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第二章
24 好ましいのはあなただけ
しおりを挟む私達の関係を知らない方にこの状況を的確に説明するためには、どう言葉を尽くせば理解してもらえるだろう。
私ことアマリール七歳。ルーベル殿下の斜め後ろで怯える事早五分あまり。未だ殿下の機嫌回復の兆し見えず。
(……気まずいわ……最高に気まずい……)
「アマリール、喉は乾いていないか?」
陛下、今の私は何も喉を通りません。
「アマリール、お菓子もあるわよ?」
マデリーン様、お菓子も無理です。
「アマリールちゃん。椅子の高さ辛くない?」
クロエ様……好き……。
「………………。」
殿下……もはや何も言うまい。
一体何がそんなに気に入らなかったのだろう。元はと言えば優しい青年がたまたま出会った少女を父親の元へと送り届けてくれただけなのだ。それは誰が見ても微笑ましい光景ではないだろうか。
(……さっきからこっちを振り向きもしないわ……)
何だか昔を思い出す。こんな事しょっちゅうだった。私がいるのをわかっているくせに視界に入れようともしない。
それでもいつか……と信じて待った自分の何て健気な事か……。
感傷に浸っていると一際大きな歓声が上がった。
(あっ……!アドラー公子だわ!)
模擬戦はもう決勝戦まできていた。
「やはり今年もアドラーの息子かな?」
陛下は楽しそうにマデリーン様に話し掛ける。
今年もと言う事は昨年の勝者も公子だったのだろう。
一体どのくらい強いのか。興味津々な私はほんの少し、本当にほんの少しだけ身を乗り出したのだがそれがまた良くなかった。
「そんなにアドラーが気になるのか」
……人と話す時は顔と目を合わせなさいと習わなかったのだろうか……。
私は彼の後頭部に返事をする。
「……どれほどお強いのかと思いまして……」
あっちの方が強いのはよくわかったんですが……とは流石に言えなかった。言えば即死だ。
そして殿下は再び黙り込む事数分、また口を開く。
「……ああいうのが好みなのか……?」
………ん?
なんだろう……以前同じ言葉を聞いた事があるような……あ!そうだ!保養地からの帰り道だ!
あの時もルーったらアドラー公爵にやきもちを焼いて……
ん?やきもち?……やきもち!?
顔を見せないのは無視してるんじゃなくて……やきもち焼いてるの!?
(……噓……え……噓でしょ……)
信じられない。何か凄い衝撃だ。あの殿下がまさかそんな……。
それなら早く訂正しなければ。
(でも何て?)
殿下相手に駆け引きなんてただの負け戦だ。ここは素直に話すしかないだろう。私は意を決した。
「とても素晴らしい方ですが、好みではありません。……というより男性の好みは自分でもよくわからなくて……。」
すると殿下の隣で聞いていたクロエ様が言う。
「あら、じゃあアマリールちゃんの好ましい男性ってどんな人なのかしら?気になるわ。ねぇ、ルーベル?」
好ましい男性!?
それは……ルー一択ですけどそんな事言う訳にも……。いや、言ってもいいのかも。嘘じゃないわ。ルーと殿下は違うけど同じ人。それに前世ではどんなに冷たくされてもそれでも殿下に愛されたかった。前世は毎日毎日辛さの方が勝って冷静に考えた事がなかったけど、その気持ちは愛とか恋の類だったのだろうと思う。えーい、ままよ!!
「“好ましい”なんて言うのは失礼かもしれませんが、私は殿下の事をそのように思います。」
私の返事にクロエ様の目はキラキラと輝いた。何だかとても楽しそうなお顔だ。
しかし勢いで言ってみたものの、これは軽めの告白のようなものだ。気恥ずかしい。こういう時は殿下の後頭部との会話形式も有り難いなぁ……なんて思っていたらその瞬間、物凄い勢いで殿下の首が回った。
「あらルーベル、嬉しいのはわかるけど首が取れるわよ?」
クロエ様違う、そうじゃない。
そして殿下もどうせこっち向くなら表情を付けて下さい。怖いから。
「あの……殿下……?」
殿下は私を凝視したまま硬直している。
(……やっぱり失礼だったかしら……)
殿下が好かれて嬉しいのは私じゃなくて“リル”だ。
私の気持ちなんて迷惑だったのかもしれない。
「あの……殿下?失礼でしたらお詫びいたします。大変申し訳……」「……お前、俺の事が好きなのか……?」
(……は……?)
聞き間違いだろうか。
今変な言葉が聞こえたような……
「あの、殿下もう一度……」
“もう一度仰って貰えますか?”
そう聞こうとしたのだが、クロエ様が割って入る。
「ルーベルったら、女の子にそんな事何回も言わせるなんて失礼よ?こういうのは二人きりの時に話す事だもの。アマリールちゃんも恥ずかしいわよね?」
クロエ様の言葉に殿下は口元を押さえてまた前を向いてしまった。
(……あ……!)
その表情は見えないが、耳が赤い。
(……迷惑じゃなかったのかな……)
そうだったらいいのに。そんな事を考えていたら下からまた歓声が上がった。
どうやら勝敗が決したようだ。
「いや強いな!あれがアドラーの後を継げばエレンディールも安泰だ!!」
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