侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第二章

31 誓い

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 どうしよう。暖炉の支度なんてした事が無い。でも殿下の身体は間違い無く私よりも冷えているはずだ。
 殿下は部屋には入ったものの俯いたまま微動だにしない。
 とりあえずそこら辺にあった適当な布(失礼)でパンパンと軽く叩くようにして、されるがままの殿下の服から水分を抜いた。
 (あとは……どうしよう……温かいお茶もないし……)
 こんな時間に侍女にお湯を頼んでは大迷惑だろうし、殿下が部屋にいるのが知れるのもお互いによろしくない。

 「殿下?とりあえずこっちに……」

 私は冷たい殿下の手を半ば無理矢理引いて寝台まで誘導した。
 はしたないとか言ってる場合ではない。尊い存在の皇太子に風邪なんて引かせられない。

 「こちらに座って?それで……よいしょ……」

 私は寝台の上に用意されていた毛布で殿下の身体をぐるぐる巻きにした。

 「これにくるまってればこれ以上冷えません。」

 しかし私の言葉に殿下は顔を歪める。

 「……何でだ……」

 「え?」

 「……何でだよ……お前の中には確かにリルがいる。当たり前だ。だってお前はリルだから。それなのになんで俺の事だけ記憶から消したんだ……!!」

 「殿下……」

 「その呼び方やめろよ!!この毛布だってそうだ!俺がお前に言ったんだ!寒かったら俺のベッドで毛布にくるまってろって!!」

 ルーと同じだ……ルーはベッドに入ってろとまでは言わなかったけど……。

 「お前はリルじゃないけどリルなんだ!!やる事なす事リルと同じなんだ!!ただ……ただそこに俺がいないんだ……俺だけが……!!」

 殿下……。
 私はリル……リルだと認めてくれるの……?
 記憶が無くても、それでもいいの?
 あんなにも必死に私からリルを引っ張り出そうとしていたのに。
 でもそれなら私は……私はもう躊躇ったりしない……したくない……!!



 「……殿下が好きです……」


 殿下は流れる涙を拭いもせず、私の言葉に驚いたように顔だけ上へ向けた。 
 震える身体を毛布ごと抱き締めようと手を伸ばすけど、この小さな身体では毛布の厚みで手が届かない。
 怯えたような顔をする殿下から優しく毛布を剥がし、その頭を胸の中にしまい込む。
 するとゆっくり、ゆっくりと時間をかけて遠慮がちな手が私の背中に回った。

 「……殿下が好き……大好き……」

 不器用で口が悪くて……でもとっても可愛い人。

 「思い出せない私を許して下さい……でも殿下を一人にしたい訳じゃないの……許してくれるなら側にいたい……」

 私達は離れたら駄目なの。
 離れたらまたきっと何もかも壊されてしまうから。

 「……俺を好きなのか……?」

 なんでそんな顔をするのだろう。好きだ、大好きだと言っているのに。
 こういう時はルーも殿下も一緒だ。
 二人でいるのに一人のような顔をするところ。

 「……好きです……誓います……あなたから一生離れない。絶対に一人にしないって。」

 私達の誓いとは別の……これはリルとアマリール、二つの想いを溶かした私の心からの言葉。

 「思い出したら必ず殿下の名を呼びます。私達だけの名前を……だからどうか……どうか側にいさせて下さい……」

 
 殿下はしばらくの間何も言わなかった。
 何かを考えているのだろうか。それとも私の温もりを心地良いと思ってくれているのだろうか。背中に回った手は動かない。


 「……どうしようもない気持ちに苛まれる事があるかもしれない……」

 それはやはりリルを想ってなのだろうか。
 でもそれは仕方ないわ…。

 「はい……。」

 「ひどい言葉を投げつけるかもしれない……」

 うん……もう慣れてる……はず。

 「それでも側にいるのか……無理だろう?」

 可愛いけどやっぱり憎たらしいわ。
 でも知ってるの。クロエ様が教えてくれたの。あなたは気持ちと真逆の事を言うって。

 「……側にいます……美味しいリンゴのケーキが食べたいし……」

 「ふふっ、こんな時に何だお前。本当に食い意地が張ってるな……ふふ。」

 笑った……。

 「殿下……やっと笑った……」

 柔らかな表情に胸が詰まる。
 ずっとこうしたかった。殿下とこんな風に気持ちをぶつけ合ってみたかった。
 (三度目でやっとだわ……)
 
 「……殿下……大好き……」

 何度でも言うわ。
 これからは会う度に伝える。

 「言い過ぎると信用されなくなるぞ」

 (ふふ…本当に天の邪鬼……)



 私達は抱き締め合ったまま眠った。
 殿下がしっかりと自分と私を毛布でぐるぐる巻きにしてくれたようで、風邪を引くことはなかった。
 が、しかし

 前日の雨が嘘のように晴れた翌朝。
 私を起こしに来た侍女がベッドの上で抱き合って眠る私達に顎が外れるほど驚いて、慌ててクロエ様を呼びに行く事となった。
 そして可哀想な事に殿下は笑顔のクロエ様に私から引っ剥がされ、どこかへ連行されて行ったのだった。





 
 
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