侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第二章

26 頼みの綱

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 まだ信じられない。
 
 アマリールは侍女のララに髪を梳かしてもらいながらあの日の事を思い出していた。
 あの殿下が……殿下が私の額にキスをした。しかも大勢の前で。


 『で、殿下!?』
 
 混乱する私に殿下はいつもの不機嫌顔をほんのり赤く染めて言った。

 『……あれが羨ましかったんだろ……?』

 アレ?アレとは?
 殿下の視線は広場にいるクロエ様とアドラー公子。
 もしかして……さっきの私の“ご褒美が欲しい”発言をキスのおねだりだと思ったの?
 殿下は目を合わせないくせにチラチラとこちらを気にしてる。
 (な、何か言ってほしいのかしら……)
 言いたい事ならある。“こんな大勢の前ではやめて下さい”だがそんな事言おうものなら絶対にヘソを曲げるに違いない。
 どうする……どうしたら……そうだ!

 『……何だ。何か言う事があるのか』

 いや殿下が私に何か言って欲しいんですよね。
 耳が真っ赤ですよ?
 だからその可愛い耳を隠してあげる事にした。まだ小さな自分の両手で殿下のお耳を隠すようにして内緒話をしたのだ。

 『殿下、こういう事は結婚する人としかしてはいけませんよ』

 きちんと婚約した後でないと大変な事になるという意を込めて伝えたつもりだったのだが、殿下はそれを聞いて何を思ったのだろう。一瞬目を見開いて、悲しそうに笑ったのだった。
 
 
 「……それにしてもお嬢様……どうしましょうかこれ……」

 目の前の机には殿下と私の噂を聞きつけた貴族の方々から届けられた招待状の山。
 内容はすべて一緒だ。“どうぞ我が家のお茶会へ”と。
 模擬戦が行われたのは一昨日だ。キスの一件から予想はしていたものの、まさかこんなに早く届くとは。
 しかし権力の変遷に敏感でないとこの貴族社会をうまく生き抜く事は不可能だ。ある意味この迅速な行動は称賛に値するのかもしれない。
 アマリールは深い溜め息を一つつき、上質な紙で作られた白い封筒を順番に手に取っていった。
 
 「コンラッド伯爵家……アンセル子爵家……マルロー男爵家に…………?」

 《……じゃあヒントをあげる。アーデン伯爵家。これに気を付けるんだ。》

 差出人をもう一度確認するが間違い無い。
 プルマが教えてくれたアーデン伯爵家ってこれの事……?
 え?私まだ七歳で、殿下と婚約もしていないのよ。それなのにもうそんな要注意人物が出て来ちゃうの……?
 しかし予防は早いに越した事はない。
 まずは相手の事をよく知らなきゃ。
 
 「ララ、お父様はお部屋にいるかしら?」

 「まぁお嬢様ったら、お忘れになったんですか?旦那様なら今日から大きな会合が始まるから来週まで戻らないと仰っていたじゃないですか。」

 そうだった!こんな時に頼みの綱のお父様がいないのは痛い。

 「それに来週までお返事をしないのは失礼よね……。」

 どうしよう……。今思いつく頼りになりそうな人と言えば殿下くらいしかいない。
 でも殿下はお忙しいし、お茶会の事なんて専門外よね……。
 そうだ……!一人いる!すごく優しくて頼れそうな方が!
 殿下の姉上であるクロエ様だ。
 (もしかしたら断られてしまうかもしれないけど駄目元でお手紙を出してみよう……!)
 そして私はその日のうちに皇宮のクロエ様へと手紙を送ったのだった。
 

 **


 駄目かと思っていたが、クロエ様からまさかの“いいわよ~”が届いたのは翌朝だった。

 「嬉しい!!えっと日時は……今日でも良いの!?」

 そこには女性らしい柔らかな筆跡で
 “ルーベルのせいでごめんなさいね。お返事もたくさん返さなきゃいけないんでしょう?良かったら今日の午後にでもいらっしゃい。待ってるわ。”
 そう書かれていた。
 
 「ララ!これから皇宮へ行くから支度をお願い!!」

 クロエ様ならきっとアーデン伯爵家の事についても知っているはず。
 私は招待状の山をすべて詰め込み、クロエ様のの待つ皇宮へと向かったのだった。

 
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