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第三章
2 出発
しおりを挟む「お久しぶりです妃殿下!」
爽やかに挨拶する色男からはやはりイヤラシイ事してきました的な雰囲気がムンムンと漂っている。
「お久しぶりですアドラー公子。それとまだ妃ではありませんのでどうぞ名前で……アマリールとお呼び下さい。」
「いえいえ、馴れ馴れしく名前なんて呼んだ日には殿下に殺されてしまいます。あれ?そう言えば殿下は?」
「ふふ、殿下はいつも来ないじゃありませんか。」
照れ屋な彼はいつも見送りには来ない。
(ただ来たくないだけかもしれないけど…)
「まったく……相変わらず女性の扱いがなっていない。先が思いやられます。」
いや、公子に心配されるなんて逆に心外だと思ってるはずです。
皇宮の入口には既にアドラー公子と第一騎士団から派遣された数名の護衛が待っていた。
「いつも申し訳ありません。皆様、今回もよろしくお願いいたします。」
私の挨拶に礼を返してくれるのは、この四年の間に何度もお世話になっているメンバーだ。
「こんな美女のための仕事なら大歓迎ですよ。さあお前達、行くぞ!」
そして私達は皇宮を出発したのだった。
*
「アマリール様はもう出発されたんですか?」
二年前から正式にルーベルの側近に任命されたゲイルはいつもより若干無口な主に尋ねた。
「ああ。アドラーを共に行かせた。」
「エクセルと!?殿下……アマリール様が心配じゃないんですか?」
幼馴染の暴れん坊な下半身をよく知るゲイルは、ルーベルが婚約者の護衛にエクセルを選んだのが不思議で仕方ない。
「さすがのアドラーもあれの前では無力だ。だから何も心配することはない。それに……」
「それに?」
「アドラーより強くて、死んでも女を守り抜く奴は他にいないだろ?」
「……幼馴染だけになんだか微妙な気分になりますが、その通りです。」
エクセルなら例え自分のものでない女性でも命懸けで守るだろう。そしてなんと言っても強い。
「もう少し下半身も落ち着いてくれればいいんですけどね。」
するとルーベルは少し考えるようにしたあと
「……見境が無いのとは少し違う。それもアドラーにはアドラーなりの理由があるんだろう。」
そう呟いた。
どう考えても見境がないのだと思うゲイルだったがそれ以上は何も言わなかった。
「それともうすぐ殿下の成人の儀ですが、こちらが招待客のリストになります。」
ゲイルはびっしりと貴族の名が記された紙を差し出した。
「……多いな。こんなに必要か?」
「今回ばかりは世継ぎの君の成人を祝う特別なものですから……この式典から外された貴族は必ず反発してきます。だから逆に呼ばない方が面倒なんですよ。」
皇太子の成人はそれほど特別なものではないが何せルーベルは世継ぎの皇太子。次代の皇帝が成人するのだ。その場に立ち会う事は貴族にとって大きな意味がある。
「式典の間アマリール様はどのようになさいますか?」
「……いつも通りでいい。」
「いつも通りと申しますと?」
「俺の側に控えていればいいだろう。」
「ではその後の宴は?」
「それも同じだ。」
「……多分今回は嫌な話も聞く事になると思いますよ。」
成人前という事もあり、ルーベルは今まで宴席などはアマリールと共に先に退出する事が多かった。しかしこれからはそういう訳には行かなくなる。
その場にアマリールを同伴すれば、ルーベルに群がる女達から心無い事も言われるだろうし、娘を差し出そうと躍起になる貴族達から疎まれもする。
「アマリール様だけ早々に退出させるのはいかがですか?」
「……あれが途中で望んだらそうさせる。今目を背けたところでいつかは通る道だ。」
「わかりました。ではそのように。」
ゲイルは式典の打ち合わせのためにルーベルの部屋を退出した後、廊下で一人溜め息をついた。
(本当はもう一つ聞かなきゃいけない事があるんだけど……これじゃとても聞けないな。)
ゲイルは父である宰相エメレンスより“ルーベル殿下は皇妃を迎えるつもりがあるのか”を聞いてくるよう言われていた。
しかしアマリールを自分の側にと言われた瞬間、ゲイルはそれを今聞くのは得策ではないと感じた。
(殿下は陛下とは違う。そろそろ皆もそれをよく知るべきだ。)
アマリールを皇太子妃宮に住まわせるほど大切にしているというのに、それでもルーベルへ娘を妃にと打診する者は後を絶たない。
「何も無ければいいけど…」
ゲイルの呟きは誰もいない回廊に消えた。
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