侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第二章

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 前世の殿下の部屋に入るのは初めてだ。
 しかも肩を抱かれながらという信じられないおまけ付き。
 (記憶を失う前の私はここに入った事があるのかしら……?)
 そう言えば前世では皇太子宮の修繕は何度かあったけど、建て替えなんて無かったような……。何でだろう……。ルーは私が厠と間違えたせいだって言ってたけど……もしかして殿下との出会いはルーとは違うのかも……。

 「何か気になるものがあったか?」

 「いっ、いえっ……!」

 いけない。つい考え込んでしまった。
 少ししてタミヤがお茶と菓子を乗せたワゴンを押して入って来た。
 テーブルに並べられて行くお菓子から甘い香りが漂う……けど……
 (……何か……ちょっと偏ってない……?)
 何かと言うとそれは菓子の種類だ。
 バターがたっぷりと染み込んだ黄金色の焼き菓子。そしてこれまた黄金色のスコーンの横には瓶に詰められた蜂蜜。まだまだあります黄金色に煮詰めたリンゴの入ったケーキの上にはやっぱり蜂蜜ドバドバ。最後は星の形の砂糖菓子まで黄金色だ。
 (……何でここまで黄金色のお菓子と蜂蜜だらけなの……?)
 普通ならチョコレートやクッキー、口直しのフルーツなんかもあるはずなのだが……。
 私が身体を屈めてお菓子を凝視している姿を見て殿下はまた微笑んでいる。怖い。怖すぎる。彼が微笑んでいるところなど前世では作り笑い以外一切見たことがないというのに。

 「どれがいい?遠慮なく食べなさい。」

 どれがいいと言われても全部同じようにしか見えなくて困る。
 しばらく迷ったが、走ったから喉も乾いたしお腹も空いている。いきなりこってりとした甘い物はきついので、酸味も一緒に味わえるリンゴと蜂蜜のケーキを選んだ。
 タミヤが綺麗に切り分けてくれたケーキが、可愛らしい苺の絵付けがされた皿に乗って目の前に置かれた。
 少し緊張しながらリンゴのたっぷり入った部分を口に運ぶと、見た目よりずっとさっぱりした上品な甘みと程よい酸味が口の中に広がる。

 「……美味しい……」

 甘い物が口の中に入ると人はどうして笑顔になってしまうのか。優しい黄金色のケーキにすっかり気を取られていた私は、目の前の殿下が泣きそうな顔をしていた事にまったく気付かなかった……。




 ***



 「そのケーキをお願いします。」

 遠慮がちに指差したのは林檎と蜂蜜のケーキ。
 その瞬間、心臓にナイフを突き立てられたかのような痛みがした。

 (……リルと同じだ……やっぱりお前の中にリルがいる……消えてなどいない……!!)

 リルはいつも全力で庭を走ってくる。
 皇太子宮に着く頃には喉はカラカラで腹も空く。
 リルの好きなのは俺の瞳の色の菓子。
 その中でも必ず最初に選ぶのはその林檎のケーキだった。

 『走った後はこれが一番美味しいの!』

 食いしん坊なリルでもその順番だけは絶対に変わらない。

 リル…………
 頼む早く戻って来てくれ…。


 紅茶を飲みながらルーベルは、アマリールではなくリルだけを見ていた。
 二人は同じであるが違う。違うけれど同じなのに。





 
 
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