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第二章
20 初めての感情①
しおりを挟む私はアドラー公子に手を引かれ、会場へと戻る事になった。
「それにしてもよく俺の事がわかったね?」
私と顔を合わせた事が無いからだろうか。とても不思議そうなお顔をされている。
「……お相手の女性がかなり大きな声で公子のお名前を呼んでおられましたから……もしかしてと思いまして……」
「あはは、だから茂みから確認しようと顔を出したんだね?」
「はい。やっぱり初めから気付いてらっしゃったんですね?」
「うん。いついかなる時でも周りの気配には敏感でいないと命を落としかねない。」
確かにその通りだとは思うのだが、それを言うならせめて屋内ですればいいのにと思うのは私だけだろうか……。
「先ほどの方は公子の恋人なのですか?」
「ん?違うよ。さっき初めて会ったんだ。」
「は、初めて!?」
「ああ。会場までの道を歩いていたら“ご武運をお祈りします!”って熱く声を掛けてくれてね。それでちょっと。」
それでちょっと?ちょっとどうしたんですか?
「俺、本命以外には愛は平等にあげるようにしてるの。そうすればみんな幸せでしょう?」
バチーンとウィンクされるがまったく納得出来ない内容だ。
(そう言えばアドラー公爵は独身だったわよね……すごくおモテになるのにどうしてだったのかしら……)
そんな事を話しているうちに会場に着いたものの、さっきよりかなり人が増えてごった返している。
「これは凄いね。ここを行くとはぐれちゃいそうだな……よしっ!」
「えっ!?きゃあっ!!」
いきなり身体がフワリと浮いたかと思うと、私は公子の腕に抱き上げられていた。
「このまま行くよ!しっかりと掴まっててね!」
「はっ、はい!」
そうして私は公子の首にしっかりと両手を回し、人混みの中へと入って行った。
***
その頃会場の皇族席には少しずつ皇帝の家族達が姿を現し始めていた。
皇后の産んだ皇女クロエと皇太子ルーベルの姿が見えると会場からは歓声が上がった。
(……クローネ卿の姿は見えるがアマリールは……来ていないのか?)
きょろきょろと辺りを見回す弟に、姉であるクロエは微笑みながら声を掛けた。
「どうしたのルーベル?落ち着かないわね。」
「いや……別に……。」
照れ隠しなのか返事がそっけない。
いつも堂々としてる弟のこんな姿を見るのはもしかしたら初めてかもしれない。
あまり公にされてはいないが皇太子に近しい者達の間で最近囁かれている噂がある。
“皇太子殿下がとあるご令嬢を毎週自室に招いている”
その噂はクロエの元にも届いていたが、何せ意地っ張りで照れ屋なこの弟に聞いたところで“ただの噂だ”としか答えは返って来ないだろう。
しかしこの様子だと、どうやら噂の子を今日この目で見る事が出来そうだ。クロエは内心楽しみで仕方なかった。
皇帝と皇后も姿を現し、いよいよ始まるかと言う時に隣に座っていたルーベルが叫んだ。
「はあ!?」
クロエはいきなり声を上げたルーベルに驚きその視線の先を追うと、そこには可愛らしい少女を抱いたアドラー公子の姿が見えた。
「あらエクセルったら、あんなに可愛らしいお嬢さんを連れてどうしたのかしら?ねえ、ルーベル?」
しかし隣のルーベルから答えは返って来ない。
(ちょ、ちょっと……何かしら……怖いわ……)
クロエは弟から発せられる凄まじい怒気に慄いた。
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