93 / 125
第二章
44 初めて
しおりを挟む結局ハニエル様は皇太子宮の侍女に連れられて茶会の会場へと戻って行った。
私は不思議に思っていた事を殿下に尋ねようと二人でお茶を飲む事を提案したのだった。
「ハニエルと俺の関係?従兄弟だが何だ。」
いや、それはよく存じ上げているんです。
「何だ。ハニエルがそんなに気になるのか?」
「なりませんよ。ただハニエル様は陛下の実弟であるアルザス閣下のご子息ですよね?……お二人の仲が良好であればいいなと思っていました。」
昔はこれほど仲が良かったなんて知らなかったからびっくりはしたけど。
私が聞きたいのはもっとこう……なんと言うか……なんとも言えないわね。
(だってまだ私達は幼すぎる……。)
殿下とハニエル様が揉め始めるのはもっとずっと先の事だ。
けれどそれもどうなるのかわからなくなってきた。
(だってハニエル様、私に何の反応も示さなかったもの。)
ハニエルは自分に声を掛けてくれたルーベルにひたすら感謝し、アマリールには軽く一礼したくらいだった。
(名前も聞かれなかったわ……。あれが前世なら私はハニエル様に名前を聞かれ、会場に戻った後仲良くお茶を飲んで、そして別れた後すぐにお礼の手紙が侯爵邸に届いたのよね。)
手紙はバスケットと共に届いた。中にはたくさんのお菓子が詰められていて、思わず微笑んだのをよく覚えている。
……前世と同じタイミングで出会ってしまったけど、私がこのままハニエル様に近付きさえしなければ彼が私を好きになる事もないのでは?
そうだ。何しろ前世の私には殿下との記憶が欠落していた。しかし今の私は記憶ならあっちもこっちもわんさかあるし、今は殿下との関係を再構築中で何となくいい雰囲気でもある。
(幸せオーラ全開の私達ならつけ入る隙もないんじゃない?)
皇太子には婚約者がいて、二人は政略のためじゃなく愛し合って婚約を結んだのだと周知されていたら?さすがのハニエル様だってそれでも尚挑んで来るようなおバカではないはず。
(よし!方針は決まったわ!)
とりあえずハニエル様がすくすく素直に育つこの幼少期の間に私達の関係を揺るぎないものにして、彼にはそれをしっかり理解して貰ってよそに目を向けて貰おう。
(そうよ……私達だけじゃない。今度こそハニエル様だって幸せにならなくちゃ……。)
「何を百面相してる。不気味だぞ。」
「ぶ、不気味!?」
人がこんなに真剣に考えてるっていうのになんて言い草よもう!
「安心しろ。父上はまだまだ長生きする。腹黒だからな。父上が生きている限り叔父上とは揉め事もそれほど起こりはしないだろう。あの兄弟は格が違い過ぎるし叔父上もそれをよくわかってる。」
「殿下……」
私が聞きたかった事とは少し違うけど、でも……私と会話してくれてる。
(本当に……話す事は大切な事だわ。)
だってこんな的はずれな回答が返ってきたって心がじんわり温もって行く。だってその理由は一つしかない。それは……
「私の不安をすべて取り除こうとしてくれてるんですね。嬉しい。」
「なっ!馬鹿っ!そんな訳ないだろ!!」
馬鹿げた話と言いながら無視せずにいてくれる。
「殿下の言葉は私の心を元気にしてくれるんです。だから……」
「だから……?」
私は椅子から立ち上がり、殿下の側へ寄った。
少しだけ眉間にシワを寄せる殿下の頬を両手で包むと、瑞々しい肌が手に吸い付くよう。
「だから約束して下さい。」
「……何を?」
殿下の瞳は真っ直ぐに私を見つめている。
「この唇から決して嘘を吐き出さないで。他の人にはいいです。でも私にだけは……私にだけは絶対にやめて……?」
殿下はしばらく何も言わなかった。
無理だとでも思っているのだろうか。
殿下の頬に手を添えたままじっと待つと
「……わかった……」
いつもより少し小さな声で返事が帰ってきた。
アマリールは嬉しそうに微笑み、そして少しだけ切なそうな顔をしてゆっくりとルーベルの唇に自身のそれを重ねた。
拒否されるかと思った唇は、一度離れたあとまたすぐに重なる。
初めての彼との口付けは、とても優しく温かかった。
46
あなたにおすすめの小説
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました
唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」
不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。
どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。
私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。
「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。
身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる