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第三章
3 久し振りの我が家
しおりを挟むアマリール一行が無事侯爵邸に辿り着くと、中は殿下への祝いの品で溢れ返っていた。
「す、すごい数ね。」
山のように積まれた箱を前にしてアマリールは思わず後ずさった。そしてその後ろではアドラーと護衛の騎士達も驚いている。
「いやー、さすがクローネ侯爵家だ。これほどの用意が出来る家なんてこのエレンディールでは他に類を見ないよ。まあ……贈る相手が溺愛する愛娘の夫となる男だから尚更だろうけどね。」
そう言ってアドラーはウィンクをする。
クローネ侯爵家は財力があると散々言われてきたものの、前世でも今生でもこういった事は父に任せきりだったため、実際にそれを目にする事が無かった。
そして父には浪費癖もない。身に着けている物は一流品ばかりだが、それは“良い物を長く”が彼のモットーだから。
(でもこれで皆が我が家の財力について口にするのも納得だわ。確かにちょっとすごすぎるもの……。)
これはとても一貴族に用意できるものではない。
しかし父は権力者に媚を売り擦り寄るような人間ではない。これもすべては自分のためなのだと思うと胸が締め付けられるような愛を感じる。
「アマリール!お帰り!」
娘が帰ったと知り、急いで走って来たのだろう。クローネ侯爵は息を切らしながらアマリールに駆け寄り抱き締めた。
「お父様、ただいま帰りました。」
「うん、嬉しいよ。最近は帰ってくる頻度が減ったから尚更ね。」
父親の可愛い恨み言にアマリールも困ったように笑う。
いつの間にかルーベルのいる皇宮での生活が当たり前になってしまい、実家から足が遠のいていたのは事実だ。
「アドラー公子、そして皆さんもいつもありがとうございます。」
「お久しぶりですクローネ卿。こちらこそ今日からまたお世話になります。」
侯爵邸にアマリールが滞在する間、アドラーと数名の護衛も生活を共にする。
しかしそれももう四年目に突入し、皆侯爵邸での暮らしにも慣れたものだ。
「それにしてもすごい量ね、お父様。」
アマリールは目の前の品々を見ながら言う。
「はは、びっくりしただろう?でもお前の大事な方の晴れの日だからね。張り切っちゃったよ!」
クローネ侯爵は“後で一緒に確認しよう”と言い、アマリール達を応接室へと案内した。
**
頬は紅潮し、お茶を運ぶ手が震える我が家の侍女。飛んで火に入る……ではなく飛んでアドラーに入る夏の侍女と言ったところだろうか。
「いつもありがとう。君の淹れてくれるお茶はとても美味しいよ。」
屈託のない笑顔でとどめを刺された侍女をアマリールは気の毒そうな目で見送る。
「公子は本当にマメですね。我が家の侍女にまで気を配って下さって。」
アマリールの言葉にクローネ侯爵も頷く。
「本当だね。公子がいらっしゃるだけで家の中が華やぐよ。皆も張り切っちゃうし。」
確かに。公子がいると屋敷の中が活気付く。
その様子は華やぐと言うよりも色めき立つと言った方が適当かも知れない。
アドラーが我が家に出入りすると聞いた時、アマリールは何よりも先に侍女達の心配をした。
皇宮とは勤める人数も屋敷の規模もまるで違うこの狭い空間の中、侍女達が一人の男を取り合ったとしたらそれはもう地獄絵図だ。
けれどアマリールの心配をよそにアドラーは自邸の侍女達にはまったく手を付けない。
当たり障りのない程度に褒めてそれで終わりなのだ。
一度不思議に思い本人にそれとなく聞いてみたところ
『うん。皇宮でしかしないよ。』
そんな答えが帰ってきた。
まさか皇宮の侍女にしか燃えない性癖なのか……皇宮の制服マニアか……それはもう色々考えたがどれも不正解だった。
『そうだな……妃殿下にはまだ難しいかもしれないけど……そこでする事で意味が生まれるのを待っていると言った感じかな。』
『???』
やはり今でもさっぱりわからないが、とりあえず自邸の侍女の貞操は確保されたのでよしとしたのだった。
「今回の式典は規模が大きい。大丈夫かいアマリール?」
「そんなにすごいの?」
「ああ。距離的な問題もあって普段皇宮から足が遠のいている貴族も今回ばかりは皆集まって来る。相当な数になるよ。」
前世の私は殿下の成人の儀を父と共に貴族席から見守っていた。
今回殿下は私をどうするつもりなのだろう。
「お前はまだ幼いしこれは殿下の成人の祝いだ。きっと式典には殿下一人で臨まれるだろう。だから安心しなさい。」
まさか殿下が私と共に式典に臨もうとしているなどとは夢にも思わない私達は、紅茶片手に呑気にそんな事を話していたのだった。
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