83 / 125
第二章
34 己の価値
しおりを挟む皇宮で暮らせ?
そんな大変な事をまるで臣下に仕事回して“おい、これ明日までにやっとけ”みたいな軽い感じで言わないでよ!
「殿下!まだ婚約もしてない状態で何で皇宮で暮らすのですか!?」
そんなの帝国の歴史上聞いたことがない。前代未聞の事態……いや珍事と言ってもいい。
「この前の模擬戦の後、お前の所に茶会の招待状が山ほど届いたらしいな。」
「はい……それで昨日はクロエ様にご相談をと……」
「お前が皇宮に入ってそいつらを呼べばいい。危険も減る。」
「え?」
私が皇宮に入って皆様をお招きする?
でもそれはいくら婚約者の立場だったとしても有り得ない事だ。皇宮で茶会を開き、それを仕切る権利があるのは皇籍を持つ女性だけだ。
「俺が許す。そして茶会は姉上か母上がサポートする。」
「えぇっ!?」
ど、どういう事?
いきなり過ぎて頭がついて行かない。
前世は婚約してからも侯爵邸で過ごし、皇宮へ通って少しずつ皇太子妃になる勉強をした。
それが当たり前の事なのに殿下は一体何を考えてるの?
「アマリール、そう難しく考える事はない。」
「陛下……。」
「ルーベルとの婚約が決まれば今度は茶会の誘いどころの騒ぎではなくなる。帝国中ありとあらゆる社交場から招待状が届くだろう。何ももう侯爵邸へ帰るなと言っている訳ではない。騒ぎが落ち着くまで皇宮で暮らせば安心だと言う事だ。」
「ふふ、これはルーベルが言い出した事なのよアマリール。ルーベルったらよほどあなたの事が心配なのね。」
「皇后陛下……。」
殿下が私を皇宮で暮らすよう進言を?
本当なの……?
殿下の顔を見ると相変わらず愛想もへったくれもない顔をしている。
……この先殿下と人生を共にするのならこれは殿下と……陛下達のお考えを側で学び知るいい機会だ。誰と付き合い、何を警戒すべきなのかも、きっと皆様方が幼い私に直接言う事は無いだろうが、側にいれば気付ける事もあるだろう。
(……でもまさか、お父様とこんなに早く離れる事になるなんて……)
「帰りたければいつでも帰れる。ただその度に俺との婚約の話が流れただの何だのと噂は立つだろうがな。」
「たまには帰ってもよろしいのですか……?」
「当たり前だ。だがお前が侯爵邸に帰る時は近衛騎士をつけるぞ。」
それなら何の問題もないわ。
何よ……殿下ったら優しいじゃない……。
「婚約の発表については卿ともよく相談しようと思うが、そう遠くないと思っておけ。」
「はい殿下。……でもあの……」
「何だアマリール?何か心配事か?」
「陛下……あの……」
「何だ?何でも言ってみなさい。今なら全員揃っているしな。」
私にはどうしても聞かなければいけないことがある。それも前世で出来なかった事の一つだ。
本当にいいのだろうか。でも皇帝陛下がいいと仰っているのだ。大丈夫だろう。よし。
「ルーベル殿下は私との婚約を心から望んでいらっしゃいますか?」
そう。前世で聞きたかった事……それは殿下はほんの少しでもこの婚約を望んで……そして喜んでくれていたのだろうか。
何だか色々おかしな事になってきてしまったが、殿下に少しでも躊躇う気持ちがあるのなら今はまだその時じゃないとそう思うのだ。
しかし殿下はまたしても驚愕の表情でこちらを見ている。
「突然申し訳ありません。でももしこの婚約に政治的意図しか無いのでしたら私は殿下とは婚約出来ません。だって……」
私は殿下の顔を見た。
ちゃんと自分の気持ちが伝わるように。
「……私は……自分の価値を少なからず理解しております。皆様が欲しいのは私ではなく、この身がもたらすクローネ侯爵領の富だと。」
この事実にはもう慣れてる。
何度も何度も色んな人からぶつけられてきた言葉だ。
でもなんでだろう。そんなつもりじゃないのに涙が出てくる。
「……子供の言う事だと笑って下さっても構いません。でも私は……私自身を心から望んで下さる方と添い遂げたいのです。」
馬鹿げた事を言っていると思われるだろう。
でも殿下の気持ちをきちんと聞いておきたい。“婚約するぞ”などという乱暴な言葉では納得出来ない。
けれど殿下は私を真っ直ぐ見つめたまま何も言わない。
私は情けなくも流してしまった涙を、まるで傷付けられた被害者のような顔をして拭くのは何だか違うような気がした。だから行儀は悪いのだがハンカチでゴシゴシと手早く拭い、すぐにしまった。
そして待った。
殿下が口を開いてくれるまで……。
48
あなたにおすすめの小説
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました
唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」
不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。
どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。
私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。
「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。
身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる