……アマリールはこの結婚を望んでいないみたいなの……好きな人がいるって……」
その口からは次々と嘘が語られて行く。
そして殿下の顔は表情を無くして行った。
「……お義兄様……アマリールはもう子供が産めない身体でしょう?だからもう解放して欲しいって……もうお義兄様に触れられるのも嫌だって……だから離宮へ行く事を許して欲しいと言ってたわ……。」
私……そんな事一言も言ってない……!
あなたが……あなたが私に言ったんじゃない!
【使ってない離宮があるでしょう?身体をゆっくり休めるためにもあそこがいいだろうってお義兄様が。】
《……嘘はそれだけじゃない。》
『……え……?』
《これを見てごらん》
プルマが見せてくれたのはローザ様と……あの人は……私を診察した皇宮医……。
「ねえ……皇宮の筆頭医としての地位をあげるから、協力してくれない?」
「しかしローザ様……殿下はアマリール様以外にお妃がいらっしゃいません。新たに娶られるおつもりもないようです……そんな事をしたらお世継ぎが……」
「大丈夫よ。まだ極秘なんだけどお義兄様はもうすぐ妃を迎える予定なの。」
「なんと!それは本当ですか!?」
「うふふ。本当よ……。その方に気兼ねなくお義兄様の子をお腹に宿して貰うためにも不仲の妃なんていない方がいいでしょう?ね?」
「……わかりました。では仰る通り、アマリール様はもうご懐妊の難しい身体と言う事にいたしましょう。その代わり……お約束は守って下さいね?」
「当たり前よ。ありがと。」
『そんな……そんな……!!』
《……君は子供の産めない身体にはなっていなかった。それどころかまだ若く体力だってある。この先だって殿下との子供を望めたんだ。》
アマリールの頬を熱い涙が流れ落ちて行く。
……悔しい……!悔しいよ……!!
どうしてこんな……こんな事を……!!
《……説明しだすときりがないんだ……この他にも政治の絡んだ悪意……水面下での女の醜い争い……知らずのうちに君達を巻き込んで飲み込んで行った……。》
そんな……そんなに沢山の人が私達に関わっているなんて考えた事も無かった……。殿下はただ私の事が気に入らないのだとそればかり悲しんで……。
《どうだい?彼を救う気になってくれただろうか……。それにこれは彼のためだけじゃない。君のためでもある。》
『私の……?』
《今生において彼の愛を一身に受けながらもふとした時に思い出しては苦しんでいたはずだ。前世での事を。》
確かに……いつまで経っても記憶から消えてくれなかった。思い出す度に胸が痛んで……。
《そして今生も悪意によって命を落とす事になったのは、捻じ曲げられた前世を正さなかったからかもしれない……きっとまた引っ張られたんだ。前世から続く悪意にね。》
『なら……なら前世をあるべき形に戻せたなら、私は生きてまたルーに会えるの!?』
《……今はっきりと答えることはできない。でもそう出来るよう僕も努力するよ。それに……君に人生をやり直させたのは他でもない僕だからね。》
帰りたい……何があっても私を愛し守ってくれたルーの元に帰りたい……。
『……殿下の元に行きます……。そして必ずルーの元に帰るわ。』
私の答えにプルマは満足気に微笑んだ。
《きっとそう言ってくれると思ったよ。さあ、そうと決まれば打ち合わせだ!》
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