侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第二章

31 誓い*殿下視点

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 姉上の宮にアマリールが来ている。
 タミヤのその一言で急に胸の中がムカムカしだした。
 相談って何だ。それで何で姉上の所なんだ。まず俺の所に来るのが普通だろう?
 だってお前は俺の……!!

 ……お前は俺の……何でもない……。
 そうだ……俺のものだったのは“リル”だけだ。
 “アマリール”は俺のものじゃない。
 
 このまま俺を思い出さなければいつの日かあいつは誰か他の男に恋をして、そいつのものになるのだろう。
 ならどうすればいい?無理矢理婚約を推し進めて誰にも取られないようにしてしまえばいいのか?幸いにもあいつは俺を好ましいと言った。嫌がりはしないだろう。
 でも俺はそれでいいのか……?
 俺を思い出さないあいつを側に置いて一生リルの面影を追って満足なのか?
 ……あいつはリルじゃない……リルじゃないんだ!なのに何でだ……何でこんなにイライラするんだ……!!

 本当はわかってる……。
 命があっただけでも奇跡だ。無事に生きていてくれるだけでもいいと何度も願った。
 けれどいざあいつを目の前にすると欲が湧く。リルのようにして欲しいと。
 じゃあ“リルのように”とは何だ?
 リルは俺を好きで……俺だけをその瞳に映して、頭の中はいつも俺でいっぱいで……。
 でもそれをあいつがしてくれたら?
 あいつが俺に心から愛を注いでくれたら?
 それは俺にとって余計な事か?
 この数ヶ月あいつを見てきた。わかった事はあいつの中にリルがいるんじゃない。
 本当は気付いてた。あいつもリルも一緒だと言う事を。
 リルは記憶を失った訳じゃない。だってリルは何も変わってなどいない。苺の薔薇が好きで、庭園を駆けるのが好きで、林檎のケーキが好きでそれで……それで俺が好きなんだ。
 あいつはリルだ……。
 ただ俺だけがそこにいないだけなんだ……。

 雨の音がうるさい。
 慣れない皇宮であいつは眠れているだろうか。そう思っただけなんだ。それなのに足は勝手に動き出す。
 リルもそうだったんだろうか。
 俺を想うと勝手に足が動いたのだろうか。


 *


 「ルー……!!」

 幻聴だと思った。
 あの頃と同じ俺を呼ぶ声。

 「……会いたいよ……ルー……」

 けれどそれはもう一度聞こえた。はっきりと。

 「今何て言った!?アマリール!!」

 それからは自分でも溢れ出る感情を止める事が出来なかった。
 本当は思い出していたのか?なぜ何も言わないんだ。俺に会いたかったんだろう?今そう言ったじゃないか!!

 「でも殿下が欲しいのは“リル”なのでしょう?……今の私は“リル”じゃない。」

 そう言われた瞬間強く頭を殴られたような衝撃を受けた。こいつはわかっていたんだ。俺が自分を通して違うものを見ていた事を。
 
 「全部思い出せればどんなにいいか……そうすればこんな淋しい想いもきっと消えて無くなる。だって私が“リル”に戻れば殿下は優しく受け入れてくれるから!!」

 淋しかったのか……俺のせいで……。
 俺達は一緒だ。でも違う事が一つだけある。
 それはお前が初めから俺という一人の男を見ていた事だ。リルの時も、アマリールの時も。きっとお前は俺が記憶を失ったとしても愛してくれるのだろう。俺のように馬鹿みたいに過去にこだわったりせずに。

 「……殿下が好き……大好き……」

 その言葉はずっと何かに追い立てられるように生きてきた俺の中に染み込むようにして広がって行く。

 「……好きです……誓います……あなたから一生離れない。絶対に一人にしないって。」

 あの時誓ったのは俺だ。
 今度は俺に誓ってくれるのか……。

 いつか傷付けてしまうかもしれない。
 情けない俺はいつまでもリルにこだわってお前を泣かせるかもしれない。

 「……側にいます……美味しいリンゴのケーキが食べたいし……」

 最悪だ。何だよそれ。
 リルももしかしたら俺に会いたいんじゃなくて菓子が目当てで来てるんじゃないかと疑った時もあったんだ。少しトラウマなんだからやめてくれよ。

 「殿下……やっと笑った……」

 ……俺はそんなにお前の前で不幸そうだったか?俺を笑わせたのはリルと……お前だけだ……
 
 「……殿下……大好き……」

 ……俺はリルを愛してる……
 ……でも……この温もりを離れがたいと思う……


 “スーーーーーッ”


 「……おい……」

 やけに重い。
 しかもスーーーッてそれ寝息か。
 まさかこの状況で寝たのか。
 お前俺の事好きって言ったよな。
 好きな男が自分の胸に顔を埋めてるこの状況で寝たのか。

 「……本当にお前は……俺よりも肝が据わってるよ……」

 力の抜けた身体をゆっくりとおろしてやると柔らかそうな頬をゆるめて寝てる。

 「何でそんなに俺の事信用してるんだよ……って、わかってるよ……それはお前がリルだからだよな……」

 だから俺にすべてを預けられるんだよな……。

 五つ年下の小さな身体は包んでるはずの俺が包まれているかのように温かい。
 二人で一つの毛布にくるまると、ほのかに甘い香りが鼻をくすぐって眠れない。

 「……一生離れないって言ったのはお前だぞ……忘れるなよ……」


 いつしか俺もそのまま眠りについていた。
 起きたら地獄とも知らずに……。


  

 



 
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