侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第二章

22 初めての感情③

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 冷や汗をかく我ら親子とは対照的に、会場の熱気はどんどん加速して行く。
 我が国に騎士団は三つ。アドラー公爵率いる第一騎士団。そしてマルセル侯爵率いる第二騎士団。第三騎士団は救護活動を主として動く隊なのでこのような日は出番無しのようだ。
 模擬戦と言えど各騎士団のプライドに陛下からのご褒美も掛かっている。観客よりも騎士達の仲間に対する掛け声の方が良く聞こえて来るのはそのせいだろう。

 皆さん本当に素晴らしい腕前だぁ……と現実逃避するように目を細めて観戦してもビシビシと感じるこの痛すぎる視線。皇族席に鎮座しておられる皇太子殿下はどうやらまだご立腹の様子である。
 
 「お父様?殿下から挨拶に来るようにって言われていたけどそれはいつなのかしら?」

 同じく暗い面持ちの父に話し掛けると

 「……わからない……」

 何とも抑揚よくようのない声で返事が返ってきた。 
 わからないとは一体どういう事なの。
 その顔を見る限りもう何もかもがわからなそうな感じになってるけどしっかりしてお父様。

 「本当にわからないんだよ。挨拶と言っても皇族席にはそう簡単に近付けるものではないんだ。それに競技中は騎士の皆様にも失礼にあたるし……そうなるとどうすれば良いのか……」

 確かに……殿下は簡単に挨拶に来いと言うけれど、あそこにはご家族の方達もいらっしゃる。
 
 「……おそらくだが……あのご様子だとそのうち側近のどなたかをここまで呼びに来させるだろう。だからそれまでは大人しく待とう。」

 ……
 おかしいわ……殿下はこんなに感情を露にするような人じゃなかったのに……。
 表情が乏しくて、いつも何を考えてるのかわからない……そんな人だった。しかし今私の目に映るのは、明らかにご立腹な様子の殿下。
 何でだろう……でも前世との違いは少しずつ未来が変化してる証だと思って頑張るしかないわよね……。
 私は気を取り直してお父様の言うように殿下の命を受けたお迎えの方が来るのを待つ事にした。



 ***



 腹が立つ。面白くない。
 アドラーもそうだが一番はアマリールだ。
 なぜ俺以外に触れた?
 いくら記憶が無いからって他の男の腕に抱かれて首に手を回して……思い出すだけで腸が煮えくり返る。
 リルだったら絶対にあんな事はしない。リルだったら絶対に……。
 そうだ。あれは“リル”じゃない。
 なのになんでこんなに腹が立つ?
 あれは何も憶えていないんだ。リルじゃないんだ。だから笑って許してやればいい。あれは同じだが別の人間なんだ。
 けれど頭では理解しているつもりなのにどうしようもなく腹が立つ。
 あいつが……リルじゃないあいつが戻って来てから経験した事のない感情の波が自分を揺さぶって止まない。こんなのは俺じゃない。

 「エメレンス!!」

 「はい、こちらにおります。いかがなされましたか殿下?」

 「クローネ侯爵令嬢をここに呼べ。あと椅子も一脚用意しろ。」

 ルーベルの言葉を聞いた皇帝夫妻は二人揃って眉を上げ、お互い顔を見合わせて息子の様子に苦笑いをした。

 「あら、私にも紹介してくれるのかしら?」

 “楽しみだわぁ”と呑気に言うクロエをサラリと無視し、ルーベルはその肉食獣の如き金眼で再びクローネ親子に激しく圧をかけるのであった……。



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