侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第二章

43 茂みの中の天使

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 殿下からの直々の言葉だったが出席者達の顔色を見ると誰もが納得できていないようだった。
 しかしそれでも誰も疑問を口にしようとしないのは、多分相手が殿下だからだ。
 殿下の気性の荒さは有名だ。ここで彼の心象を悪くするのは得策ではないと誰もが知っているのだろう。
 最初に誰かが鳴らした拍手を皮切りに、茶会の参加者からは次々と二人に対する賛辞が贈られた。
 それと同時に二人を取り巻くような人だかりができ、皆がアマリールを値踏みするような目で見てきた。
 その視線の遠慮の無さにアマリールは内心うんざりしていたがしかし

 「邪魔をして悪かったな。俺達はこれで失礼する。」

 それを知ってか知らずかルーベルは人だかりに向けてそう言い放ち、アマリールの手を引いて歩き出した。アマリールは慌ててマデリーンの顔を確認したが、息子の行動に特に怒っている風でもない。
 どちらかと言えば機嫌が良さそうに微笑んでいる。

 「で、殿下?本当によろしいのですか?」

 「何が?」

 「こんなに早く失礼してしまってです。」

 「仮病使って欠席しようとしてた奴が何を言うか。」

 (ゔっ!!)
 確かにそれはそうなのだが出席したらしたでこんなに早く退出するのも気が引けるものだ。
 (そうだ……!!)
 アマリールは去り際に会場を見回した。
 しかしふわふわの金髪はどこにも見えない。
 (いないわ……と言う事はやっぱり迷子になっているのね……)
 あの日彼を誰よりも先に見つけたのは私だ。場所は知ってる。あとはそこさえ避けて皇太子妃宮まで帰ればいいだけの話だ。
 
 「殿下?今日はお行儀よく回廊から帰りましょ?」

 「どうした。珍しい。」

 「め、珍しいって……それが普通ですしそれに……」

 「それに?」

 「……殿下が選んでくれたドレスを汚したくないから……」

 半分は口実だがもう半分は本音だ。
 彼にドレスを選んで貰うのは二度目だ。一度目は色々突然すぎて、それを喜んだり大切にしたり出来なかった。

 「大切にします。」

 殿下は何も言わなかったがその足は回廊へ戻る道へ向かっていた。
 何もかもうまく行っているように思えた。
 なのに……


 「うっっ……ぐすっ……」

 皇太子宮が目の前に見えた時だった。 
 庭園の方から泣き声がする。

 「何だ?」

 (まずい……)
 男の子か女の子か……まだ声の境目がない小さな子供のすすり泣く声を、アマリールより先にルーベルの耳が拾ってしまった。

 あと少し。ほんの少しなの。
 お願い神様。どうか見逃して。

 「おい!誰だ?」

 しかしそんなアマリールの願いも虚しくルーベルが茂みに向かって声を掛ける。
 
 「出て来ないつもりか?おい誰か……」

 その時だった。人を呼ぼうとしたルーベルの声に茂みの向こうから反応が返ってきた。

 「……ルーベル……?」

 弱々しく可愛らしい声と共に出てきたのはふわふわの金の髪。
 (……ハニエル様……!!)
 
 「ハニエル?何やってんだお前?」

 「ルーベル!!ルーベルぅぅうわぁん!!」

 小さな男の子は勢いよく飛び出してきてルーベルに抱き付いた。

 「おまっ、顔がぐっちゃぐちゃだぞ!」

 「うぅぅぅ!!僕、迷っちゃって…うぅ…」

 ルーベルはハンカチを出し、ハニエルの顔面を覆う涙なのか鼻水なのかわからないものを拭いてやる。
 (あれ……?この光景……あれ?)
 ここにいるのは間違いなく迷子になったハニエル様だ。そして過去の通りなら涙で濡れた顔を拭いてあげるのだ……

 「ルーベルぅぅう!!」

 「わかったから!!泣くのやめろ!!」

 しかもハニエル様が迷った先に辿り着いたのはこんな場所ではなかったはずだ。

 少しずつ、少しずつ二度の人生とは違う事が起き始めている。

 これはいい事なのだろうか。
 私はどう判断したらいいのかわからないまま、殿下に縋り付いて泣くハニエル様を黙って見ているしかなかった。

 

 

 
 
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