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第三章
4 最後の機会
しおりを挟む「アマリール、これ。」
目録とにらめっこしながら殿下への祝いの品を確認していると、父が小さな箱を差し出した。
「出来たのね!?」
「うん、早く開けてごらん。」
上品なビロードの箱を開けるとそこには金で出来た台座に黒と菫色の石が並んだカフリンクス。
「素敵……思った以上だわ。」
「うちの職人が作ったんだ。当たり前だよ。」
お父様は少し得意気だ。
殿下の成人のお祝いに、何かプレゼントをとずっと考えていた。
けれど殿下は何でも持っているし、気に入った物以外は身に着けない人だから随分悩んだ。
けれど彼が考えて作ってくれたあの銀色の鍵を思い出したのだ。
彼はずっと私の瞳の色と同じ宝石をはめ込んだ鍵を使っている。
だから私達の色を一つにした物……カフリンクスなら毎日使う物だし身に着けてくれるんじゃないかと思ったのだ。
「ちゃんと殿下の名前も彫ってあるよ。」
台座の裏には殿下の名前が流れるような字体で刻まれている。
「お父様ありがとう!それと……これを作って下さった方にもお礼を伝えて?」
「わかってるよ。それにしてもアマリールは殿下の事が本当に大切なんだね。お父様は淋しいよ……。」
「お父様ったら。……でもそうね。殿下はとっても大切な人だわ。」
この四年で特別な何かがあった訳ではない。
毎日側にいれば当たり前のような喧嘩や会話を重ねて来ただけだ。
けれどそれは今までのどの人生でも出来なかった事。
毎朝の“おはよう”と、たまにしか言えないけど寝る前の“お休み”が愛おしい。
こんな気持ちは初めて知った。
「……アマリール……。殿下の成人に際してお前と話しておかなければならない事がある。」
珍しく改まった態度の父に自然と背筋が伸びる。
「どうしたのお父様?」
「エレンディールの皇子は成人前の婚姻は認められていない。たとえその事実があったとしてもだ。」
それはよく知っている。
たとえ身体の関係があろうが子を儲けようが成人前の事はすべてお遊び。我が子であっても血の繋がりは認められない。
そう。子供のイタズラとして片付けられてしまうのだ。
だから現皇帝アヴァロン陛下も結婚前はその法に守られていたため、あくまで噂だが大変な数の女性に手を出していたという話だ。
(そのせいで泣いた女性がどれほどいたのかしら……。)
貴族社会に限らず世の中はまだまだ男尊女卑の風潮が色濃い。
女が泣かされる事の何と多い世の中か。
「今までは殿下も成人前という事で、お前の存在にそれほど目くじらを立てる者はいなかった。だがこれからは違う。」
平和に暮らせるのは殿下の成人までの間だということを言いたいのだろう。
でもそれはよくわかっているつもりだ。
「政争に巻き込まれ命を狙われるかもしれない。それでもお前は殿下の元へ行くのか?」
父の目はいつになく真剣だ。
「いいかいアマリール。今ならまだ引き返せる。無理だと思うかい?いいや、できるよ。我がクローネ侯爵家はたくさんのものを引き換えにする事になるがしかし……そんな事はお前の身の安全に比べれば大した物ではない。」
「……お父様……。」
きっと本心なのだろう。
そしてここが殿下から身を引く最後の機会なのだ。
「……ありがとうお父様。」
アマリールは心から感謝していた。
忠告してくれた事にではない。
愛する娘が争いに巻き込まれて行くかもしれない。それは親にとって身を切られるように辛い事だろう。
それなのにこんな幼い娘に自分の行く道を決めさせようとしてくれているのだ。
心から送り出そうとしているのだ。
「お父様……私、お父様の娘に生まれる事ができて本当に幸せよ。」
「アマリール……。」
「……私は子供だけど、殿下の事を愛してるの。」
だから迷ったりなんてしない。できない。
「必ず幸せになるわ。約束します。」
そう。一人でじゃない。殿下と二人で必ず幸せになってみせる。
「でもたまに家出はしてくるわね。」
アマリールの言葉にクローネ侯爵は笑う。
「もちろん大歓迎だ。家出は何回してもいいものだよ?その度に大切なものが何かわかるからね。」
知ってる。だってここに帰って来る度に嬉しいけど何だか淋しくて物足りなくなる。そして殿下に会いたくなるから。
「なら殿下にもたまに家出してもらうわ。そしたらここに泊めてあげてねお父様?」
「その時はうちの職人自慢のベッドを用意しておくよ。」
アマリールは父の腕に抱かれながら思いきり笑った。
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