侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第二章

25 祝福を

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 広場には無傷で倒れる男性とアドラー公子。
 (相手に傷一つ負わせずに倒すなんて……本当に凄いわ……!)
 いくら今日が気合いの入った試合といえど、傷を負ってはいざと言う時に戦えない。誇り高きエレンディールの騎士の本分はお仕えする主君のために命を懸けて戦う事。
 群衆に己の強さを見せつけるためだけに戦えば必ず相手を傷付ける。無傷で倒すというのは力も神経も使う何よりも難しい事だろう。
 
 「エクセル・ディ・アドラー!昨年に続き見事な勝利であった!」

 勝者となったアドラー公子と所属する第一騎士団の騎士達に陛下が労いの言葉を掛ける。
 騎士達は皆皇族席に向かって敬礼をしている。

 「第一騎士団には後で褒美を取らせよう。それとは別にエクセル、何か望みはあるか?」

 やっぱり勝者には特別なご褒美があるのね。でも望みのものなら何でもいいのかしら?だとしたら陛下も凄い太っ腹だわ……!
 皇帝の言葉にアドラーは笑顔で叫んだ。

 「では今年も女神の祝福をいただきたく存じます!よろしいでしょうかクロエ様!?」

 (女神の祝福……クロエ様?)
 アドラー公子の言葉にクロエ様はクスクスと楽しそうに笑っている。

 「また?エクセルも飽きないわね。」

 (何?一体何が始まるの?)
 クロエ様は陛下の許しを得て席を立ち、広場まで下りていく。そして跪く公子に微笑みかけたあと、その額にキスをした。
 (女神の祝福って……クロエ様のキスの事だったんだ……)
 
 「今年も素晴らしかったわエクセル。その強さで次期皇帝となるルーベルを支えてあげてね。約束よ。」

 「このエクセル、クロエ様との約束は決して違えたりいたしません。お約束します。」

 それはまるで一枚の絵のようだとアマリールは思った。それほどにお似合いの二人だったから。

 「……何だ、ショックでも受けてるのか。」

 出た。この憎まれ口の王様め。
 何でショックを受けるのよ。さっき遠回しだけどあなたが好きだって言ったでしょうに。
 せっかくいい雰囲気に浸っていたのに……もう!
 しかし頑張れアマリール。これに負けていては未来を変えるなど夢のまた夢。
 幸い私はまだ子供だ。直球で勝負してもそれほど傷は深く残らないだろう。よし。

 「いえ。とても素敵だなぁと思って見ておりました。私も騎士だったら絶対にこの試合に出場してご褒美のために頑張ったと思います。」

 私の言葉に殿下は怪訝な顔をする。

 「何だ……何か欲しい物でもあるのか?」

 「はい。私もアドラー公子のように殿下からご褒美をいただきたいです。」

 そうだ。額にキスはいらないが、せめて優しい言葉の一つでも掛けてもらいたいところだ。
 そんな事を呑気に考えていた私だが、ふと殿下の顔を見ると彼はまた私を凝視したまま固まっている。
 (……この人、こんなに面白い人だったかしら。)
 そうだったかもしれないが、そうでなかったかもしれない。
 (……私は彼の何を見ていたんだろう……)
 今と前世が違ってきているのは私が未来を変えてる訳じゃない。今の私がきちんと彼と向き合っているから。
 (……殿下は……とっても可愛いところのある人だわ……)

 「え?」

 考え込む私の目の前に、細く長い指が見えた。その先を追うと、何と殿下が私に向かって手を差し出している。

 「……おいで」

 「え?」

 「……何度も言わせるな!来いって言ってるんだ!」

 何でいきなり怒鳴るのか。納得がいかないがしかし怖いのでその手を取ると、殿下は私を抱き寄せ前に出て観客に手を振った。
 (え!?観客に丸見えじゃないの!!)

 「で、殿下!?これはちょっと…!!」

 「……褒美が欲しいんだろ……?」

 いや言いましたけどこれは褒美じゃなくてむしろ拷問……!!
 私達の姿を見た観客からは凄まじい歓声が湧く。
 (何!?ご褒美って私が殿下の特別だって皆に見せる事がご褒美だと思ってる!?)
 それは確かにご褒美だろう。しかしそう思うのは欲深き者だけだ。
 
 「殿下!私の言うご褒美はこういうものでは……」

 !?

 広場の歓声は最高潮となる。
 なぜならその時ルーベルが先ほどのクロエのように、アマリールの額に唇を落としたからだった。



 
 「あらあらルーベルったら。あんなに独占欲の強い子だなんて思わなかったわ。」
 
 クロエはさっきまで自分のいた場所を広場からのんびり見つめている。
 そこには(姉からすると)見た事がないくらい幸せそうに微笑む弟と顔の引きつる少女の姿。
 アマリールと名乗った可愛らしい少女は、不器用で頑固で口下手な弟を照らす小さな光のよう。
 まだ七歳だと聞いたが、五歳上のルーベルより大人びて見える不思議な子だった。

 「男って奴はみんな独占欲の塊なんですよ。」

 「あなたもそうなのエクセル?」

 「ええ、もちろん。」

 だからあなたをここまで呼び出した。
 いつかあなたが降嫁するのなら自分以外いないのだと周りに知らしめるために。

 「困ったものね。正式な発表も無しにこんな事してルーベルったら。アマリールちゃん……これから大変な目にあうわよ。」

 「大丈夫ですよ。殿下が死にものぐるいで守るでしょう。」

 「ふふ、あなたって本当に楽天家よね。羨ましいわ。」

 「お褒めに預かり光栄です。」

 そう、そしてあなたは俺が守る。

 
 この数年後、クロエが隣国ローランへ嫁ぐ事をこの時のアドラー公子はまだ知らない。



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