95 / 125
第三章
2 出発
しおりを挟む「お久しぶりです妃殿下!」
爽やかに挨拶する色男からはやはりイヤラシイ事してきました的な雰囲気がムンムンと漂っている。
「お久しぶりですアドラー公子。それとまだ妃ではありませんのでどうぞ名前で……アマリールとお呼び下さい。」
「いえいえ、馴れ馴れしく名前なんて呼んだ日には殿下に殺されてしまいます。あれ?そう言えば殿下は?」
「ふふ、殿下はいつも来ないじゃありませんか。」
照れ屋な彼はいつも見送りには来ない。
(ただ来たくないだけかもしれないけど…)
「まったく……相変わらず女性の扱いがなっていない。先が思いやられます。」
いや、公子に心配されるなんて逆に心外だと思ってるはずです。
皇宮の入口には既にアドラー公子と第一騎士団から派遣された数名の護衛が待っていた。
「いつも申し訳ありません。皆様、今回もよろしくお願いいたします。」
私の挨拶に礼を返してくれるのは、この四年の間に何度もお世話になっているメンバーだ。
「こんな美女のための仕事なら大歓迎ですよ。さあお前達、行くぞ!」
そして私達は皇宮を出発したのだった。
*
「アマリール様はもう出発されたんですか?」
二年前から正式にルーベルの側近に任命されたゲイルはいつもより若干無口な主に尋ねた。
「ああ。アドラーを共に行かせた。」
「エクセルと!?殿下……アマリール様が心配じゃないんですか?」
幼馴染の暴れん坊な下半身をよく知るゲイルは、ルーベルが婚約者の護衛にエクセルを選んだのが不思議で仕方ない。
「さすがのアドラーもあれの前では無力だ。だから何も心配することはない。それに……」
「それに?」
「アドラーより強くて、死んでも女を守り抜く奴は他にいないだろ?」
「……幼馴染だけになんだか微妙な気分になりますが、その通りです。」
エクセルなら例え自分のものでない女性でも命懸けで守るだろう。そしてなんと言っても強い。
「もう少し下半身も落ち着いてくれればいいんですけどね。」
するとルーベルは少し考えるようにしたあと
「……見境が無いのとは少し違う。それもアドラーにはアドラーなりの理由があるんだろう。」
そう呟いた。
どう考えても見境がないのだと思うゲイルだったがそれ以上は何も言わなかった。
「それともうすぐ殿下の成人の儀ですが、こちらが招待客のリストになります。」
ゲイルはびっしりと貴族の名が記された紙を差し出した。
「……多いな。こんなに必要か?」
「今回ばかりは世継ぎの君の成人を祝う特別なものですから……この式典から外された貴族は必ず反発してきます。だから逆に呼ばない方が面倒なんですよ。」
皇太子の成人はそれほど特別なものではないが何せルーベルは世継ぎの皇太子。次代の皇帝が成人するのだ。その場に立ち会う事は貴族にとって大きな意味がある。
「式典の間アマリール様はどのようになさいますか?」
「……いつも通りでいい。」
「いつも通りと申しますと?」
「俺の側に控えていればいいだろう。」
「ではその後の宴は?」
「それも同じだ。」
「……多分今回は嫌な話も聞く事になると思いますよ。」
成人前という事もあり、ルーベルは今まで宴席などはアマリールと共に先に退出する事が多かった。しかしこれからはそういう訳には行かなくなる。
その場にアマリールを同伴すれば、ルーベルに群がる女達から心無い事も言われるだろうし、娘を差し出そうと躍起になる貴族達から疎まれもする。
「アマリール様だけ早々に退出させるのはいかがですか?」
「……あれが途中で望んだらそうさせる。今目を背けたところでいつかは通る道だ。」
「わかりました。ではそのように。」
ゲイルは式典の打ち合わせのためにルーベルの部屋を退出した後、廊下で一人溜め息をついた。
(本当はもう一つ聞かなきゃいけない事があるんだけど……これじゃとても聞けないな。)
ゲイルは父である宰相エメレンスより“ルーベル殿下は皇妃を迎えるつもりがあるのか”を聞いてくるよう言われていた。
しかしアマリールを自分の側にと言われた瞬間、ゲイルはそれを今聞くのは得策ではないと感じた。
(殿下は陛下とは違う。そろそろ皆もそれをよく知るべきだ。)
アマリールを皇太子妃宮に住まわせるほど大切にしているというのに、それでもルーベルへ娘を妃にと打診する者は後を絶たない。
「何も無ければいいけど…」
ゲイルの呟きは誰もいない回廊に消えた。
54
あなたにおすすめの小説
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる