66 / 125
第二章
18 ばったり
しおりを挟む殿下が誘って下さった模擬戦とは、エレンディール帝国で開かれる皇帝主催の武芸試合の事である。騎士団に所属する者達が磨き抜かれた技を競い、その勝者には皇帝より直々に褒美が下賜される。
(そんな場所に私が……?)
しかも一緒に観ると言う事は、私に皇族の皆様の観戦席に参列しろと……?
「これは……ちょっと……」
殿下からの手紙を読んだお父様も頭を抱えてしまった。
それもそのはず。せっかくのお誘いを断るのは不敬にあたるし、かと言ってお受けすれば私は殿下の“特別”として帝国内外から注視される事になる。
「まだ身体も本調子じゃないし、別席での観覧にさせてもらえるようお手紙を書いてみる?」
「そうだなあ……途中退席するかもしれないからとお願い申し上げてみようか……」
駄目元で手紙を出すと、殿下は案外すんなりと納得してくれたようだ。
しかし必ず皇族席に顔を出すようにとの事。
ご挨拶で済むのなら随分気が楽だ。
私は能天気にも初めて参加する模擬戦の日を楽しみにしていた。
***
そして模擬戦当日。
快晴に恵まれてとても気持ちのいい朝だ。
私はいつもより早起きしてお父様と会場である皇宮の広場へと向かった。
「わあ……凄い人!」
今日だけは皇宮の広場も一般開放される。皇宮の周囲には出店も出て美味しそうな匂いが辺りに漂っている。まるでお祭りのような雰囲気に心が弾む。
「私達の席は……ああ、あそこだね。」
お父様が指差したのは貴族専用の観戦席。
自分で言うのも何だがクローネ侯爵家は一応名門。案内されたのは試合の様子がよく見える前列の席だった。
皇族席を見るとまだ誰もお見えになっていないようだ。
「お父様?少しだけ周りを見て来ても良い
?」
「ええ!?」
「お願い少しだけ!すぐ戻るから!」
「……あまり遠くへ行ってはいけないよ。それと決して走らない事。守れるかい?」
「はいお父様!」
こんなに賑やかな皇宮は初めてだ。
ここにはあまりいい思い出がなかったが、何だか今日はとても良い日になりそうな予感がする。
そう思っていたのだが……
「あっ♡あぁん♡♡あん♡♡」
(!?)
広場の混雑に紛れると迷子になりそうだったので、貴族席の近くを歩いていたらいきなり聞こえてきたとんでもない声に足が止まる。
(……女の人の泣き声……?)
何かあったのだろうかと耳をすますと……
「やぁぁん♡♡そこ……そこはダメぇ♡♡」
(こっ、この声は……!!)
何て事だ!騎士達が誇りをかけて競う神聖なる模擬戦の日に、こんな所でこんな事を致しているなんて!!
(と、とんでもない不届き者だわ!!)
辺りには肌と肌がぶつかり合う音が派手に響き、女性の声もどんどんと間隔なく大きくなって行く。
(早くあっちに行かなきゃ!!)
覗きでもしてると思われたらたまらない。
くるりと向きを変えたその時だった。
「あっ♡♡そんな…そんな格好いやぁ♡♡エクセル様ぁ♡♡」
(………エクセル様………?)
50
あなたにおすすめの小説
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる