侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第二章

16 悩む

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 「じゃあまた来週……待っている。」

 そう言って私を見送る殿下の顔は優しく切ない。まるで【帰るな】……そう言われているような気になる。
 帰り道の途中、今来た道を振り返ると殿下は部屋に入らず私を見ていた。
 何もかもが初めての事で頭も気持ちもついて行かない。そんなに殿下は私を愛していたと言うのだろうか。それならどうしてあんな仕打ちを……。
 優しくしてくれる彼を嬉しく思いつつも、私の心は混乱していた……。


 それから二度、三度と会う回数を重ねる毎に殿下は少しずつだが色んな話をしてくれた。
 そしてある時気付いてしまった。
 彼が語ってくれる話の内容はどれもおそらく“殿下とリル”の思い出に関係があるのだと。
 なぜそんな事を思ったか。それは彼の話が“ルーと私”の間に起こった事と酷似していたのだ。
 私はそれを聞く度に彼の“リル”……つまり前世の私への本当の気持ちを知り感極まって泣いてしまうのだが、彼はいつもそれを見て微笑むのだ。それはそれは嬉しそうに。
 彼は私を見ていない……私の中に眠る“リル”を呼び覚まそうと必死になっている。
 だから自分の話が私の失った記憶に響いた手応えを感じる度に微笑むのだ。
 そう思うと本当にこのままでいいのだろうかという気持ちが頭をよぎる。

 ルーは記憶を無くした私を……あるがままの私を愛する覚悟を決め、行動に移してくれた。結果私は無事に思い出せたものの、例えそうでなかったとしてもルーは決して私を手放さなかっただろう。“リル”は“私”、“私”は“リル”。違うけど同じなのだ。誰よりもルーはその意味をわかっていた。
 ……けれど殿下は……?
 今の殿下にとっては“リル”だけが大事で“私”はただの器なんじゃないの……?
 私は殿下に愛を返すと決めた……。
 でも殿下の欲しいのは私の愛じゃない。彼が欲しいのはリルの愛。ではもし私が記憶を取り戻せなかったら……?
 ダメだ……余計な事を考えちゃいけない。私はこの生を生き抜いてルーの元に帰ると決めたのだ。殿下だってまだまだ幼い……そんな彼にルーの決断と同じものを求めるのは間違っている。彼とルーは同じだけど違うのだ。
 
 どうしたらいいんだろう……。
 こんな状態で本当に彼と歩むはずだった日々を取り戻す事なんて出来るのだろうか。 
 私は悩んだ。悩んで悩んで眠れないほどに……

 そして中身は大人だけど身体は思いっきり子供がこんなに悩むとどうなるか。
 そう、熱を出すのだ。
 (……やってしまった……)
 しかも明日は殿下と会う日だというのに。

 「これじゃ明日は無理だな。皇宮には知らせを送るから、安心してゆっくり休みなさい。」

 私と殿下が会う事を未だ心から賛成出来ない父の顔はどこかホッとしているように見える。
 普通娘が殿下に召されると聞けば諸手を挙げて喜ぶものだろうに……。
 (そう言えば……今生でも前世でも……お父様は私が殿下に嫁ぐ事に反対していたわ……)
 今生では私がルーを拒否していたから娘思いの父なのだと思っていたけど、前世の私は殿下を拒否なんてしていなかった。最終的には陛下の押しの強さに負けた感じだったけど、最後まで父の顔は曇ったままだった……。
 
 「……お父様……?」

 「ん?何だいアマリール。」

 「……お父様は私が殿下とお会いするのは嫌……?」

 私からそんな質問が出るとは思っていなかったのか、父は少し驚いたような顔をした後一言だけ呟いた。

 「……お前には少し荷が重いのではないかと思ってね……」

 荷が重い……?殿下に嫁ぐ事を言っているの?
 お父様は難しい顔をして、ここではないどこかを見つめている。

 「今は身体を治す事だけ考えなさい……」

 そう言って私の頭を一撫でし、父は部屋を出て行った。





  
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