侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第二章

33 赤っ恥の応酬

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 殿下がクロエ様に連れて行かれてからもう二時間は経つ。
 その間に私は身支度を済ませ軽い朝食をいただき、今は帰宅前の挨拶とお礼を言うためにクロエ様が戻るのを待っている状態だ。
 (面倒な事になっていなければいいんだけど……)
 昨夜…。殿下とお互いの気持ちをさらけ出して話し合った。
 感情的になっていたから時間の感覚があまり無かったけれど、おそらくかなり深夜まで話していたのだと思う。
 まさか朝起きて自分の側に殿下がいるなんて思いもしなかった私は、起こしに来てくれた侍女が何で悲鳴を上げたのかさっぱりわからなかった。しかし……

 『……何だ……うるさいな……』

 頭の上から声がする。
 そして後ろから自分に回された手が二つ。
 理解が追い付かない。
 なぜこんなところに彼がこんな体勢でいるのか。

 『……起きてるのか……?』

 起きてるけどまさかの事態に胸がドクドクと騒ぎ出した。
 身体には明らかに力が入っていて起きてるのはバレている。しかしいつまで経っても返事をしない私に殿下は痺れを切らした。
 私を仰向けにするように倒し、上に乗ったのだ。

 『何だ……やっぱり起きてるじゃないか。何で返事をしないんだ。』

 そう言って見つめてくる顔はとても少年のそれではない。
 久しぶりに至近距離でみる美しい金色の瞳。
 懐かしくて胸がぎゅうっとなる。
 
 しかしこの体勢がまずかった。
 侍女が助けを求めたクロエ様が到着して目にした光景は、“いたいけな七歳の少女の上に乗り朝から襲いかかる弟”と言ったところだろうか。
 さすがに衝撃を受けたのだろう。クロエ様の顔も面白い事になっていた。

 『ちょっといらっしゃいなルーベル』

 そう言って首根っこを掴むような勢いで殿下を連行していったが……おそらく殿下が連行された先は陛下の所だろう。
 (何から何まで嫌な予感しかしない……)
 しかしこんな状況でも朝御飯はきちんと腹に入るのだ。もしかしたら私は二度の人生を経てかなり豪胆になったのではないだろうか。

 しかし調子に乗る私を打ちのめす事態がこの後やって来ようとは、今は知る由もなかった。


 **


 (怖いわ……)
 やっと知らせが来たと思ったら“陛下がお会いになります”という予想もしないものだった。
 そして謁見の間に訪れた私を待ち受けていたのは、今までに拝見したことのない陛下と皇后様のホクホクした笑顔。
 そして隣には不機嫌の塊がおられる。そうです。殿下です。

 「アマリール、昨夜はルーベルがすまなかったな。身体は大丈夫か?」

 「……は?」

 「やだ陛下ったら!ちょっと言葉が直接過ぎますわよ!アマリール、これからは女同士何でも相談してね。」

 「……は?」

 何だこれは…。
 一体どういう状況なんですか。
 (殿下…で……んか?)
 肝心の殿下は不貞腐れているのか私と目が合ってもぷいっと逸らしてしまう。
 (ちょっと……すべてはあなたのせいなんですけど!?)
 責任放棄ですか。やってくれるじゃないの。
 それならば受けて立ちます。
 前世の私だったら絶対やらない事をしてみせるわ。

 「あ、あの……昨夜の事なのですが……」

 “うんうん、わかっているぞ。みなまで言うな。”そんな顔でお二人は頷いている。

 「殿下が皇宮に不慣れな私の事を心配して下さって……深夜の雨の中、濡れる事も厭わずに庭園から来てくださったのです。」

 「!?」

 ふふ、あんなに目を見開いて驚いてるわ。
 どう?バラされて恥ずかしいでしょう殿下。

 「私は殿下の身体が心配で……濡れた服を拭いて差し上げて、冷えないようにと毛布をお掛けしたのですがいつの間にか眠ってしまって……。きっと殿下がいて下さったから安心したんだと思います。」

 最後は笑顔で締めくくって差し上げた。
 殿下は羞恥に悶えていらっしゃるご様子。
 やった。やったわ。

 「じゃあ……何も無かったのか?少しくらいあっただろう?」

 「陛下!野暮ですわよ!さすがにルーベルだって少しくらいは……」

 「殿下は私の身体が冷えないようにと一緒の毛布に入れて下さっただけです。尊い方に大変失礼な事をしてしまいました。申し訳ありません。」

 陛下達はポカーンとした顔をしている。
 さすがにキスくらい……いやちょっとお触りくらいしただろうと思っていたようだ。
 陛下に至っては息子の不甲斐なさが信じられないご様子。
 アヴァロン陛下はまだ少年の頃から下半身の方もとてもやんちゃでいらしたと聞く。
 おそらく殿下の年の頃には来たるべき日に備え日々研鑽を積んでいたに違いない。
 (そう考えるとルーも殿下も素敵だわ……)
 前世の殿下はどうだったのかわからないけどローザ様以外の噂は聞かなかったし、ルーは私とするまで大切にとっておいてくれたのよね……その……ど、童貞を。
 
 そして陛下の様子を見兼ねた皇后陛下が口を開く。 

 「ま、まあそれはおいおいね……でもねアマリール?二人で朝を迎えた所を見られてしまったからにはきちんとしないとあなたに傷が付くと思ったの。」

 「はぁ……」

 「だからね……ほらルーベル、アマリールに言う事があるんでしょう?」

 皇后陛下に促されるも、殿下は何も言わず真っ赤な顔をして私を睨みつけている。
 (怖い……前世の冷たい表情には慣れてるけどこれはまた別物ね……)
 そして殿下はその恐ろしい顔のまま一歩ずつゆっくりとこちらへ近付いてくる。
 こんな恐ろしい顔で何を言うのだろう。
 私も真剣な顔で身構えたが、殿下の口から出たのは予想もしない言葉だった。
 
 「アマリール」

 「は、はい。」

 「婚約するぞ。」

 「はい!?」

 “婚約するぞ”!?
 “婚約するか?”じゃなくて!?
 後ろでマデリーン様が口を開けて驚いている。多分こんなはずじゃなかったのだろう。

 「ちょ、ちょっとお待ち下さい殿下!父に、父にも相談しませんと……!!」

 「お前はどう思っているんだ。昨夜俺の事が好きだ、大好きだ、一生側にいると言っただろう。」

 「なっ!!ちょ、ちょっと殿下!!」

 「まあ!!」

 マデリーン様が歓喜の雄叫びを上げる。

 「確かにその……好き……とはお伝えしましたが、とにかく父と相談を……!」

 「アマリールがそのつもりなら何の問題も無いわ!!早速準備に取り掛かりましょう!!」

 駄目だ。マデリーン様の頭の中ではもう婚約の算段が始まっている。

 「殿下!!」

 「何だ。早めに婚約しておいた方が余計な波風も立たないだろ?ああそれと、お前は来週から皇宮で暮らせ。」

 「………は?」

 






 
 
 

 


 
 
 





 
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