侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第三章

1 四年の歳月

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 やり直しの人生を始めてから四年の月日が経った。
 初めて会ったあの日以来ずっとハニエル様は私に対し何の興味も示さない。
 何もないに越した事はないのだが、構えていた分何だか肩透かしを食らったような気分だ。
 私は皇宮と侯爵邸を行き来しながら皇太子妃となるための日々を送り、もうすぐ十一歳になる。そして来月は殿下の十六歳の誕生日。成人の儀が取り行われる日がやってくる。


 「また帰るのか?」

 政務が終わって私の部屋にやって来た殿下は、侯爵邸へ帰る準備にいそしむ私にそうボヤいた。

 「はい。殿下の成人の儀に我がクローネ侯爵家から贈らせていただくお祝いの品の確認をしなければなりませんから。」

 「わざわざお前が行かなくてもクローネ卿が完璧に準備するだろう?」

 殿下は今も昔も変わらず一言多い性格のまま成長している。
 
 「駄目です!私だってちゃんと殿下のお祝いに参加したいんです。」

 殿下は“ふん”と溜め息をつく。

 「ただ十六になるだけで別にめでたくも何ともない。」

 (もう……可愛げがないんだから。)
 ルーベルとアマリールの仲は良好だ。
 この四年の月日の中で何度も会話して喧嘩して仲直りをした。
 だからなぜ今彼がこんなにも可愛げのない態度をとるのかもアマリールはよく知っていた。
 アマリールは支度の手を止めルーベルの側へ寄る。

 「殿下……そんなに私が帰るのが淋しいのですか?」

 アマリールの問い掛けにルーベルはふいっと目を逸らす。
 (逃げたわね。)
 そう。彼は自分に都合の悪い質問には全力で逃げるしか手は無いのだ。なぜならあの日私と約束したから。
 “決して嘘はつかない”と。

 「淋しいなら淋しいと言ってくれればいいのに。」

 もともと高かった殿下の背はこの四年で更に伸び、身体つきも少年から大人のものへと変わり始めている。
 (椅子に座っていてくれてよかったわ)
 そしてアマリールは目の前のひねくれ者を小さな身体で抱き締める。
 (……殿下……また逞しくなった……)
 日に日に大人の男性へと変わって行く彼を見ているとどうしてもルーを思い出してしまい、どうしようもないくらいに切なくてたまらなくなる時がある。

 「そんなにきつく抱き締めてどうした……お前の方が淋しいんだろう?」

 悔しいけどその通りだ。
 でも私は殿下とは違ってそれを恥ずかしがったり隠したりしないの。

 「……うん……淋しいです……。」

 私が素直にそう言うといつも彼は満足したように抱き締めてくれる。

 「そうか……。気を付けて行けよ。いつも通りアドラーを付けるから。」

 「……嫌です……。」

 「何でだ。」

 「何で私がそう言うか殿下だって知ってるでしょ?」

 出発前に必ずと言っていいほど情事の残り香をプンプンとさせてくる世界一教育によろしくない男。それがアドラー公子だ。
 誰彼構わず女に手を出す男は嫌われて然るべきだが、彼は不思議なほど憎めない男である。
 それは彼が……相手の心に私欲があろうが無かろうが、一度自分に向けられた愛はもれなくすべて拾い上げ、最終的に煩悩と呼べるものをすべて昇華させて来る見事なお手前だからだ。
 それに彼の忠義は本物で、色々お世話になってきたからこそ恩義も感じている。
 がしかし、たかが十一歳の私を下半身の事情で色々悩ませないでいただきたい。

 「……あいつが一番強い。だから行かせる。」

 アマリールは盛大に溜め息をつく。
 しかしそれも実はルーベルを喜ばせている事をアマリールは知らない。
 アドラーに心惹かれない女などいない。
 それをよく知っているアドラー自身もルーベルの目の前で冗談とはいえ何度もアマリールに甘い言葉を囁いた。
 しかしアマリールはそれに見惚れるどころか歯牙にもかけない。むしろ遠ざけようと自分に懇願してくるのだ。

 「お前の身の安全のためだ。我慢しろ。」


 アマリールからは見えなかったが、ルーベルの顔は優しく微笑んでいた。
 

 

 
 
 
 
 


 

 





 

 
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