侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中

文字の大きさ
97 / 125
第三章

4 最後の機会

しおりを挟む






 「アマリール、これ。」

 目録とにらめっこしながら殿下への祝いの品を確認していると、父が小さな箱を差し出した。

 「出来たのね!?」

 「うん、早く開けてごらん。」

 上品なビロードの箱を開けるとそこには金で出来た台座に黒と菫色の石が並んだカフリンクス。
 
 「素敵……思った以上だわ。」

 「うちの職人が作ったんだ。当たり前だよ。」

 お父様は少し得意気だ。
 殿下の成人のお祝いに、何かプレゼントをとずっと考えていた。
 けれど殿下は何でも持っているし、気に入った物以外は身に着けない人だから随分悩んだ。
 けれど彼が考えて作ってくれたあの銀色の鍵を思い出したのだ。
 彼はずっと私の瞳の色と同じ宝石をはめ込んだ鍵を使っている。
 だから私達の色を一つにした物……カフリンクスなら毎日使う物だし身に着けてくれるんじゃないかと思ったのだ。

 「ちゃんと殿下の名前も彫ってあるよ。」

 台座の裏には殿下の名前が流れるような字体で刻まれている。

 「お父様ありがとう!それと……これを作って下さった方にもお礼を伝えて?」
 
 「わかってるよ。それにしてもアマリールは殿下の事が本当に大切なんだね。お父様は淋しいよ……。」

 「お父様ったら。……でもそうね。殿下はとっても大切な人だわ。」

 この四年で特別な何かがあった訳ではない。
 毎日側にいれば当たり前のような喧嘩や会話を重ねて来ただけだ。
 けれどそれは今までのどの人生でも出来なかった事。
 毎朝の“おはよう”と、たまにしか言えないけど寝る前の“お休み”が愛おしい。
 こんな気持ちは初めて知った。

 「……アマリール……。殿下の成人に際してお前と話しておかなければならない事がある。」

 珍しく改まった態度の父に自然と背筋が伸びる。

 「どうしたのお父様?」

 「エレンディールの皇子は成人前の婚姻は認められていない。たとえその事実があったとしてもだ。」

 それはよく知っている。
 たとえ身体の関係があろうが子を儲けようが成人前の事はすべてお遊び。我が子であっても血の繋がりは認められない。
 そう。子供のイタズラとして片付けられてしまうのだ。
 だから現皇帝アヴァロン陛下も結婚前はその法に守られていたため、あくまで噂だが大変な数の女性に手を出していたという話だ。
 (そのせいで泣いた女性がどれほどいたのかしら……。)
 貴族社会に限らず世の中はまだまだ男尊女卑の風潮が色濃い。
 女が泣かされる事の何と多い世の中か。

 「今までは殿下も成人前という事で、お前の存在にそれほど目くじらを立てる者はいなかった。だがこれからは違う。」

 平和に暮らせるのは殿下の成人までの間だということを言いたいのだろう。
 でもそれはよくわかっているつもりだ。
 
 「政争に巻き込まれ命を狙われるかもしれない。それでもお前は殿下の元へ行くのか?」

 父の目はいつになく真剣だ。

 「いいかいアマリール。今ならまだ引き返せる。無理だと思うかい?いいや、できるよ。我がクローネ侯爵家はたくさんのものを引き換えにする事になるがしかし……そんな事はお前の身の安全に比べれば大した物ではない。」

 「……お父様……。」

 きっと本心なのだろう。
 そしてここが殿下から身を引く最後の機会なのだ。
 
 「……ありがとうお父様。」

 アマリールは心から感謝していた。
 忠告してくれた事にではない。
 愛する娘が争いに巻き込まれて行くかもしれない。それは親にとって身を切られるように辛い事だろう。
 それなのにこんな幼い娘に自分の行く道を決めさせようとしてくれているのだ。
 心から送り出そうとしているのだ。

 「お父様……私、お父様の娘に生まれる事ができて本当に幸せよ。」

 「アマリール……。」
 
 「……私は子供だけど、殿下の事を愛してるの。」

 だから迷ったりなんてしない。できない。

 「必ず幸せになるわ。約束します。」

 そう。一人でじゃない。殿下と二人で必ず幸せになってみせる。

 「でもたまに家出はしてくるわね。」

 アマリールの言葉にクローネ侯爵は笑う。

 「もちろん大歓迎だ。家出は何回してもいいものだよ?その度に大切なものが何かわかるからね。」

 知ってる。だってここに帰って来る度に嬉しいけど何だか淋しくて物足りなくなる。そして殿下に会いたくなるから。

 「なら殿下にもたまに家出してもらうわ。そしたらここに泊めてあげてねお父様?」

 「その時はうちの職人自慢のベッドを用意しておくよ。」


 アマリールは父の腕に抱かれながら思いきり笑った。

 




 
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる

狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。 しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で……… こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...