侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第三章

17 破廉恥アドラー捕獲大作戦②

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 自分に向かって突進してきたアマリールにゲイルはたじろいだ。
 いつも綺麗に手入れされている髪はボサボサで、ドレスのあちこちにはどこを通ってきたのか葉っぱや綿埃が付いている。

 「一体その格好は……どうされました?」

 努めて冷静に聞くとアマリールは有無を言わせぬ勢いでゲイルの手を掴み

 「とりあえずこっちへ!!」

 そう言うと庭園の方へゲイルを引っ張って走ったのだった。


 *


 「……エクセルを捕獲したい?それは一体どういう趣向ですか?」

 別に自分は“捕獲”なんて言葉は使っていないのだが、幼馴染みのゲイルからするとアドラーを捕まえるにあたっては“捕獲”という言葉が適切だと捉えているのだろう。

 「趣向も何もないです。とにかくアドラー公子に大切な話があるんです。ゲイル様なら私を殿下に見つからないよう公子に会わせる事が出来ますよね?」

 「確かに出来ますが……殿下にお願いするのが一番早いのではありませんか?」

 (そんなのわかってるわよ!でもそれが出来ないから頼んでるんじゃない!!)
 アマリールは焦りからか苛立っていた。

 「殿下に嘘がバレた時の事を想像してみて下さい。私もそうですが、アマリール様と言えど無傷じゃすみませんよ。」

 わかっている。万が一ルーベルにバレたらいいとこ謹慎、悪ければ……考えたくもない。

 「それでもどうしてもお会いしたいんです!!お願いしますゲイル様!!私に出来る事なら何でもしますから!!」

 アマリールは深く深く頭を下げた。
 ゲイルからはしばらく何の反応も返ってこなかったが、やがて諦めたような溜め息が頭上から聞こえた。

 「……わかりました。アマリール様がこの皇宮で我儘を仰るなど初めてですから……きっと余程の事情があるのですね。」

 「ゲイル様!!」

 「ですが今日はいけません。やるからには徹底的に殿下の目を欺く必要がある。」

 「ではどうすれば?」

 「決行は明日。それまでに侍女達にも口裏を合わせるよう言って下さい。そして今夜は殿下の機嫌を取っておく事も忘れずに。」

 「で、殿下の機嫌を取る!?」

 そんなのどうやって!?
 しかし慌てふためくアマリールにゲイルは真顔で言う。

 「殿下もお年頃ですから、初々しい恋人同士がやるような事を一通りこなせば上機嫌で朝を迎える事でしょう。」

 「ちょ、ちょっと待って下さい!他の手段はないのでしょうか!?」

 まるで教師に手を挙げ質問する生徒のように聞くアマリールだったがゲイルからは無情な答えが返って来る。

 「ありません。アマリール様、先日殿下と仲良くされませんでしたか?」

 「仲良くって……」

 もしかしてこの前ルーベルと同じベッドで一緒に眠った日の事を言っているのだろうか。
 確かに“仲良く”だがあれでルーベルの機嫌がよくなったとは考え難い。

 「いえ、あの日の殿下は凄かった。十分な睡眠が取れたお陰か休憩もろくに取らずに日が暮れるまで仕事に打ち込んでらっしゃいました。明日も同じ状態になっていただけばこの作戦は成功したも同然ですし、滞った案件が片付き私としてもとても助かります。」

 一石二鳥にしてしまうあたりはさすが宰相の息子だとアマリールは感心する。しかしそのために払う犠牲は己の羞恥心だ。
 だが背に腹は代えられない。アマリールは覚悟を決めた。

 「わかりました……何が何でも殿下のご機嫌を取って見せます!!」

 するとゲイルはにっこりと微笑み

 「では明日。殿下が執務室へ来られるタイミングで使いの者をそちらへ向かわせます。後はその者の指示に従って下さい。」

 そう言ったのだった。


 **


 (機嫌を取る……この前みたいに一緒に眠る?……いやその前にこの前の夜は殿下のお膝にも座ったわ……うーん……)
 ゲイルから言われた“初々しい恋人同士”のあれこれについてアマリールは悩んでいた。
 何せ以前の生では初々しい期間など存在せずいきなり結合してしまった間柄。
 悩むより当たって砕けろだと思いもしたのだがこんな日に限ってルーベルの帰りは遅い。待ち時間が長くなるほどその決心も揺らいで来る。

 「や、やっぱり初々しい恋人のする事となると……キ、キスとかした方がいいのかしら……」


 「何をブツブツ言ってる。」

 「ひゃあっ!!殿下!!」

 急に背後から聞こえた声に心臓が口から出そうになった。
 
 「殿下!どうしてここに!?」

 ドクドクとうるさい胸を押さえながら聞くとルーベルはソファに腰を下ろし口を開く。

 「お前の宮には珍しくこんな遅くまで明かりがついていたから見に来た。迷惑だったか?」

 「いえ、そんな事……」

 むしろ願ったり叶ったりだ。
 しかしさっきの自分が相当怪しかったのだろう。ルーベルは訝しげにこちらを眺めている。
 アマリールは息を大きく吸って心を落ち着かせるとルーベルの座るソファに寄った。

 「殿下こそこんな遅くまでご政務ですか?」

 顔を見るとやはり目の下の隈も復活している。
 アマリールは少しでも何かしてあげたい気持ちになりルーベルの後ろに回る。そしてこり固まっているだろう肩を揉み解そうと手をあてた。親指の腹で肩から肩甲骨に向かって押して行くと、柔らかくも弾力のある肌の感触とは裏腹にゴリゴリと硬いものが当たる。
 (相当こってるわね……)
 えいえいと根気強く押して行くとルーベルは気持ちよさそうに息を吐く。
 それが何だか嬉しくて、アマリールは小さな手に力と心を込めて解していった。
 すると後ろだから顔は見えないが、“スーッ”と寝息のようなものが聞こえるので、起こさないように前へ回るとルーベルはあどけない表情で眠っていた。
 冷えてはいけないと思い急いで毛布を取りに行き、優しく身体にかけてやるとルーベルの身体は背もたれから少しずつソファに倒れ込むようにして横になった。
 アマリールはルーベルの側で床に座りその端整な顔立ちを眺めた。

 「とっても綺麗……」

 青年と呼ぶにはまだ少し早いその顔は中性的でもあり美しい。
 
 「ふふ……気負う必要なんてなかったわね。」

 こんなに可愛い顔で寝られてはもう何も出来ない。

 「私の側が殿下の安心できる場所で嬉しい……」

 アマリールは眠るルーベルの頬に優しく触れ、そっとキスをした。
 柔らかな唇。もう少しだけこのままでいたくなる。
 
 「殿下……愛してます……たとえ何度生まれ変わっても私には殿下だけ……だから明日、ほんの少しだけ殿下に内緒でいけない事をするけど、どうか許して下さい。」

 こんな事を眠る彼に言うのはずるいし仕方ないのはよくわかってる。でも良心が咎めるからなのか、勝手に言葉が口から出て行く。

 「……あの二人にはどうしても幸せになって欲しいの……。自分達だけがよければそれでいいなんてとても思えない。そしてそれがあなたのお姉様なら尚更……」

 だからお願い……許して殿下……
 その言葉は最後まで紡ぐ事ができなかった。
 なぜならルーベルに寄り添って一緒に眠ってしまったから。



 安らかな寝息を立てるアマリールの身体が宙に浮く。本当はずっと起きていたルーベルの腕に抱かれて

 「……許してやる……でも帰ってきたら覚えてろよ……」

 その呟きはアマリールには届かなかった。


 そして翌朝。床で寝たはずのアマリールは温かな温もりの残るベッドで目覚めたのだった……
 



 
 

 

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