侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第二章

40 皇太子妃宮②

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 すぐ泣き止むと思っていたのだろう。
 殿下はしばらくの間私をよしよしと抱き締めてくれていたが、優しくされると更に泣きたくなるのが女子である。
 しかし十二歳の男子には限界というものがあったらしい。
 
 「それぐらいにしとけ!」

 叱られて我に返った私に“よし”と一言言うと、殿下は入口を振り返り叫んだ。

 「タミヤ!入れ!」

 (え?タミヤ?)
 おそらく殿下の言い付けで前もって近くで控えていたのだろう。タミヤは静かに入室し、私達に向かって礼をした。

 「早速これの支度を頼む。」

 「支度?何のですか?」

 「母上の茶会に顔を出す。さっさと着替えろ。」

 「えっ!?」

 顔を出す!?
 嫌よ!だって顔を出したらハニエル様に会っちゃうじゃないの!
 
 「殿下、こんなに遅れての参加は失礼にあたります。次回は必ず出席しますから今日のところは……」

 「俺と一緒にいたんだから別にどうという事もない。今日からここで暮らすのだから発表するのにもちょうどいい。」

 「発表?何をですか?」

 すると殿下は眉間に皺を寄せて私を睨んだ。

 「婚約に決まってるだろうが!お前この部屋はなんのための部屋だと思ってる?」

 「婚約の発表?だって私達まだ婚約もしていないのに?」

 「今日集まってるのは貴族の中でも特に皇家との関係が近い者達だ。前もって知らせるにはちょうどいい。」

 何で前もって知らせる必要があるのよ。
 してからじゃ駄目なの?

 「婚約する前に入宮したとあれば愛妾扱いされる。」

 愛妾!?
 殿下はまだ十二歳だっていうのに……いや、でもそれもすべては前例があるからこそよね。

 「じゃあこちらへは婚約してからお邪魔します。」

 「それは駄目だ。」

 「でも……殿下のためにもこういう事はきちんとしないと……!」

 (……頼むから今日の出席だけは勘弁して欲しいのよ……!!)
 祈るような気持ちで殿下の返事を待つ。
 すると

 「タミヤ!やっぱりもう少し出てろ!」

 「は?」

 何で?何なの殿下?
 しかしタミヤはなぜか必死に笑いを堪えながら入口の前で一礼し、静かに扉を閉めて行った。

 「どうしたのです殿下?」
 
 「どうしたもこうしたもない!」

 何でそんなにイライラしているのだろう。
 アマリールは不思議そうに下からルーベルの顔を見た。
 するとルーベルはさっきまで泣いていたせいで真っ赤な目が、今度はキョトンと自分を見ている姿に妙な気分になる。

 「お前は本当に訳がわからない。この俺に向かって好きだと言えとか一生側にいるとか言うくせに、こうやって準備を整えて迎えたら急に変な事にこだわって帰ろうとする。」

 (う……だってそれはハニエル様に会いたくないから……)

 「俺は早くお前を周りに認めさせたいんだ。」

 「殿下……」

 「そして俺のものに手を出すのは例え誰だろうと許さない。お前ももう覚悟を決めろ。俺は絶対にお前を逃がすつもりはない。」

 たった七歳の私にそこまで言ってくれるのか。まだリルと私への気持ちも整理がついていないのだろうにそこまで……。
 まさか殿下がここまで愛情深い人だったなんて……。

 「……覚悟は出来ています。私は殿下以外の人を愛したりしません。」

 「それならこの話は終わりだ。支度をしろ。いいな?」

 あぁ……きっとハニエル様と出会うのは必然なんだ。どうやっても変える事の出来ない出会いなんだ。
 でも前世とは違う未来が待っている。だって殿下が示してくれるから。“俺のものに手を出すな”と。
 それなら私が今すべきなのは茶会から逃げ出す事じゃない。ただ殿下の気持ちを喜び受け取る事。

 殿下がタミヤを呼ぼうと扉の方を振り向く。
 私は少し背伸びをして殿下の頬に手を伸ばし、それを止めた。

 「どうした?まだ何か言い足りないのか?」

 違うわよ。失礼ね。

 「殿下」

 「何だ」

 「キスして下さい」

 「はぁ!?」

 「もう既にかなりご存知だと思いますが私は殿下が大好きなのです。」

 「お、おう。」

 「だからこれからは嬉しい事や殿下をとても愛おしく思った時はキスしたいです。それが駄目ならせめてハグ。」

 「お、お前……女子の慎みってやつはどこに落としてきた……!」

 「慎みならあります。けど口下手で態度の悪過ぎる殿下とずっと気持ちを通じ合わせるには言葉だけでは不可能です。それに行動が大事だと言ったのは殿下ではありませんか?今私は殿下をとても愛おしいと思ったので抱き締めたいのです。駄目ですか?」

 手を広げ、ハグの構えで待ってみるが殿下は顔を赤くしたまま口をパクパクさせている。

 「し、したければすればいいだろ!?」

 「同意がなければしても切ないものです。」

 ほれほれ、さっさとあなたも手を広げなさい。そう言うように手を広げたままパタパタさせてみる。
 すると殿下は案外早く諦めてくれて、真っ赤になりながら私に向かって手を広げた。

 「ふふっ」

 ぽふっと殿下の胸に飛び込んでぎゅうっと抱き締めると、遠慮がちな腕が私の背に回った。
 大丈夫。これから起こるだろう事ももう怖くない。だって殿下がいるんだもの。
 殿下の温かさが身体中に染み渡った頃、私はすっかりやる気を取り戻していた。

 「では支度を致しますね!」

 「は!?」

 「“は!?”って何ですか?支度しなくてもいいのですか?」

 「そうじゃなくてお前さっき……っ、もういい!!」

 殿下はぷりぷり怒りながら部屋を出て行ってしまった。
 (何でまた怒り出しちゃったのかしら……。)
 アマリールにはルーベルの再びの不機嫌の理由がさっぱりわからなかった。
 そして入れ替わりに入って来たタミヤはやっぱりまだ笑いを堪えていた。
 


 「うふふ……さあアマリール様、お支度を致しましょう。殿下が揃えて下さったお品が待っておりますよ。」



 
 




 
 
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